第2話 宿命のライバル対決
家が近づくにつれて棒アイスは体積を減らしていった。
すると問題になるのは最後の一口の行方だろう。
「残りはハルくんが食べなよ」
「じゃあ、もらおっか」
ハルトはふと思う。
この前も、その前も、最後の一口をもらった記憶がある。
姉としての優しさだろうか?
そんなバカなと笑いかけた時、ユウナが答えを教えてくれた。
「棒アイスってさ、最後の部分が食べにくいんだよね」
「あ〜、分かるような、分からないような」
「私って小顔だから。お口も小さいの」
にぃ〜っと笑顔を向けられる。
ハルトとユウナは血がつながっていない。
いわゆる義理の姉弟というやつだ。
ハルトは父に似て、骨格がしっかりしており、つり目がちで、肌は白くもなければ黒くもない。
ユウナは母に似て、手足のサイズは小さめで、目尻がトロンと垂れており、肌は白く透き通っている。
姉弟なのに少しも似ていないね。
なんて笑い合った記憶がある。
(親が再婚して十年が経つのか……)
ハルトが木の棒をくわえて信号待ちしていると、向こうから歩いてくる初老の女性が見えた。
近所の門倉さんだ。
豆柴のハナタロウを連れている。
「また会ったな、あいつ」
豆柴の方もユウナに気づき、二つの目でロックオンしてくる。
「おいおい、やめなって。犬相手に喧嘩腰とかみっともないよ」
「うるさい。元はといえば向こうから勝負をふっかけてきたんだ。私は悪くない」
信号が青になった瞬間、戦いのゴングが鳴った。
バウバウバウ!
ゔぅぅぅ〜! ぐるぐる!
バウバウ! バウ! バウバウバウ!
しゃ〜! ぎゃうぎゃう! ゔぅぅぅ〜!
人間 vs 豆柴の威嚇バトルである。
門倉さんは温厚な人だから「こらこら、ハナタロウ、人に向かって吠えちゃダメだろう」と愛犬に注意してくれる。
ハルトも愛犬……ではなく珍獣ユウナの腕を引っ張っておいた。
小さい子供が見ているだろう、と。
「お買い物ですか?」
「ええ、夕飯の買い出しです」
「ハナタロウって人様には吠えないけれども、なぜかユウナちゃんにだけは吠えるのよね」
「あはは……」
ぺこりと頭を下げて別れる。
ハナタロウも鼻を鳴らしてから不服そうに去っていく。
「よっしゃ! あいつ、私より先に目をそらしやがった! 今回もラルフに勝った!」
「ラルフじゃねえって。ハナタロウだって。他人ん家のペットを勝手に改名するなよ」
「いいじゃん。ラルフの方が強そうだし」
「理由になってねぇ」
犬をライバル視するということは、彼らと同じ土俵に立っていることに、この姉は気づかないのだろうか。
悲しすぎて指摘する気にもなれないが。
「豆柴に勝って楽しいの?」
「うん! メッチャ楽しい! 人間様の強さを分からせてやった気分になる! ざまぁ味噌こんにゃく! 私に勝つなんて三年早い!」
「いい性格しているね」
「でしょ〜」
縁石ブロックを平均台みたいに渡っていくユウナの横顔は、夕日を吸い込んでキラキラと輝いており、まっすぐに前だけを見つめていた。