第9話 ざまぁ回 シャーロットを追放した父親、恐怖のあまり気絶する
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――王国の、とある北の街。
その大通りはお祭り騒ぎになっていた。通り中民衆でごった返している。
近隣の森にひそみ、国民を脅かしていた盗賊団を討った王国騎士団が帰ってきたのだ。
いわば、凱旋である。
明るい表情で手を振る騎士団の後ろを、両手を拘束された盗賊達が連行されている。
騎士団の先頭には、民衆の注目を一身に集める人物がいた。
「みなさん、お出迎えありがとう!」
さわやかな笑顔で手を振るのは、王国第一王子、アウゼス・ローデンハイム。
王国騎士団を自ら率いるだけでなく、盗賊団のアジトへ斬りこんで盗賊団の半数を自ら無力化した、恐るべき武の持ち主でもある。
同時に優れた容姿と民を想う優しい心の持ち主であり、国民から圧倒的な人気を集めている。
「噂通りの美男子だわ、アウゼス殿下!」
「本当に格好いいわ……婚約者はまだいないという話だけど、誰か気になっている人はいるのかしら?」
「止めときなさいって。アタシたちじゃとても手が届かないわ」
「あ、殿下がこっち見たわ! キャー!」
アウゼス王太子が手を振ると、黄色い声が上がる。
大人から子供たちまで、絵本から飛び出してきたような王子に夢中だった。
「あっ……」
幼い少女が、興奮して手を振り過ぎて持っていたアイスクリームを飛ばしてしまう。
そしてアイスクリームは、アウゼス王太子の頬に直撃してしまった。
大通りが、打って変わって静まり返る。
「あ、その……ごごご、ごめんさない!」
少女が泣き出しそうになって謝る。隣にいた母親も必死で頭を下げる。
凍り付いた空気の中、アウゼス王太子だけは優雅に微笑んでいた。
「謝ることはない。それだけ僕達を熱烈に歓迎してくれたということだろう? こんなにも沢山の声援で迎えてくれて、嬉しい限りだよ」
一切取り乱すことなく、アウゼス王子は頬をハンカチで拭う。
「で、殿下は私を許して下さるんですか……?」
「もちろん。気にすることはない。拭けば落ちるものだしね。それに……レモン味アイスは好物なんだ」
そういってアウゼス王子は口の端についていたアイスの拭き残しを舐めとる。
その色っぽい仕草に、通りのあちらこちらから黄色い声が上がる。
器の大きさとユーモアを兼ね備えた王子は、民衆にとってまさに理想の王子であった。
「セバス、あの少女に新しいアイスを買ってあげてくれ。トッピングも忘れずにな」
「畏まりました」
アウゼス王太子の指示で、後ろに控えていた初老の使用人が動き出す。
これは、『きっとあの少女は、今日のことをずっと悔いてしまうだろう。そうならないように、楽しい思い出で上書きしてあげよう』というアウゼス王子の少女への気遣いである。
こうして凱旋は文句のつけようのない程の成功で終わった。
――――――
「……ふぅ。緊張するなぁ」
凱旋を終えて、アウゼス王太子は馬車で森の中の道を進んでいた。騎士団とは別れ、数台の護衛の馬車がついているばかりである。
アウゼス王太子の優し気でありながら精悍な顔は、緊張の色を浮かべていた。盗賊団のアジトに乗り込む前には騎士団をジョークで爆笑させていた彼が、今は緊張で言葉が少ない。こまめに額の汗を新しいハンカチで拭っている。
「大丈夫です。殿下であれば必ず成功しますとも」
隣にいる初老の使用人セバスが王太子を励ます。
「……今日こそ僕は、僕はシャーロットさんに婚約を申し込む――!!」
アウゼス王太子は、ポケットに忍ばせた指輪の箱を握り締めた。
覚悟を決めたアウゼス王太子は、森の中にあるネイビー侯爵家の敷地に足を踏み入れるのであった。
――――――
「お待ちしておりました、アウゼス殿下。ご足労頂きありがとうございます。さぁさ、どうぞこちらへ」
満面の笑みでシャーロットの父、マッシュ侯爵がアウゼス王太子を応接間へと迎える。
「おや……いつも迎えに出てきてくれるシャーロットさんがいないようですが、今日はどちらへ?」
