お空の国
ブラウたちがお家に帰ると、アグスとネグルは睨み合っていました。プルスはあたふたしながら、アグスとネグルの顔を交互に見ていました。
「まだいたのかネグル! いつになったら出ていくんだ!」
「どうしてぼくが出ていかなきゃいけないんだ!」
「これは王となるぼくの命令だぞ! もしそれまでにぼくの前から出ていかないようなら、この歯で噛み殺してやる!」
アルバが声を上げました。
「やめてアグスお兄ちゃん! どうしてネグルお兄ちゃんがそこまできらいなの? プルスお兄ちゃんや私にも優しくしてくれることもあるのに、どうしてネグルお兄ちゃんには意地悪ばかりするの?」
アグスは何も言わずに、ただまっすぐネグルを睨んでいます。ネグルも目線を逸らすことはしませんでした。
「……アルバは優しいね」
ネグルは優しい目で、アルバを眺めました。アグスは気に入らない様子で、その間に割り込みます。
「アルバの優しさにつけこもうったってそうはいかないぞ! お前みたいなこ汚いやつ、ぼくの目に入らなきゃいい! 真っ黒黒の汚い色して、兄弟なんて一番の恥だ!」
「いい加減にしろ!」
ネグルがアグスに飛びかかりました。二人は互いに歯や爪を立て、土ぼこりを舞いあげてとっくみあいました。
「やめるんだ二人とも!」
ブラウの声も虚しく、引きはなそうとしたココもはねのけられ、プルスはおろおろするばかり。アルバは金切り声をあげて泣き出しました。騒ぎを聞きつけたペトル神とサピュラ神が、お家から出てきました。
「やめなさい! 二人とも!」
ペトル神が大声を上げると、かみなりの音が響きました。アグスとネグルは、痛々しい傷のついた顔のまま、けんかをやめて、両親の前にしゃがみました。
「いったいどうしたと言うの? どうしてこんなことを?」
サピュラ神は穏やかに、しかし、静かな怒りをもってたずねました。アグスはネグルを指差して
「ネグルが先に噛みついてきたんだ!」
と言い訳を始めます。
「アグスがいつもぼくをいじめるんだ! 今日もぼくを汚いって……」
「もうよろしい」
サピュラ神の目は冷ややかでした。
「アグス、ネグル。あなたたちはどちらもかけがえのない私たちの子どもです。もし私たちがお空の国へ行ったなら、あなたたちきょうだいはどうやってこの国を守るのですか?」
「お空の国?」
ネグルが首をかしげます。ペトル神は頷きました。
「そう。我々はこの世界でなすべきことをなしとげたら、お空の国での役割がある。そうなればお前たちがこの世界でなすべきことをなす。それを繰り返して子々孫々繁栄していくのだよ」
ペトル神は遠いお空を眺めました。
「それなのにお前たちのその様子を見ていたら、お空にも行けんのだよ」
「やだよぉ! パパもママもずっといっしょじゃなきゃやだ!」
プルスがサピュラ神に抱きつきました。
「大丈夫。お空の国に行っても、私たちはずっと見守ってるわ。よいですね。きょうだい仲良く。きっとその大切さが分かるようになるから」
「でもお母さん……」
アグスが何か言おうとしたのを、サピュラ神は首を振って止めました。
「アグス。あなたは王様になるの。王様はみんなに平等でなければいけません。誰かをひいきしたり、誰かをおとしめることもしてはならないのです。そしてネグル。その王様に歯や爪を向けるのは一番あってはならないこと。それは大切なものを守るときだけに使いなさい」
ネグルは不服そうに頷きました。