第64話 シャーロット、あっさり『討伐不能』と呼ばれたモンスターを倒す
今年最後の更新となります!
皆様良いお年を!
「シャーロットさん、どうしてここに……!?」
ユクシーは混乱していた。
心の中に、いくつもの感情が渦巻いている。
無力感。
罪悪感。
そして、圧倒的な安心感。
シャーロットがいればもう何も怖くない。不思議とそう思えた。
「シャーロットさん、頑張って……!」
シャーロットならなんとかしてくれる、そんな気がした。
するとシャーロットは
「あら? 今ユクシーさんの声がしましたかしら?」
と振り向いて。
“シャアアァ!”
よそ見をしたことで電撃ブレスをモロに喰らった。
「シャーロットお姉さあああああああああん!!」
ユクシーの悲鳴が島に響く。
しかし。
「ビリッとしましたわ!」
ブレスの中から、無傷のシャーロットが現れた。
「……へ?」
ユクシーは、一体何を言っているのかわからなかった。
「お屋敷にいたころのことを思い出しましたわ! 冬にドアを開けようとしたときパチってなるんですわ! よくもやって下さいましたわね!」
「えええ……? あのブレスを、静電気扱い?」
ユクシーは、半ば呆れていた。
そこから魔法とブレスの凄まじい打ち合いが始まった。
地平の結び目が、2つの頭からそれぞれ電撃と冷気のブレスを連射する。一方のシャーロットは炎魔法1本で対抗している。
シャーロットの言うことが正しければ、シャーロットは“プチファイア”であの地平の結び目と渡り合っている。
正気の沙汰、どころではない。
“プチファイア”と言えば最下級魔法。魔法を勉強する者がまず初めに身に付けるようなものだ。威力も攻撃魔法の中で最弱。
だが、シャーロットの“プチファイア”は地平の結び目のブレスを打ち消すだけの威力がある。
火炎を電撃がかき消し、冷気を火炎が消し飛ばす。
人類史上まだ誰も見たことのないような応酬が繰り広げられる。
火炎が吹き散らされ、紫電が舞い、氷の破片が散る。夜を閃光と爆音が彩っていく。
巻き込まれれば即死は間違いない。だがユクシーは、その光景から目が離せなかった。
ユクシーの目には、シャーロットはまるで地上に降り立った女神のように見えた。
互角に見える撃ち合いだが、ここで勝負の天秤が傾く。
地平の結び目は頭が3つ。
中央と右の頭がそれぞれ電撃と冷気のブレスを放っているが、左の頭はまだ動いていない。余力を残しているのだ。
だがそれでも頭が2つある分、連射能力はシャーロットよりも上だ。
遂に、シャーロットが連射で撃ち負ける。
打ち消されなかった冷気のブレスがシャーロットに直撃し――
「へっくし!」
シャーロットにくしゃみをさせることに成功した。
……ただ、それだけだった。
「寒いですわ! よくもやってくれましたわね! 風邪をひいてしまったらどうしてくれるんですの!」
文句を言いながら平然とまた火炎を撃ち込んでくるシャーロットに対して、地平の結び目は本能的に理解する。
地平の結び目のブレスは直撃してもシャーロットにわずかなダメージしか与えられない。
だが、シャーロットの魔法を喰らえば、即死することを地平の結び目は理解していた。
――あの生き物は、危険だ。
――姿かたちは同じだが、これまで自分が容易く滅ぼしてきたあの小さな生き物とは、根本的に異なる存在だ。
――あの生き物には、自分を討ち滅ぼすだけの力がある。
――であれば、とっておきの切り札を使うしかない。
“シャー!!”
今まで静観していた3つ目の頭が遂に動く。
鎌首をもたげ。大きく開けた口から濃い紫の霧を吐き出した。
「シャーロットさん、逃げて」
霧を見た瞬間、ユクシーは反射的に逃げ出していた。あの霧は危険だと本能的に理解したのだ。
毒の霧に触れるや否や、岩山の端々にわずかに生えていた草や木が一瞬で枯れる。
そんな霧を、シャーロットは避けもしなかった。
「げほっげほ! この霧! 煙たいですわ~!」
「……」
ユクシーはもはや何も言う気がなくなっていた。
霧が晴れると、無傷のシャーロットが現れた。
“シャ……!?”
地平の結び目も、混乱している。
かつて必殺の毒で倒れなかった者はいない。だというのに、あの生き物はピンピンしている。
地平の結び目は、過去を思い返していた。
突然変異種モンスターである地平の結び目は今でこそ天敵などいない無敵の存在である。だが、生まれて間もない頃は大きさが普通の蛇よりも小さく、天敵におびえる日々だった。
鷹に襲われ、命からがら岩の隙間に逃げ込んだあの日の記憶が蘇る。
圧倒的な力の差。絶対的な“捕食者”と“被捕食者”の覆しようのない関係性。
地平の結び目は数百年振りに、恐怖した。
“天敵”に背を向けて、全力で逃げようとした。
だが、あの日のように身体はもう小さくない。地平の結び目が逃げ込めるような大きさの岩の隙間などは、もうどこにもなかった。
「“プチファイア”ですわ!」
シャーロットの放つ火炎魔法が、容赦なく地平の結び目の身体を焼き尽くす。
そして――1本の牙を残し、本体は巨大な皿に山盛りのから揚げになった。
大の大人程の大きさがある牙の前で、シャーロットはしばらく立っていた。
そして、ユクシーの方へ歩いてくる、
戦いの一部始終を見ていたユクシーは身構える。
シャーロットを利用していたことを。地平の結び目を目覚めさせてしまったことを。無謀な戦いを挑んだことを。責められるのだと思った。
今まさに結び目を葬り去ったあの一撃が、今度はユクシーに向けて放たれることになるのかもしれないとさえ思った。
だが
「ユクシーさん。良ければあれ、要ります?」
シャーロットは地平の結び目が残した牙を指さす。
牙の中には、たっぷりと解毒薬の材料となる毒が含まれている。ユクシーにとって、妹を救うために必要な、何を差し出しても手に入れたいものだった。
市場に出せばいくらの値が付くかわからない。国外からも買い付けに来る者はいるだろう。
そんな代物を、シャーロットはあっさりとユクシーに差し出した。
「……あ」
言葉を絞り出す。
「ありがとうございます! ありがとうございます……」
ユクシーは、泣きながら何度も頭を下げる。
シャーロットは何も言わず、優しくユクシーの頭を撫でるのだった。
皆様、良いお年を!
私は冬休みも執筆頑張ります








