第92話 隣国の高級レストランで食事を頂きますわ!
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一週間後。
待ち合わせ場所はアウゼス様がお住まいになっているお城の中庭ですわ。久々にきましたけれども、相変わらず手入れが行き届いていてお美しいですわ。
「あぁ、緊張してきた……」
殿下は、青い顔をしてらっしゃいますわ。
今日は式典に参加するときにも着ている刺繍入りのチュニックを身につけていて、普段よりも王太子の威厳をまとっておりますわ。
今日はワタクシも、パーティー用ドレスを着ていますわ。ただし今日は歩いての移動も多いですので、動きやすいものを選んでおりますの。
そして時間になると、従者と護衛の騎士の方々を引き連れて、少女がお越しになられましたわ。
「アウゼス様、お久しぶりですわぁ~!」
シストピ王国第三王女、ナタリー様。お年は16歳と伺っていますわ。スタイルは良くて、ピンク色の髪が目を引きますわ。
「あたしアウゼス様にまたお会いできるのをずぅ~っと楽しみにしていましたぁ。今日は、よろしくおねがいしますねぇ~」
ナタリー様は、ハチミツのような甘い声で殿下にすり寄りますわ。
「そしてあなたがシャーロット・ネイビーね? ふうん、平民の割には貧乏臭くないわね」
ナタリー様はワタクシの前に来て、隅々まで観察なさいますわ。
「ええ。ワタクシが殿下とおつき合いさせていただいている、シャーロット・ネイビーですわ。本日は、よろしくお願いいたしますね、ナタリー様」
失礼のないよう、ワタクシも挨拶しますわ。
そして。
「シャシャシャ、シャーロットさんとお付き合いさせて頂いている、アウゼスと申します! きょきょきょ今日は、よろしくお願いします!」
「もう、どうして殿下が一番緊張してらっしゃいますの。ワタクシともナタリー様とも初対面では無いでしょう?」
「それはそうなんだが! シャーロットさんとデートだと思うと緊張してしまって」
殿下はいつにも増して顔が真っ赤で落ち着きがないご様子。
「私はぁ、人の恋人を奪うなんて無粋なことはしませんよぉ~。でも、もしシャーロットさんとアウゼス様が交際しているっているのが嘘だったらぁ、その時はアウゼス様は私が貰っちゃいますからねぇ」
「ええ、心得ておりますわ」
正直なところナタリー様の、殿下のお気持ちを無視してモノのように扱う言い方には思うところがありますわ。
ですが、ここで言い争っても仕方のないこと。ワタクシと殿下の(偽装の)仲の良さをお見せして穏便に引き下がっていただきましょう。
「では、早速最初のデートスポットへと向かうとしよう」
まずワタクシたちが向かったのは観劇。今日は特等席をご用意いただいておりますわ。
今日の演目は『月夜の誓い』。街の花屋の娘と伯爵の息子の身分違いの恋を描いたラブロマンスですわ。まさに、今日のワタクシと殿下の(偽装)デートにふさわしい演目ですわ。殿下、いいチョイスをなさいますわね。
殿下とワタクシが並んで座り。後ろの席にナタリー様が座ってワタクシたちの様子を観察しますわ。
ナタリー様に見られているのですもの。劇の途中、しっかりとワタクシと殿下の仲の良さを見せつけていかないといけませんわ。
と、思っていたのですが。
『僕は貴族の地位を捨てる! この街から逃げて、新しい街で僕と新しい人生を始めよう』
劇のクライマックス。二人が駆け落ちするシーンで劇に見入ってしまい、ワタクシすっかりナタリー様に見られていることを忘れていましたわ。
劇の内容に興奮して、思わず肘掛けの上にあった殿下の手を強く握ってしまいましたわ。
そして終劇後。
「とても面白い劇でしたわ〜。ハラハラしましたわ」
「ああ。本当に。本当にドキドキした。心臓が止まるかと思ったよ」
殿下も胸を押さえて観劇後の余韻を噛み締めてらっしゃいますわ。
しかし、これで仲の良さをナタリー様にお見せできたのでしょうか? 不安になってナタリー様の方を振り返ると。
「お二人の仲の良さ、しっかり見せてもらいましたぁ~。妬けちゃいますぅ~」
ナタリー様、顔では笑っていますけれどもよく見ると悔しさからか唇を噛んでらっしゃいますわ。
よくわかりませんけれども、なんとかうまくいっているご様子。
そして次はランチ。
本来は貴族しか入店できない、前とは別の街で一番高級なレストランを貸し切ってのお食事ですわ。
実はワタクシ、今日一番この時間を楽しみにしていましたわ!
