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第6話 水瀬家の秘密

 学校のクラスメイトに知られたくない秘密が誰しも一つや二つはあると思う。

 ハルトの場合、ユウナの悪癖(あくへき)がそれだった。


「俺が先に風呂入るよ」

「ほ〜い、いってら〜」


 タブレット端末を畳んだハルトは、脱衣所へ向かい入浴剤を一つつまんだ。

 湯船に投入してから服を脱いでいく。


 我が家のお風呂はちょっと大きい。

 毎日利用するものだからお金をかけよう、と父親が提案したのである。

 成人男性でも足を伸ばせる広さがあって、ハルトも気に入っている。


「小説書いたら疲れた〜。肩が凝るんだよな〜」


 首まで沈めてゆっくり深呼吸する。

 近ごろ夜更かしが続いているせいでウトウトしていると、脱衣所の方からユウナの気配がして、パチンと浴室の電気が消えた。


「ハルくん、入るよ〜」

「おい……」


 脱衣所の照明はついているから完全に真っ暗というわけじゃない。

 人や物の位置は分かる感じである。


 ユウナは全裸のまま入ってくると、バスチェアに腰かけて体をシャワーで洗い始めた。

 おっぱいやお尻のシルエットは丸分かりであり、いつも視線のやり場に困ってしまう。


 昔からそうだ。

 ユウナは入りたい時に風呂に入る。

 家族の誰かが入浴していても関係ない。

『二人で一緒に入った方が省エネじゃん』という正論になっているか分からない理屈を振りかざしてくる。


 ユウナは愛用のシャンプーハットを取り出して頭にかぶせた。

 十七歳のくせに泡が目に入ったら嫌なのである。

 しかもロリ体型のせいで似合っている。


「漫画描いたら疲れた〜。肩が凝るんだよね〜」

「いい加減、俺が入っている時に入浴するのやめなよ。来年は大学生になっているかもしれないしさ」

「いいじゃん、別に。ガス代が安くて済むよ」

「そりゃ、そうだけれども……」


 ハルトの語尾が弱くなる。

 あまり文句を言うと自分だけ意識しているみたいで今日も裸のユウナを受け入れてしまう。


「私って胸だけムダにデカいからさ。ハルくんの二倍くらい肩が凝るんだよね」


 ユウナは湯船に入ってくると向かい合うように体育座りした。

 こぼれたお湯がタイルに波をつくり、香りつきの蒸気が煙幕のように立ちのぼった。


「ねぇねぇ、私の肩を揉んでよ」

「はぁ? 今ここで?」

「お返しに私がハルくんの肩を揉んであげるからさ」

「仕方ないな〜」

「頼みます」


 ユウナは体の向きを反転させてハルトの方へ倒れてきた。

 お風呂で肩を揉み合う高校生の姉弟なんて世界に一組だろうな、と思いつつ手を伸ばす。


「また一段と凝っているね」


 姉の肩は丸っこくて表面がプニプニしている。


「でしょ〜。同じポーズを続けるのが良くないらしいけれども、作業に熱中しちゃうと時間の経過を忘れちゃうんだよね」

「少し分かる気がする」


 首の付け根から肩甲骨のあたりを念入りに指圧しておいた。

 顔は見えないが、とろけそうな笑顔を浮かべているのは想像できる。


「いや〜。持つべきものはお風呂でマッサージしてくれる弟だね」

「それ、学校でいうなよ。良俗(りょうぞく)に反している匂いがプンプンするから」

「別によくない? 姉弟の距離が近いって意味でしょう」

「近すぎるって意味だよ」


 関節のところを親指でグリグリしてやると、イテテテテテと悲鳴が上がった。

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