アウゼス王太子が辺りを見渡しながらそう問う。
「ああ、あいつなら追放しましたよ。あいつは我が侯爵家に相応しくありませんからな。あんなのがいるとネイビー侯爵家の品位が下がるというものですよ、わっはっは!」
「……は?」
アウゼス王太子の顔から笑顔が抜け落ちる。どころか、周囲の空気が熱くなる程の静かな怒りを放っている。
マッシュ侯爵はそれに気づかず話し続ける。
「いやー、シャーロットの奴、殿下の前では口にできないような卑しいギフトを授かりまして。お前など侯爵家に相応しくない、と追い出したのですよ」
「追い出したって、どこの街へです……?」
「街へはわざわざ送っておりません。玄関から放り出しただけですよ。この森には強くないとはいえモンスターも生息していますからな。今頃スライムか狼に喰われているかもしれませんな。わっはっは!」
「……マッシュ侯爵。僕が今日ここへ何をしに来たと思いますか」
「それはもちろん、侯爵である私と親睦を深めて国の地盤を固め――」
「違います。今日僕がここへ来たのは、シャーロットさんに結婚を申し込むためです」
「……!?」
マッシュ侯爵が、何を言われているのか理解できず硬直する。
「僕がたびたび自分からこの屋敷に訪れていたのも、シャーロットさんに会うためです。侯爵とお会いするのは、その口実に過ぎませんでした」
淡々と告げるアウゼス王太子の口調は冷え切っていた。
「僕の心は、5歳のころ王城へ遊びに来ていたシャーロットさんの笑顔を見たときから、シャーロットさんのものだ。シャーロットさんに振り向いてもらうため、僕は自分を磨きつづけた。『理想の王子』とまで国民に言われるようになっても、結局シャーロットさんには『仲の良い幼馴染』としか認識してもらえていませんがね」
アウゼス王子は悲しそうに微笑む。
「そんな、まさか。ではなぜ結婚の申し出が今更になってなのです……?」
「それは僕の至らなさ故に、です。これまで何度も結婚を申し込もうとしましたが、シャーロットさんを前にすると、緊張してうまく言葉が出てこなくなります。これに関しては私に非があるし、侯爵を責めるつもりはありません。が、この国には『授かったギフトを理由に、家族や組織から人を排斥することを禁ずる』という法があります。まさか、知らないとは言いませんね……?」
「それは……!」
「さて侯爵。もう一度、お聞きします。シャーロットさんは今頃どうしていると思いますか? さっきの言葉を、もう一度繰り返して言ってもらいましょう」
普段さわやかな笑みを浮かべているアウゼス王太子の顔には、今は微塵の笑みもなかった。
「ええと、今頃はきっと街についてのんびり楽しく暮らして……」
「違います。侯爵は先ほど『今頃スライムか狼に喰われているかもしれませんな』と仰いました」
本気で怒る王子に詰められて、侯爵は顔が真っ青になっていた。
「今から僕は総力を挙げてシャーロットさんを捜索します。侯爵もそうするように。もしシャーロットさんが見つからなかったり亡くなっていたりしたら、その時は――」
「まさか、侯爵の地位を剥奪して伯爵に格下げですか?」
「違います」
「では、子爵に格下げ、ですかな?」
「それも違います」
「! まさか、平民として生きろと――」
「それも違います。マッシュ侯爵、あなたには処刑台に登って頂きます」
「しょけ……?」
マッシュ侯爵は、頭が真っ白になっていた。
「セバス。採寸をしてやれ」
「畏まりました」
使用人セバスが一礼して、マッシュ侯爵の首に紐を巻きつけて寸法を測る。
「あの、殿下。これは一体何を……?」
「あなたのための特製処刑台を作るための採寸です。もしシャーロットさんが亡くなっていたり一週間以内に連れ戻せなかったら、その時は――」
そこでセバスが、アウゼス王太子の意を汲んでほんの少し、侯爵の首を測っている紐に力を入れる。
それだけで、恐怖のあまりマッシュ侯爵は泡を吹いて気絶した。
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