第97話 夜のバーベキューはとっても楽しいですわ!
そして夕方。
「だいぶ掘り尽くしちゃったね……」
洞窟の中は来た時よりも明らかに広くなっていますわ。
宝石が密集していたエリアはあらかた掘り尽くしてしまったようで、もう掘ってもほとんど宝石は出てきませんわ。
「ちょうどいいですし、今日はお開きにしてここで一泊して、明日下山いたしましょうか」
というわけでワタクシ達は暑い洞窟を出て、比較的涼しい森の中で一泊することにしましたわ。
「火山にはあまりモンスターさんがいないようですし、今夜は持ってきた食材を使って晩ごはんにしますわよ」
ブロックベーコン。カボチャ。人参。タマネギ。それにパンと調味料。これを焼いて、今夜はバーベーキューですわ!
ワタクシが道具を出すと、ユクシーさんが火を起こしたり手際よく準備を始めてくださいますわ。
「ねぇ、アタシも何か手伝うことあるかしら?」
手持ち無沙汰になっているアリシアさんが、気まずそうにユクシーさんに尋ねますわ。やさぐれたようなぶっきらぼうな態度を取ってらっしゃいますけれど、真面目な性格をしてらっしゃいますわね
「じゃあ、包丁で野菜を切って欲しいな。できる?」
「ふん、任せときなさい。 厨房なんて立った事ないけど、アタシにかかればそのくらい楽勝よ」
そういってアリシアさんは勢いよくカボチャに包丁を振り下ろすと。
”ゴロンッ”
まな板の上でカボチャが転がりますわ。
包丁はカボチャの皮の表面を削っただけ。そしてカボチャは、転がって地面に落ちてしまいましたわ。
「あ、ちょっと! 待ちなさいよ!」
運の悪いことにカボチャは下り坂の方へ転がってしまい、そのままどんどん転がっていきますわ。
「いけませんわ。”タイムストップ”ですわ!」
ワタクシは時間を止めて、なんとかカボチャを回収しますわ。
「くううぅ……こんなはずじゃなかったのに……」
「どうやら野菜を切るのはアリシアさんには難しかったようですわね。ここはワタクシに任せてくださいまし」
「むぅ。アンタ、料理したことあるの?」
「ありませんわ。ですがご安心くださいまし。侯爵家にいた頃、料理ができる様子が楽しみでよく厨房に遊びにいっていましたの。シェフが料理するところは沢山見て来ましたわ」
ワタクシは洗ったカボチャをまな板の上におきますわ。
「カボチャはこう、ゆっくりと体重をかけながら力を込めて切るのですわ」
“スパァン!”
大きな音がして、カボチャごとまな板が真っ二つになってしまいましたわ。力を込めすぎたのでしょうか?
「アンタも同じレベルじゃないの」
「……失礼しましたわ。大丈夫、何かあった時のために、調理器具は全部2セット揃えておりますの」
ワタクシは真っ二つになってしまったまな板をそそくさとアイテムボックスにしまい、新しいものを取り出しますわ。
「ユクシーさん、ワタクシ達に刃物の扱いは向いておりませんわ。何か、他のお手伝いはありますでしょうか?」
「ええっと……火も起こしたし他には……そうだ、これは大事なお仕事なんだけどね。モンスターが邪魔しにこないようにあたりを見張ってて欲しいんだ」
「わかりましたわ」
「任せときなさい。バッチリ見張っとくから」
ワタクシとアリシアさんは、少し離れた場所に移動して周囲の見張りを始めますわ。
「役立たずのワタクシ達に形だけでもお仕事を下さって。ユクシーさんは優しいですわね」
「アンタはまだ荷物運びしてる分まだマシよ。アタシは何もできてないのよ。食後の片付けは全部アタシがやるから。このままじゃ、アタシ本当に役立たずのままじゃない」
モンスターさんの気配がない森を、しばらく2人で虚しく眺めていましたわ。
そして、ユクシーさんの食事の準備が完了しましたわ。
「「「いただきます!」」」
ワタクシ達は談笑しながらバーベキューを楽しみますわ。
「あら? アリシアさん、先程から野菜を取っていなくありませんこと?」
「べ、別にいいでしょそれくらい。苦手なものは苦手なのよ」
「好き嫌いは良くないよアリシアさん。私が食べやすいように簡単に料理してあげるね」
そう言ってユクシーさんが、手際よくベーコンと細切れの野菜を使ったトマトのミネストローネを作って下さいましたわ。
ユクシーさんがミネストローネが載ったスプーンをアリシアさんの口元に運びますわ。
「はい、あーんしてね」
「ねぇ、これはどういうこと……?」
アリシアさん、口を開けながら困惑してらっしゃいますわ。
ユクシーさんははっと我に返ったご様子で。
「ち、違うの! よく病気の妹にこうやって食べさせてあげてたから、ついクセで!」
慌てるユクシーさんをみて、アリシアさんがいたずらっぽく笑いますわ。
「へぇ、そうなんだ~。私にも食べさせてほしいな、お姉ちゃん♪」
「もう、アリシアさんってば!」
ユクシーさん、手をぶんぶん振り回して抗議なさいますわ。
「……ところでユクシーさん、そのミネストローネ美味しそうですわね。ワタクシにも1口分けていただいてもよろしくて?」