ワタクシと殿下が同じテーブル。ナタリー様が、少し離れたテーブルに座り様子を窺っていますわ。
「美味しいですわ~!」
「喜んでもらえて何よりだ。僕も、色々段取りをした甲斐があるという物だ」
「ありがとうございます殿下。ワタクシ今とっても幸せですわ。あら、このロブスターこの国のものではありませんわね?」
「ああ。王家が特別に取り寄せたものをレストランに提供して調理してもらったんだ。それを見抜くとは、流石シャーロットさん」
「ふふふ。ワタクシ、舌は肥えていますのよ」
和気藹々と食事は進んでいきますわ。
そして最後にデザートがテーブルに届けられますわ。
「まぁ、美味しそうなアイスクリームですわ」
今回のコースでは、デザートは1人1品選ぶ形式になっておりますの。
ワタクシはバニラアイス。殿下はレモンアイスを選びなさいましたわ。
ここでワタクシ、ナタリー様がとなりのテーブルからワタクシ達の様子を見ていることを思い出しましたわ。
「はい殿下、あーんですわ」
ワタクシ、自分のバニラアイスをスプーンですくって、殿下に差し出しますわ。
「シャーロットさん!? これは一体どういうことだ?」
「よく存じませんけれども。恋人とはこうしてスプーンでお互いのデザートを交換したりする物なのでしょう?」
「それは、そうだが……! ダメだ、僕には出来ない! 妥協案として、お互いの自分のアイスをスプーン1すくいずつ相手のお皿に渡して交換するというのはどうだろう?」
「かまいませんけれども。あまり恋人らしさがありませんわね……」
とはいえ、殿下のアイスの味にも興味がありましたので、ワタクシ喜んで提案に乗りましたわ。
人が食べているものって、なんだか無性に美味しそうに見えるのですもの♪
「ワタクシ、大満足ですわ〜!」
食事を終えたワタクシたちは、街の中央の広場の方へ向かいますわ。このあたりは景観も綺麗で、散歩にはうってつけですの。
今回は殿下とナタリー様の安全のため、通りを封鎖して一般人立ち入り禁止にしておりますわ。さらにシストピ王国と我が国の騎士の皆様が、警備にあたってくださっておりますわ。
前を並んで歩くワタクシと殿下の様子を静かに見つめながら、ナタリー様がついてこられておりますわ。
「この辺りも、昔に比べて大分綺麗になったな。治安も良くなったようで、嬉しいよ」
殿下が景観の感想を口にしたその時。
”ザバァ!”
頭上から音がしますわ。見上げると、お店の2階から殿方がバケツで水を捨てているところでしたわ。そして、お水は後ろを歩いていたナタリー様目掛けて降り注いで行くではありませんか。
「危ないですわ! “タイムストップ”ですわ!」
水がナタリー様にかかる直前。なんとか時間を止めることでナタリー様がビショ濡れになるのを防ぐことができましたわ。
「ナタリー様、失礼しますわ」
ワタクシ、ナタリー様を抱えて移動させてお水のかからないところへ移動させますわ。
そして時間が動き出して。
“バシャァ!”
誰もいなくなった地面に、勢いよく水が降り注ぎますわ。
「きゃー! お水掛けられちゃいましたぁ~! ってあれ? なんで私、濡れてないんですかぁ~!?」
「ええ。危ないところでしたので、ワタクシが運んで水のかからないところへ移動させましたの。咄嗟のことでしたのでナタリー様に了承を得ないままお体に触ってしまいましたわ。ご容赦くださいませ」
「もう、なんて余計なことをするのよシャーロット・ネイビー! ……じゃなくて。助けてくれて、ありがとうございましたぁ~」
ナタリー様、何やらお怒りになっているご様子。
そしてワタクシが再び上を見上げると、先ほど水を捨てた殿方が“チッ”と舌打ちをして窓の中へ引っ込んでいくところでしたわ。
……ワタクシ、これは少々お冠にきましたわよ。
意図的か事故なのかはわかりませんけれども、女性に水をかけようとしておいて、謝りもせずに引っ込んでいくとはどういう了見でしょうか?
「失礼。ワタクシ、あの殿方に一言お伝えしてきますわ」
ワタクシは扉を開けてお店の中に入りますわ。そして2階へ向かうと、またバケツに入ったお水を窓の外に撒こうとしている殿方を見つけましたわ。
「させませんわ! ”タイムストップ”ですわ!」
ワタクシはまた時間を止めますわ。そして
「”パラライズ”ですわ」
麻痺魔法で殿方の動きを止めますわ。
殿方の手からバケツを取り上げて、床に置いたところで時間が動き出しますわ。
「何!? 体が……全く動かない! お前一体何をした! なぜ俺の邪魔をする!」
「なぜはこちらの台詞ですわ。どうしてナタリー様に執拗にお水を掛けようとしてらっしゃいますの! ……分かりましたわ、暗殺ですわね!? そのお水に毒液が混ぜてあって、ナタリー様を毒殺するおつもりですのね?」
「違う! 俺は暗殺者なんかじゃない! この店の店主だ! 俺は、ナタリー様に金で頼まれただけなんだ! 今日この時間に店の前を通るから、事故に見せかけて自分に水をかけてくれって!」
「……ナタリー様に頼まれたですって? ナタリー様はどうしてそんなことを?」
「ナタリー様は、今日はわざと濡れた時に透けやすい服を着てるらしい。そしてわざとアクシデントに見せかけて自らずぶ濡れになることで、色仕掛けで殿下にアプローチするつもりだったらしい」
「まぁ、そうでしたの。ナタリー様、なかなか用意周到な方ですのね」
もうお水を掛けないと約束してくださったので、ワタクシは殿方の麻痺を解除して、皆様のもとへ戻りましたわ。
正直なところ、ナタリー様の作戦は、小さなハプニングを起こす程度の遊びの延長のようなものだと思うのですけれども。
とはいえ、ナタリー様はきっと他にも何か手を用意しているでしょう。殿下の一番近くにいるワタクシが、殿下をお守りして差し上げなくては。
などと考えながら、お店を出て通りへ戻ったところ。
「ナタリー第三王女! その命、貰い受ける!」
街角から、突如覆面を着けた集団が現れましたわ。全員もれなく手に剣を持ってらっしゃいますわ。
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