第82話 鹿モンスターさんを食べますわ
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「アンタ達、何者よ……。ゴーレムをあんなに軽々倒すなんて、信じられないわ」
そう言って、ゴーレムに追いかけられていた女性が立ち上がりますわ。
凜々しいつり目が印象的な、端整なお顔の方ですわ。銀の髪もとても綺麗で、木漏れ日を受けてきらめいていますわ。
身にまとっているのは、夜闇のような黒いドレス。それが大理石のように白いお肌を引き立たせていますの。
「私はアリシア・ウィンザー。助けてくれたこと、お礼を言うわ」
「ワタクシはシャーロット・ネイビーですわ。よろしくですわアリシアさん」
「私はユクシー・サラーティ。よろしくね」
ワタクシ達は互いに名乗りますわ。
「アリシアさんも氷結果実の採取をしにいらしたのでしょう? よろしければ、森の奥まで一緒にいきませんこと? さっきみたいにゴーレムさんに襲われても大丈夫ですわ。良いでしょうか、ユクシーさん?」
「もちろんだよ!」
「……助けてくれたことについては感謝してるわ。でも、一緒には行けない。アタシなんかと一緒にいると、悪いことが起きるわよ」
「? 悪いこと、とはなんでしょう?」
「それは言えない。とにかく、これ以上アタシに近寄らない方が良いわ」
言いたくないことを無理に言わせるのは良くありませんわね。この件についてはこれ以上聞かないことにいたしましょう。
「ではもう一つ聞かせて下さいまし。先ほど、アリシアさんはなぜあんなに沢山のゴーレムさんに追いかけられていたのです? 何か、ゴーレムさんを挑発するようなことをなさったのです?」
その時。
「お二方とも、静かに。モンスターさんが近づいてきていますわ」
ワタクシが身を屈めると、2人も同じように物陰に隠れなさいますわ。
「ゴーレムさんとは違う気配……。そしてこの、独特のステップの動き方……。分かりましたわ! 近づいてくるのは、シルバーホーンさんですわ」
「やったぁ! シルバーホーンだ!」
ユクシーさんも嬉しそうに物陰に隠れたままハンマーを構えますわ。
”シルバーホーン”。プラチナ昇格試験の時の無人島に生息していた、銀の角を持つ鹿モンスターさんですわ。
あの時のお肉、とっても美味しかったのですわ。
ゴーレムに襲われていたアリシアさんを助けていて忘れていたのですけれども、ワタクシ達今とってもお腹が空いているのですわ。ここでなんとしてもシルバーホーンさんを倒して、美味しく頂きたいですわ!
「しかし不思議ですわ。シルバーホーンさん、ワタクシ達の方へ一直線に向かってきますわ。近くに他にモンスターさんの気配はありませんから、天敵から逃げてきているということはないと思いますわ」
「不思議だね。まるで、何かに引き寄せられてるみたいだ」
「……」
ワタクシとユクシーさんの会話を聞いていたアリシアさん、何やら苦い顔をしていらっしゃいますわ。
そうしている間にも、どんどんシルバーホーンさんの気配が近づいてきますわ。
あと少し近づいてきたら、ワタクシは物陰から飛びだして“タイムストップ”で時間を止めて、動けなくなったところを魔法で仕留めるつもりですわ。完璧な作戦ですわ。
「今ですわ! “タイムストッ――」
”ズルッ”
物陰から飛び出した時、ワタクシ木の根っこにつまづいて転んでしまいましたわ。
シルバーホーンさん、ワタクシ達に気づいて慌てて逃げていきますわ。
「待てー!」
ユクシーさんがハンマーを投げつけますけれども、シルバーホーンさんは華麗なステップでそれをかわして、悠々と逃げていきますわ。
ワタクシが転んだ姿勢から立ち上がった時には、はるか遠くに行ってしまいましたわ。とても追いつけそうにありませんわ。
「うう、残念ですわ……」
そこでアリシアさんがため息をついて。
「アンタ達、あのモンスターを仕留めたいのね?」
アリシアさんが、両手で何かの構えを作りますわ。左手を水平に突き出して、右手は引いて。その構え、どこかでみたことがあるような……?
「”ブラックアロー”」
アリシアさんの手に、黒い弓と矢が現れましたわ。
「行け!」
アリシアさんの黒い矢が木々の隙間を縫って飛び、左右に飛び跳ねるシルバーホーンさんの頭を正確に撃ち抜きましたわ。
シルバーホーンさんはその場に倒れてしまいましたわ。
「よし、当たった! ……じゃなくて。アタシにかかれば鹿モンスターくらい朝飯前よ」
「お見事ですわアリシアさん!」
「アリシアさんすごいね! あんなに素早く動くモンスターを、こんな遠くから仕留めるなんて」
「ふん。これでもね、小さい頃から修行してたのよ。……それよりも、他に言うことがあるんじゃないの? 気づいてないわけじゃないでしょう?」
アリシアさんはそうおっしゃいますわ。
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