「もちろんいいよ! はいどうぞ!」
「ワタクシにも“あーん”ってしてくださいます?」
「もう、シャーロットお姉さんまで~!」
そうして和気藹々と晩御飯を終えて、もう一度全員シャワーを浴びた後無事に皆さんで寝ることになりましたわ。
以前はテントの中に大きなベッドを1つ置いて、ワタクシとユクシーさんで一緒に寝ていましたけれども。さすがに3人に増えると1つのベッドでは狭いので、今回からテントの中には小さなベッドを3つ置いておりますわ。
そして、メンバーが増えたことで、交代で見張りを立てられるようになりましたわ。
これまではテントの周りにユクシーさんが罠を張ってくださっていたのですけれども、それも完璧ではありませんわ。
3交代で見張りを立てながら野営した方が安心というもの。
見張りの仕事は簡単。テントの周りに火を起こして、モンスターさんが近づいてきたらテントの中で寝ている仲間に知らせるだけですわ。
じゃんけんの結果、最初の見張りはワタクシになりましたわ。
「静かですわね……」
聞こえてくるのは、風の音と焚き木が偶に弾ける音。
辺りにモンスターさんの気配もありませんわ。
ワタクシ、焚き火でお湯を沸かして紅茶を淹れますわ。こうやってのんびりと焚き火の音を聞きながら紅茶を飲むというのも、風情があって良いですわね。
「この旅が終わったらどんなモンスターさんを食べましょうか……」
などとワタクシが考えていた時。テントからアリシアさんが出てきましたわ。
「あら、交代の時間にはまだ早いのではなくて?」
「ちょっと、悪い夢見て起きちゃったのよ」
そういってアリシアさんはワタクシの向かいの椅子に座りますわ。
「大丈夫ですの? どんな夢を見ましたの?」
「ギフトを授かった時の夢よ。これまで、立派な聖女になることを目指してたアタシが、一気にその希望を奪われてどん底に落とされた時の夢」
アリシアさんは、苦々しい顔をしながら話し続けますわ。
「ざっくり聖女って言っても。色々格付けがあるのよ。力の弱い聖女じゃ小さな結界しか張れないし。大きな結界を貼るのは大体力を持った聖女よ。アタシのママ、有名な聖女でさ。王都とか大きな街の結界を任されて。一族の中じゃ、誰もがみんな憧れる立派な聖女だったわ。……随分前に病気で死んじゃったけど」
「そうでしたの……」
「アタシは、ママみたいな聖女になりたかった。魔力や弓の訓練をして。人を守れる、誰しもに尊敬されるような聖女に」
アリシアさんの握った拳は、震えてらっしゃいますわ。
「でも、授かったのは真逆の【黒の聖女】。偉大な聖女になるなんて、できるわけがないのよ」
そうアリシアさんは言い捨てますわ。
「あら、ワタクシはそうは思いませんわ」
「……アンタ、何言ってんの?」
「確かに、アリシアさんはこれまで夢見ていた通りの聖女にはなれないかもしれませんわ。でも、アリシアさんのギフトなら、きっと【聖女】のギフトではできないことができますわ。アリシアさんなりに、別の形で立派な聖女を目指しましょう」
「……そんなこと。包丁でカボチャもロクに切れないアンタに言われても説得力ないわよ」
「あー、言いましたわね? それはお互い様でしょう?」
「ぐぬぬぬぬ……」
そうしてしばらく二人で言い争っていて。
「「あっはっは!」」
どちらともなく、笑い始めましたわ。
「あー。なんか、話したら気が楽になったわ。……ありがと」
「いいのですわ。ワタクシも、アリシアさんのことが知れて嬉しかってですし」
その時。
““ぐううううぅ〜””
二人同時にお腹が鳴りましたわ。
ワタクシ達、見つめ合って笑いますわ。
「小腹が空きましたわね。こんな時は……これでも焼いて食べるのが一番ですわ」
ワタクシが取り出したのは、リンゴですわ。これにシナモンを振って焼くだけでとてもおいしいのですわ!
「いいの? ユクシーが寝てる間に二人だけで食べちゃって? アイツ怒るんじゃない?」
「バレなければいいのですわ。ただし、食べたら証拠をキッチリ処分すること。いいですわね?」
「にっしっし。いいわね。そういうノリ、嫌いじゃないわよ」
アリシアさんもにんまりと笑いなさいますわ。
その時。
「あー、私がいない間に二人だけで美味しいもの食べようとしてる〜」
いつの間にかユクシーさんが後ろに立ってらっしゃいましたわ。
「「きゃあああああ!!」」
「獣人族は鼻がいいからね。リンゴの匂いで起きちゃった♪」
「良すぎませんこと!? まだ焼いてもいませんのに!」
「アンタも大概に規格外よね!? どんな嗅覚よ!」
「ふふ、冗談だよ。本当は、なんとなく目が覚めちゃっただけ。交代の時間ももうすぐだし、このまま起きてるね。ところで、私も焼きリンゴもらっていいかな……?」
「もちろんですわ。さぁ、どうぞどうぞ」
その後しばらく3人でおしゃべりした後、ワタクシも眠くなってきたので眠りにつきましたわ。
そして翌日、ワタクシ達は下山して無事街にたどり着いたのですわ。