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第5話 可愛らしい仕草

 カレーを完食し、食器を洗ったハルトは、タブレット端末を持ってきて趣味の執筆に取りかかった。


 突飛すぎるユウナだが、弟として感謝している一面もある。

 このタブレット端末を無償で譲渡してくれたのがそれだ。


『私は新しいの買うから、今使っているやつをハルくんにあげる。要らなかったらリサイクルショップに売っちゃってよ』と。


 中古で売ったら一万五千円くらい価値があると思う。

 状態もきれいで、特に性能が劣化しているわけじゃない。


『本当にもらっていいの?』


 と聞いたら、


『あれ? 要らないの? 執筆用に欲しいんでしょ』


 と返された記憶がある。

 タブレット端末は嬉しかったし、『執筆用に』という部分が特に嬉しかった。


 ハルトは小説の続きに取りかかった。

 WEB上で長編作品を連載しており、三千文字くらい書いたら一話アップするようにしている。


 新人コンテストに応募しているわけじゃない。

 小説家になりたい夢があるわけでもない。


 絵は描けない。

 でも、キャラやストーリーを考えるのは好き。


 とある作家さんが『小説なら誰でも書ける』と言っていたのを思い出し、国語のテストには自信があったので、中一の頃からラノベじみた作品を書くようになった。


 これが思いのほか大変だった。

 普通の文章を書くのって、普通の学生には無理なのである。

 書いたり消したりを繰り返しているうちに一時間で一文字も進まないこともザラにあった。


『投稿サイトにアップしてみたら』


 サイトの存在を教えてくれたのもユウナだった。


『ハルくんの小説面白いし。誰かに見せたらモチベーションも上がるでしょ』


 人生初の短編作品を評価してくれた人が一人だけいて、それは目の前のユウナだったりする。


 ハルトは一時間くらい執筆した。

 トイレに行って、お茶を一口飲み、作業の続きに取りかかる。

 ユウナはずっと作業に没頭しており、日中とは別人みたいに凛々(りり)しい顔でペンを動かしている。


 姉弟が二人。

 食後のリビング。

 一言も会話せず作業する。


 誰かと一緒の空間にいるのに、無理して話す必要がないというシチュエーションは、ハルトに一種の心地良さを与えてくれる。


「背景描くの面倒くさいな……フリー素材を貼り付けよっと……これをこうして……」


 集中するとユウナは美人顔になる。

 目がパッチリしており、まつ毛だってドキッとするほど長い。

 本人は無意識だろうが、髪を耳に引っかける仕草も可愛らしい。


 向かいの姉から視線を外して、タブレット端末を何回かタップしたハルトは「ん?」と顔をしかめた。

 自分の作品に新しい感想コメントが付いているのだ。


 久しぶりである。

 ドキドキしながら開いてみる。


『投稿者 :水瀬ユウナ』

『投稿内容:クソワロチww』


 おいっ⁉︎ とその場で突っ込んだ。

 足を伸ばしてユウナの椅子を蹴りまくる。


「人の感想欄、勝手に汚してんじゃねえよ! 俺の感動を返せよ!」

「あっ、気づいた? 作品ページに『感想コメントお待ちしております!』みたいな一文があったからさ。つい書いちゃったんだ」

「これ、感想じゃないから! もっと書くことあるでしょう! そもそもWEB上で本名を公開するなって!」

「はいはい、ごめんよ〜」


 まったく反省していないユウナは舌をぺろりと出して笑った。

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