第89 心置きなくエリクサーゴクゴクですわ!
キリの良いところまでお見せしたかったので、本日ボリューム多めでお送りします!
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エリクサーで事故に巻き込まれた少年をお助けしたワタクシは、家に戻りましたわ。
初めて自分で作ったエリクサーを飲めなかったのは少し残念ですけれども、かまいませんわ! これから沢山エリクサーを作るのですから。
「さぁ、どんどんつくっていきますわよ!」
ワタクシ、アイテムボックスからルナリスブルームの花びらを全て出しますわ。1本ずつ作るのも手間ですから、今度は大鍋に材料と触媒を入れて一気に沢山作ってしまいますわ。
「マリー、手伝ってくださいまし」
「了解ッス!」
マリーの手も借りながら、ワタクシはエリクサーを量産していきますわ。
乾いた材料をすりつぶして。鍋に入れて。魔力を加えながらかき混ぜて。完成したら、買っておいた回復ポーション用の空きビンに詰めて。
これを繰り返して、エリクサーを量産していきますわ
「マリー、ワタクシエリクサーがこんなに簡単に作れる物だなんて知りませんでしたわ」
「あっはっは。何言ってるんスかお嬢様。簡単に作れているのはお嬢様の魔力量が普通じゃないからッスよ。一般人の魔力じゃまず無理ッス」
「まぁ。ワタクシも一般人ですのに」
と、マリーと冗談をかわし合いながらエリクサーを作っていきますわ。
そして。
「エリクサー100本、完成ですわ~!」
材料は全て使い切ってしまいましたわ。テーブルの上にエリクサー100本を並べてみましたわ。
「壮観ですわ~!」
さぁ、いよいよ飲みますわよ。
これだけエリクサーが沢山あったら。
朝はエリクサーの爽快感で眠気を覚まし。
お昼ご飯を食べた後には口の中をエリクサーですっきりさせて。
夜は眠る前にエリクサーで疲れを洗い流してリフレッシュする。
という超快適エリクサーライフが送れるのですわ!
「では早速記念すべき1本目を――」
その時。
”チリンチリン”
家の玄関の呼び鈴が鳴りますわ。
「はい、どなたでしょう?」
扉を開けると、2人の少年が立っておられましたわ。一人は、先ほどワタクシがエリクサーを差し上げた方ですわね。
「お姉さん、さっきはありがとうございました。それで、申し訳ないのですが一つお願いがあってきました」
「まぁ。なんでしょう」
そこで、もう一人の少年が前に出てきますわ。
「お姉さんがエリクサーを作れると聞きました。どうか、俺の姉を助けてもらえないでしょうか?」
「僕からもお願いします!」
二人の少年が深々と頭を下げなさいますわ。
これは断れませんわね……。
「承知しましたわ。ワタクシを、お姉さんのところへと案内してくださいます?」
「「ありがとうございます!!」」
そして案内されたのは、街で一番大きな病院。敷地内に複数の棟が並んでいて、うっかりすると迷子になってしまいそうですわ。
「患者にあまり勝手なことをされては困りますからね。私も立ち会わせてもらいますよ」
そう言ってワタクシ達の横を歩いているのは、壮年のこの病院の院長様。
ワタクシは、沢山並んでいる中の1つの病室に入りますわ。
「姉さん、エリクサーを持っている人を連れてきたよ」
少年がベッドに寝ているお姉様に駆け寄って、話しかけますわ。しかし目を閉じたまま反応はありませんの。
ワタクシも近くに寄って、ベッドに寝ているお姉様の姿を近くで拝見しますわ。身体の左半分が、透き通る蒼い水晶の様になっておりました。
”クリスタル病”。身体が徐々にクリスタルのように透き通る石になっていって、最終的に完全な石になってしまう恐ろしい病ですわ。今の医療では、エリクサー以外に治す方法はなく、進行を遅らせることしか出来ないそうですわ。
ここに来るまでに話は聞いていましたけれども、実物を見ると病気の恐ろしさを実感いたしますわ。
ちなみに近くにいても感染することはないそうなので、こうして隣に立っていても感染する心配はありませんわ。
「まず、エリクサーを私のギフトで確認させてもらおう。怪しい回復ポーションを私の患者に勝手に投与されては困るからね」
「ごもっともですわ。ご確認くださいませ」
ワタクシは、アイテムボックスから取り出したエリクサーを院長様にお渡ししますわ。院長様はビンを光にかざし、何らかのギフトを発動してエリクサーを検分なさいますわ。
「……確認させてもらった。驚いた、まさか本当にエリクサーだとは」
院長様は少し震える手でビンをワタクシに返してくださいますわ。
「そのエリクサーを彼女に与えれば、間違いなく病気は治るだろう。彼女は私の患者だが、私では彼女の病気を治すことは出来ない。そのエリクサーを彼女に与えるのを止める権利は、私にはない」
それを聞いて、少年の顔が明るくなりますわ。
「――だが、あなたはそれでいいのか?」
と、院長様はワタクシに尋ねてきますわ。
「彼女にエリクサーを与えたところで、とてもエリクサーの代金は払えないだろう。あなたにとって得はない。この病院には、他にも今の医療では治せない患者がいて、その中には金持ちもいる。その人達にエリクサーを与えた方があなたにとっては得ではないかな? もちろん、その場合私も紹介料をもらうがね。どうだ、悪い話では――」
ワタクシは話を聞き終える前に患者様の口にそっと注ぎますわ。
「何!? 私の話を聞いていなかったのか!?」
「ワタクシは、お金のためにエリクサーをお譲りするのではありませんわ」
ワタクシは
ワタクシは――
自分で気兼ねなくエリクサーを飲むためにやっているのですわ!
