第93話 何はともあれ偽装デート作戦成功ですわ
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シストピ王国での、殿下との偽装デート中。
街角から、突如覆面を着けた集団が現れましたわ。全員もれなく手に剣を持ってらっしゃいますわ。
物騒ですわ〜。
しかしワタクシ、わかっていますのよ。
「これもナタリー様の作戦ですのね」
吊り橋効果。男女2人で一緒に怖い思いをすると、その2人の絆が深まるという現象。それを利用して殿下のお心を手に入れようという算段なのでしょう。
もちろん本当にけが人や死者が出てしまうと国際問題になってしまいますので、あの覆面集団が持っているのは刃を落とした剣に違いありませんわ。
「そんな、まさかこんなところであたしの命を狙いに来るなんて……」
とナタリー様がおびえてらっしゃいますけれど、これも演技のはず。それにしてはなんだか真に迫っているような気もしますけれども。
「ナタリー様と殿下に指一本触れさせるな!」
「アウゼス様とナタリー王女をなんとしてもお守りしろ!」
2国合同の護衛の皆様が抜剣して覆面集団を迎撃しますわ。しかし、数は覆面集団の方がはるかに多く、徐々に追い込まれてしまいますわ。
「ナタリー王女、覚悟ぉ!」
1人の覆面を着けた方が警備を抜け、2人並んでいるアウゼス殿下とナタリー王女目掛けて突進していきますわ。ナタリー様には悪いですけれども、幼馴染である殿下をお守りするため、あなたの作戦は潰させていただきますわ。
「“タイムストップですわ“」
ワタクシは時間を止めますわ。そして、襲ってきた覆面の方の手から、剣を没収しますわ。そして他の覆面の方も含めてまとめて麻痺魔法で動けなくしますわ。
普通であれば、ワタクシ剣を持っている方には怖くて立ち向かおうとなどは決して思いませんけれども。
ナタリー様の作戦だとわかっていれば、全然怖くありませんわ。
そして時間が動き出すと。
「何!? 俺の剣が一瞬で奪われた……!?」
「バカな、指先一つ動かせん……! 一体俺は何をされたんだ??」
「一瞬でこの数の我ら精鋭を戦闘不能にするとは、あの女何者だ!? こんなのデータにないぞ!」
覆面の方々は、大層混乱してらっしゃるご様子。
「ナタリー様、お怪我はございませんこと?」
「え、ええ。お陰で無事ですぅ~」
その時。
「シャーロット・ネイビー、後ろですぅ!」
ナタリー様が急に叫んでワタクシの背後を指差しますわ。確かに、背後から近づいてくる足音が聞こえますわね。
ワタクシが振り返ろうとする、その前に。
「“オートカウンター”が発動します」
久々に聞く、あの変な耳鳴りがいたしますわ。
そしてワタクシが振り返ると。
「ぐわあああああああ!」
1人の覆面の方が、悲鳴を上げながら吹っ飛んでいきましたわ。
“ドサッ”
そして、近くの壁に激突なさいますわ。
「馬鹿な……! 俺は今何をされた……? 完璧に不意を突いて背後を取ったハズなのになぜ反撃される……?」
などとよくわからないことをおっしゃった後、気絶してしまわれましたわ。
「勝手に突っ込んできて1人で壁に向かって飛んでいって気絶……あの方、一体何がしたかったのでしょう……?」
ともあれ、これで一件落着といったところでしょう。
「えええええぇん! 怖かったぁ~!」
ナタリー、地面にへたり込んで泣いてしまいましたわ。
「シャーロットさん、助けてくれてありがとうございましたぁ~!」
ボロボロと泣きながらナタリー様がお礼を言ってくださいますわ。
こんなに泣かれてお礼まで言われてしまっては、『今のはあなたの差し向けた覆面集団でしょう』とはとても言えませんわね。
「ところでナタリー様。ワタクシと殿下が交際しているという話は信じていただけましたでしょうか?」
「それは信じてませぇ~ん!」
うぅ、ナタリー様の目は欺けませんでしたのね。
「でも、アウゼス様のことは諦めますぅ~!」
あら、意外な展開になりましたわ。
「だって今日、アウゼス様の心にあたしが入り込める隙間なんてこれっぽっちもないことも! あたしじゃ全然シャーロットさんに及ばないことも痛いほど見せつけられちゃったんですからぁ! それどころか命まで助けられちゃいましたしぃ。あたしの完全敗北ですぅ。え~ん! 悔しいですぅ~!!」
ナタリー様、地面を何度も叩いて悔しがってらっしゃいますわ。
何はともあれ、これで殿下が望まない結婚をすることはなくなったようで良かったですわ。
本来であればまだ(偽装)デートが続く予定だったのですけれども、仕込みとはいえ武装集団の襲撃がありましたので今日のデートはここで中止となりましたわ。
こうして、偽装デート作戦は無事に終了したのですわ。
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