嫉妬、“あの亡霊”、恩送り
クレンがシノメに気を取られていると、今度はサノンがクレンにむかってくる。本人の意思かはわからないが、特段、抵抗していないようにみえた。クレンは、今の今まで抑えていたが、咄嗟に近づかれ、あっけにとられていたふいをつかれたので、喉元まで悪霊の爪が近づいた瞬間に、シノメめがけて、自分の手もとから気を射出した。
「はあっ!!!」
《落ち着いてくれ!!!》
「!?」
気は、彼女の意識に直接メッセージを届けた。するとサノンは、何がおかしいのか、突然笑いだすのだった。
「フフ、フフフフ」
「……?」
「あなたはいいわよね」
「??」
「あなたは、そうやって、自分の気持ちを直接口にしなくても、人に伝えることができるし、人の気持ちにだってきっと敏感で、私なんかより」
クレンは、サノンの瞳から涙が流れているのをみて、動揺し、後ろに倒れこんでしまった。爪がクレンの真横に走り、体の一部―腹部か胸部当たりを何かがグサリと貫通、横切ったのを感じた。たしかにそれは、ズシリ、という重い衝撃とともにグサ!!という物が刺さる音をたてたかのようにおもえた。
「君は―後悔しているのか」
サノンはクレンから目を背けた。
「今更遅い、あなたには何もできないし、私にも何もできない、ただ心の優しい人を、姉妹をがさつに扱ったことから、すべては始まった、彼女の恨みはもう止める事はできない、私は彼女を、救えなかった、“あの亡霊”も」
「亡霊??」
「彼女は、あなたに憧れていたのよ、けれどあなたは、彼女の闇に気づかなかった、けれど、その代わりに彼女の気持ちを聞いてあげている亡霊がいたのよ、それは“恩返しをする亡霊”となのった、自分を忘れていたけれど、ある人のおかげでそれを思い出した、だからその恩を、別の人に返すのだといっていた」
「ちょ、まって、それって……話を!!俺の話を!!」
「もう遅い、あなたなら私たちを止められるとおもったけれど、その力がないなら、死んで」
残酷な、冷酷な、光のともっていない目をして、サノンは―まるで仮面を外した時の委員長のような人を人とも思わず、見下したような真っ黒の目をして、ツメをふりあげた。
「グサッ」
「カハッ!!!」
クレンは意識が遠のき、死を覚悟したのだった。その時だった。
(クレン様……)
「!?」
「クレン様!!しっかり!!私は、私はここにいます」
暗闇の中で痛みと輪郭のない自分と世界を感じ、しかし、その暗闇の中で、声が聞こえた。
「俺は、俺はふさわしくなかった、退魔師にも、ヒーローにも……」




