第88部分 エリクサーのお裾分けをしますわ
コミカライズ単行本1巻、好評発売中です~!
是非お求め下さい!
世の中にこんなに美味しい飲み物があっただなんて。ワタクシ、知りませんでしたわ!
「もっと、もっと飲みたいですわ……!」
一口飲んだだけでこの満足感。もし、熱いシャワーを浴びた後にエリクサーをまるごと1ビン喉に流し込んだら、どれほどの満足感になることでしょうか! 考えただけで喉が渇いてきますわ。
気づくとワタクシ、街の回復ポーション屋さんに来ていましたわ。
しかし。
「エリクサーというのはとても貴重なもので、ウチでは取り扱いがないんですよ。元々最前線で戦闘するエリートの戦闘職の人達や、身内が重病になった貴族にしか出回ってないんですよ。一般市民ではとても手が届かない代物ですね」
とのことですわ。
「諦められませんわ。ワタクシ、あのエリクサーの味が忘れられませんのよ……!」
売っていないのであれば作れば良いのですわ。
ワタクシ、街の本屋さんに足を運びましたわ。
簡単に作れる物ではないというのは重々承知。しかし、わずかな可能性に賭けてエリクサーの製法について書いた本がないか探しましたわ。
すると。
「ありましたわ、エリクサーの製法!」
回復ポーション類の作り方について書いた本の中に、エリクサーの製法が載っておりましたわ!
他の回復ポーションとは違ってコラムのような扱いですけれども、間違いなくエリクサーの製法ですわ!
「この本、頂きたいですわ」
ワタクシは本を買って帰って、早速家で読みましたわ。
必要な材料は、ルナリスブルームの花びら。それに、触媒としてアダマンタイトが必要とのことですわ。
「全部、揃っておりますわね……」
ルナリスブルームの花びらは、ゴーレムの森に氷結果実を採取しに行ったとき記念に採取したものが。アダマンタイトも同じく氷結果実を採取したとき、ゴーレムさんが落とした物がありますわ。ユクシーさんにはハンマーの改造に必要な分をお渡ししているのですけれど、破片がいくつか残っておりますわ。
それでは早速、作ってみようと思いますわ!
「えーと、まず『ルナリスブルームの花びらを天日干しして完全に乾燥させてすり潰す』……と」
後はグラスに水をいれて、そこにルナリスブルームの花の粉末を入れて。触媒のアダマンタイトの欠片を沈めて。
「本によりますと、『最後に大量の魔力をくわえながらかき混ぜる。十分な魔力が加われば、光とともに反応が起きてエリクサーが完成する』と。……大量の魔力って、どれくらい加えれば良いのでしょう?」
分かっていますわ。エリクサーとは貴重な物。素人であるワタクシが、ちょっと魔力を加えたくらいで作れるはずがありませんの。
あまり期待せず、ワタクシ魔力を込めてエリクサーをかき混ぜますわ。すると。
”ピカッ!”
「反応が起きましたわ~!」
かき混ぜ始めてすぐ光りましたわ。それに、液体の色も変わっていますわ。さっきまで無色だったのに、今は透き通る綺麗な紫色。
まさか、本当にエリクサーが完成してらっしゃいます?
ワタクシ、まずはスプーンでひとすくいして恐る恐る確認しますわ。
「本当にエリクサーになっていますわ~!」
この風味。この甘さ。この清涼感。間違いなくエリクサーですわ!
「それでは、いよいよ頂きますわ……!」
いざ、エリクサーの一気飲みですわ!
――と思ったその時。
”ガッシャーーーン!”
家の前の通りの方から、大きな物音がしますわ。
「何事ですの!?」
ワタクシが慌てて駆けつけると、馬車が転倒しておりましたわ。どうやら、事故があったご様子。
「ねぇしっかりして! 目を開けて!」
事故に巻き込まれてしまったとおぼしき少年が倒れていらして、母親らしきご婦人が必死に呼びかけてらっしゃいますわ。
少年は、身動き一ついたしません。素人のワタクシにも、これは危険な状態だと分かりますわ。
「どうしましょう。こんなとき、一体どんな応急処置をすれば……!」
その時ワタクシ気づきますわ。慌てて出てきたので、右手にエリクサーのグラスを持ったままだったことに。
「ご婦人! こちらの回復ポーションをその子に飲ませてくださいまし!」
「は、はい!」
ご婦人はワタクシからエリクサーを受け取ると、震える手で子供の口に注ぎますわ。
すると。
”ぽうっ……!”
少年の身体が、うっすらと紫に輝きますわ。そして。
「う、うぅん……」
目を覚ましましたわ!
「良かった! あなたがいなくなったらもう、私は生きていけなかったわ!」
親子が熱い抱擁をかわしてらっしゃいますわ。
「ありがとうございます。このご恩は決して忘れません」
「お姉さん、ありがとうございます!」
親子が揃って頭を下げなさいますわ。
エリクサーが無くなってしまったのは少し残念ですけれども、人の命には代えられませんわ。
ワタクシが家に戻ろうとしたその時。少年が何かに気づきますわ。
「お母さん、僕の手のアザが消えてる!」
「本当だわ! 一体どうして!?」
お母様、たいへん混乱してらっしゃいますわ。
「もしもし。アザがどうしましたの?」
ワタクシ、気になって聞いてみましたわ。
「僕は”クローバー病”という珍しい病気にかかっていたんです。手の甲にクローバーの葉のようなアザが少しずつ現れて、葉が4枚揃うと死ぬという病気です。今の医療では治せる確率は半々ということだったんですが……今目が覚めたら、3枚出ていた葉のアザが全て消えていました」
少年は、不思議そうに手の甲を眺めていますわ。
「ああ、きっとそれは先ほど飲んだエリクサーの力ですわね」
「エ、エリクサー!?」
少年は、目を丸くしてらっしゃいますわ。
「そんな、ウソだ! ……いやでも、他に原因は考えられないし……そんな高価な物を僕に使ってくれたんですか?」
「ええ。かまいませんのよ。また作れば良いだけですから。では皆様、ごきげんよう」
事態が一段落しましたので、ワタクシは家に戻りましたわ。
コミカライズ単行本1巻、好評発売中です~!
是非お求め下さい!