ここでワタクシがこの方を見捨てて自分だけエリクサーを飲んだら、これからワタクシエリクサーを飲もうとする度に『あの時、目の前の救える命を救わなかった』ことを思い出してしまいますわ。
そんなのは嫌ですわ~!
ワタクシはなんの心置きもなく。心から満足いくエリクサーの飲み方をしたいのですわ!
というわけで、ワタクシこの御方にエリクサーを差し上げると決めたのですわ。
”パアアアアァ……!”
エリクサーの効果で、患者様の身体が光を放ち始めますわ。クリスタルのように透き通っていた手足が、みるみるうちに人間の色と暖かみを取り戻していきますわ。
そして。
「ん……ここは……?」
目を覚ましなさいましたわ。
「よかった、お姉ちゃん!」
弟さんが、お姉様に飛びつきなさいますわ。兄弟仲が良さそうで何よりですわ。
「このお姉さんがくれたエリクサーのお陰でお姉ちゃんが治ったんだよ!」
「そうでしたか。ありがとうございます。本当に、なんとお礼を申し上げたら良いか」
姉弟が揃って頭を下げなさいますわ。
「お元気になって、何よりですわ」
ワタクシは微笑んで応じますわ。
「ところで院長様。先ほど、『この病院には他にもエリクサーを必要とする患者がいる』とおっしゃっていましたわね?」
「あ、ああ。それがどうかしたのか……?」
「差し支えなければ。こちらをその患者の皆様にお渡しいただけませんこと?」
ワタクシは、近くにあったテーブルにエリクサーのビンを並べますわ。その数98本。これだけお渡しすれば十分でしょう。
「な――!? これだけの数のエリクサーをあっさり用意するだと!?」
院長様がギフトでエリクサーを確認なさいます。
「信じられない、全て本物だ。私は夢でも見ているのか??」
院長様、自分の頬をつねってらっしゃいますわ。
このエリクサーは、ワタクシが自分で飲むために作ったエリクサー。しかし、この病院にまだ他にもこのエリクサーを必要とする方がいると知った以上、放っておくことは出来ませんわ。
「全く、恐れ入った。それで、分け前はどうする? エリクサーを必要とする患者の中には、さっきも言ったとおり金持ちもいる。そいつらからは報酬を貰っても良いと思わないか?」
「ワタクシは報酬は一切不要ですわ。ワタクシ、お金のためにやっているのではありませんもの」
というよりも。
お金など受け取ってしまったら。
ワタクシは。
ワタクシは――
逮捕されてしまうのですわ~!
エリクサーの製法の本に書かれておりましたわ。
この国には回復ポーション取り扱い法という法律があって、資格を持たない者が回復ポーションを販売してはならないと厳しく定められているのですわ!
無報酬で回復ポーションをお譲りした場合は法律にギリギリ引っかかりませんけれども。銅貨1枚でも受け取ってしまったらワタクシは犯罪者になってしまうのですわ!
絶対に報酬を受け取るわけにはいかないのですわ~!
「――金持ちからも報酬を受け取らない、完全無報酬で人を助けるか。……なんて立派な志だ。心から、貴方に敬意を表したい」
院長様、涙を流して天を仰いでらっしゃいますわ。
「私はね。子供の頃に一度大きな病を患って死の淵をさまよったんだ。貧乏で治療を受けられるだけのお金も無く、ただ死を待つばかりだった私を助けてくれたのは、旅の医者だった。報酬を一切受け取らず立ち去っていくあの背中に憧れて、私は医者になったんだ」
院長様の目は、遙か昔をみてらっしゃいますわ。
「病院が潰れれば、大勢の患者が医療を受けられなくなってしまう。最初は患者のためを思って病院を守っていたのだが、いつの間にか目的を忘れてお金のことだけを考えるようになってしまっていた。ありがとう。貴方は私に大切なことを思い出させてくれた」
そう語る院長様の顔は、とても晴れやかでしたわ。
「このお預かりしたエリクサーは、必ず私が責任を持って、エリクサーを必要とする患者に届けると誓おう。もちろん、仲介手数料を取るようなこともしない」
「お手数おかけしますけれど、よろしくお願いしますわ」
こうしてワタクシは、院長様と姉弟に見送られて病院を後にしたのですわ。
ワタクシが家に帰り着いたのは、日が暮れる頃でしたわ。
マリーが作ってくれた夕食を頂いて。熱いシャワーを浴びて。
「いよいよ、エリクサーを飲みますわ~!」
ワタクシアイテムボックスに1本だけエリクサーを残していたのですわ。
病院には沢山エリクサーを置いてきましたし、あれだけあれば十分でしょう。
「頂きますわ~!」
”ゴクッゴクッ”
ビンからエリクサーが一気に喉に流れ込んできますわ。
この清涼感。堪りませんわ~! 常温のはずなのに、まるで氷が直接喉に触れているかのような感覚ですわ! そしてそれがシャワー上がりの熱い身体にとてもしみるのですわ~!
味の方も素晴らしくて、ハチミツのような濃厚な甘さとオレンジの様な酸味がマッチしていてとっても美味しいですわ!
前はほんの1口しか飲めませんでしたけれども、これをビンまるごと1つ一気飲みできるという幸せ。
堪りませんわ~!
「ゴクゴクですわ!」
こうしてワタクシ、至福の時間を過ごしましたわ。
「本当に美味しかったですわ……! またそのうちゴーレムの森に沢山材料を取りに行かなくてはいけませんわね。その時またあの病院にでもお裾分けしにいくといたしましょう」
こうしたワタクシは、念願のエリクサーをまるごと1ビン飲むという目的を果たすことが出来たのですわ。
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