アグスの兄弟
アグスには、同じ毛色の弟たちが三人いました。鋭い爪のブラウ、耳が良く、遠くまで聞こえるココ、すばしっこくて甘えん坊のプルス。
同じく双子の弟、ネグルもいましたが、真っ黒な色の弟を、アグスは毛嫌いしていました。いつも同じ毛の色の弟たちや、かわいい白毛の妹アルバと、草の間を駆け回って遊んでいました。
「ほらほら、みんな置いてくぞ!」
アグスは先頭を走ります。甘えん坊のプルスが、アグスと並びました。
「ぼくのほうが速いぞ!」
「それじゃあ、あの高い草まで競争だ!」
アグスとプルスは、更に足を速めます。ココは疲れはてて、その場で止まってしまいました。
「もうだめだよ。疲れちゃった」
アルバがココに寄りそうと、元気づけました。
「ほら、もう少しよ。あそこについたら休みましょう」
ココはまた、走り出しました。
「ついたよお兄ちゃん! ぼくの勝ちだ!」
プルスは喜んで、自慢げな顔で兄たちに振り返りました。
「あと少しだったのになぁ!」
アグスは悔しさのあまり、じだんだを踏みました。続いてブラウ、そしてココとアルバも追いつきました。
「よし、次はおうちまで競争だ!」
「アグス兄さん、ココがもう疲れてる。少しぐらい休んでいこうよ」
ブラウの提案に、アグスはココを睨みました。
「情けないなあ! プルスだってまだこんなに元気なのに、ココはもう走れないのか?」
「もう、いじわるね! お兄ちゃんならもっときょうだいには優しくしなきゃ」
アルバがむっとしてアグスをたしなめました。しかしアグスは聞きません。
「ぼくはお兄ちゃんだぞ! 父さんや母さんの次にえらいんだ! もし逆らったら、この歯が黙ってないぞ!」
アルバも黙っていません。
「それならそのお父さんとお母さんに言いつけてやるんだから! ネグルお兄ちゃんのこと、すごく心を痛めてるのよ!」
アグスはアルバに歯を向けました。
「ぼくはあんなやつ、兄弟だとは思ってない! あんな真っ黒黒のおどおどしたやつ、強いぼくと同じなもんか!」
アグスは、ふんと鼻を鳴らして、プルスを連れて走り出してしまいました。怒って歯を鳴らすアルバを、ブラウがなだめます。
「アルバ、アグス兄さんはぼくたちの言うことなんか聞かないよ。ネグル兄さんみたいになりたくなかったら、黙っていよう」
「女の子の私がいなかったら困るのはお兄ちゃんたちのほうよ。私、やっぱりアグスなんかを王様にしたくない!」
長男であるアグスは、やがてペトル神のあとをついで王様になります。そうなればただ一人の女の子として、アルバがお妃になるのです。
「アルバ、でもこの世界の決まりなんだよ。父さんと母さんの言いつけは守らないと。ここにはぼくたちしかいないんだ。助け合っていかなきゃいけない」
ブラウにさとされながらも、アルバは納得がいきませんでした。
「帰ろう。ひょっとしたらまた、弟か妹が出来てるかもしれないよ」
ブラウに招かれ、ココもアルバも後をついていったのでした。