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Welcome To School Festival  作者: shirasu
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10月3日

 時刻は〇時二七分に差し掛かろうとしていた。


 天気は晴。雲は一つもなく、俗に田舎と称される地域に位置している鮭咲県雨露市曇鯉町では月と星が輝いていた。


 月の光は雨露市を覆いつくすように広がり、それに伴い発生する影をより濃いものとしていた。


 先述したとおり雨露市はほどほどの田舎であり〇時を回ると人影が地面に描かれることが珍しいのだが、一〇月三日の今日だけは今までのくすぶりを覆す程の大盤振る舞いで地面に影が月の光のお陰で伸びていた。


 場所は雨露市内では有名な滝坂と呼ばれる急な坂。周りには木々が生い茂っている。


 そして坂に映し出されている影をもう少し詳しく説明すると、坂の上からは一〇の人影が見え下の方には二つの人影が確認できた。


 二つの影の本体は脚と腕を大きく振りながら走っていた。


「くっそおおおおおおおお‼」

「冗談じゃねええええええええ‼」


 その絶叫は風に運ばれ周りの木々を揺らし、静まりきった雨露市滝坂一帯に響き渡る。ただ表現としては響くという綺麗なものではなく、ビビグと濁点をつけて表記した方が近いかもしれない。


 背中側からみて右にいる男、海野は左の男に疲労感をぶつける。


「おい、なんだよこの展開! 聞いてないぞ!」


 ぶつけられた疲労感をそのまま跳ね返すのは左にいる男、滝藤。


「お前が不用意にズカズカ行くのが悪いんだろ! 人の家にお邪魔するときは慎ましくいろよ! 友達の家じゃねぇんだよ!」


 色々言い合っているがそのスピードは落ちることなく転がるように坂を下っていく。


 罵り合っている二入の後方に見える一〇の人影は対照的に坂を下るという行為に足がついてきていないようだった。下手に力を抜くと勢いに押され転がりかねず、ここが坂の恐ろしいところだ。


「なんであんなにうるさいのにスピード落ちないんだよ」


 一〇の中の一人は息を切らしながらつぶやいた。


「俺たちが歳とっただけかもしれないな」ガハハともう一人も息が切れている。


 その二人に続くように他の者も呻き始め、はじめはバタバタと揃わない足音が今や息も足音もそろい、終いにはゆるい部活動のランニングと化していた。


「頭首になんて報告するよ…」


 飼い主に怯える犬のような声を出す男の声で懐かしき青春の日々に思いを馳せ始めていた集団の肩がビクッと一回跳ねた。沈黙が続き、集団の周りには需要のないおっさんたちの二酸化炭素が垂れ流される音だけがビビいていた。


「もうこのまま適当に散歩して時間潰さないか?」


 一人の提案に他は頷いた。頷くしかなかった。他に選択肢はなかった。


「じゃあ今日は俺が告白する前に女の子にフラれていた話を聞かせてやる」


 今年で四十二になるM字禿げの男は胸を張って話しだした。


 翌日の雨露市では深夜に変な男たちがうろついていたという噂がたった。原因はおっさん達が息を切らす一〇分程前に遡らなければならない。

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