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ファーブラ オクトドノス  作者: 風見鶏充
4/5

お空の国

 ブラウたちがお家に帰ると、アグスとネグルは睨み合っていました。プルスはあたふたしながら、アグスとネグルの顔を交互に見ていました。

「まだいたのかネグル! いつになったら出ていくんだ!」

「どうしてぼくが出ていかなきゃいけないんだ!」

「これは王となるぼくの命令だぞ! もしそれまでにぼくの前から出ていかないようなら、この歯で噛み殺してやる!」

 アルバが声を上げました。

「やめてアグスお兄ちゃん! どうしてネグルお兄ちゃんがそこまできらいなの? プルスお兄ちゃんや私にも優しくしてくれることもあるのに、どうしてネグルお兄ちゃんには意地悪ばかりするの?」

 アグスは何も言わずに、ただまっすぐネグルを睨んでいます。ネグルも目線を逸らすことはしませんでした。

「……アルバは優しいね」

 ネグルは優しい目で、アルバを眺めました。アグスは気に入らない様子で、その間に割り込みます。

「アルバの優しさにつけこもうったってそうはいかないぞ! お前みたいなこ汚いやつ、ぼくの目に入らなきゃいい! 真っ黒黒の汚い色して、兄弟なんて一番の恥だ!」

「いい加減にしろ!」

 ネグルがアグスに飛びかかりました。二人は互いに歯や爪を立て、土ぼこりを舞いあげてとっくみあいました。

「やめるんだ二人とも!」

 ブラウの声も虚しく、引きはなそうとしたココもはねのけられ、プルスはおろおろするばかり。アルバは金切り声をあげて泣き出しました。騒ぎを聞きつけたペトル神とサピュラ神が、お家から出てきました。

「やめなさい! 二人とも!」

 ペトル神が大声を上げると、かみなりの音が響きました。アグスとネグルは、痛々しい傷のついた顔のまま、けんかをやめて、両親の前にしゃがみました。

「いったいどうしたと言うの? どうしてこんなことを?」

 サピュラ神は穏やかに、しかし、静かな怒りをもってたずねました。アグスはネグルを指差して

「ネグルが先に噛みついてきたんだ!」

 と言い訳を始めます。

「アグスがいつもぼくをいじめるんだ! 今日もぼくを汚いって……」

「もうよろしい」

 サピュラ神の目は冷ややかでした。

「アグス、ネグル。あなたたちはどちらもかけがえのない私たちの子どもです。もし私たちがお空の国へ行ったなら、あなたたちきょうだいはどうやってこの国を守るのですか?」

「お空の国?」

 ネグルが首をかしげます。ペトル神は頷きました。

「そう。我々はこの世界でなすべきことをなしとげたら、お空の国での役割がある。そうなればお前たちがこの世界でなすべきことをなす。それを繰り返して子々孫々繁栄していくのだよ」

 ペトル神は遠いお空を眺めました。

「それなのにお前たちのその様子を見ていたら、お空にも行けんのだよ」

「やだよぉ! パパもママもずっといっしょじゃなきゃやだ!」

 プルスがサピュラ神に抱きつきました。

「大丈夫。お空の国に行っても、私たちはずっと見守ってるわ。よいですね。きょうだい仲良く。きっとその大切さが分かるようになるから」

「でもお母さん……」

 アグスが何か言おうとしたのを、サピュラ神は首を振って止めました。

「アグス。あなたは王様になるの。王様はみんなに平等でなければいけません。誰かをひいきしたり、誰かをおとしめることもしてはならないのです。そしてネグル。その王様に歯や爪を向けるのは一番あってはならないこと。それは大切なものを守るときだけに使いなさい」

 ネグルは不服そうに頷きました。

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