第62話 届かない祈り
重いパート最終部分です
深夜の無人島で、遂に討伐不能と言われたモンスター“地平の結び目”が目覚める。
爆破された洞窟の瓦礫を押しのけ、巨大な3つの蛇頭が夜の空に飛び出す。
“““シュルルル……!!”””
地平の結び目は、眠りを邪魔された怒りのまま、ユクシーに襲い掛かる。
頭の1つが口を開け、電撃のブレスを放つ。
動きを読んでいたユクシーは獣人族の身体能力を活かして回避。
「こっちだよ!」
挑発しながら、ユクシーは深夜の森の中を駆けていく。地平の結び目が、木々をなぎ倒しながら追跡していく。
地平の結び目の3つある頭の内1つが顎を開ける。そして、電撃のブレスを放つ。
ユクシーが木の幹を蹴って横に跳んで回避。一瞬前までユクシーがいた場所を、電撃ブレスが焼き払う。
冷や汗をかきながらも、ユクシーは落ち着いて計画を進めていく。何度もブレスを回避しながら、ユクシーは目的の場所まで地平の結び目を誘導する。
そしてついに、予定位置まで地平の結び目を誘導することに成功した。
岩山エリアの高くそびえる2つの岩山。その間を地平の結び目が通過するその瞬間。
「掛かった!」
ユクシーは、設置していた点火装置を起動する。点火装置は、高くそびえる2つの岩山根元に埋め込んでいた火薬に繋がっていた。
“ドオオオオオオォン!!”
高くそびえる2つの岩山が今、轟音を立てて倒れ――結び目の胴体に襲い掛かる。
この時の崩落の音は、海を隔てて数十キロ離れたミウンゼルの街にも届いたという。
岩山はユクシーの狙い通り、地平の結び目の胴を直撃し、多大なダメージを与えていた。
だが、まだ地平の結び目の命を奪うにはほど遠い。動きを封じられこそすれど、地平の結び目はまだ生きている。
――ユクシーが見つけたある古いレポートには、地平の結び目の弱点の考察が書かれていた。
『大砲が地平の結び目の中央の頭に直撃した時、脳震盪でわずかな時間ではあるが中央の頭が気絶した。そのあいだ、他の2つの頭も動かなくなっていた。このことから、頭は3つあるが中央の頭が指令を出しており、中央の頭さえ潰せば地平の結び目は死ぬか行動不能になると考えられる』
ユクシーは、腰のハンマーを抜き、動きを封じられた地平の結び目の中央の頭に突撃していく。
ユクシーの胸に、両親の最後の言葉が蘇る。
『エレナのことを頼んだぞ』
数時間動き通しで疲れ切っているユクシーの身体から力が湧き上がる。
「シャーロットお姉さん、力を貸して!!」
ハンマーに渾身の力を込めて、振り下ろす。
そして、ハンマーの中で火薬が弾ける。シャーロットと協力して集めた火薬の中でも、特に上質なものを厳選してユクシーは詰め込んでいた。
火薬がハンマーの中で爆ぜて、常軌を逸した破壊力を生み出す。
“ゴゥッッッッ!!”
これがハンマーの破壊力に火薬爆発を乗せる、ユクシーの切り札。衝撃で自分の手も甚大なダメージを受ける、捨て身の一撃である。
夜の闇の中に、星が生まれたかのような眩い輝きが生まれた。その衝撃は計り知れない。
この一撃は、間違いなくこれまでユクシーが放った中で、最高のものだった。
――だが。
“シャアアアアアアァ!!”
地平の結び目を討伐するには至らなかった。流石にダメージは大きくまだ身動きが取れないものの、まだ生きている。
ユクシーが8歳から16歳になるまでの8年間の過酷な修行。集めた情報。綿密に用意した罠。獣人族の身体能力。シャーロットに力を借りて用意した火薬。両親から託された想い。エレナを助けたいという祈り。
それらすべてを積み上げても、地平の結び目の命には届かなかった。
「そんな……!」
――これが4年後であれば結果は違っていただろう。
より技術と知識を身に着けて、大掛かりで洗練された罠を設置し。そして今よりも大きくなった身体で、必殺の一撃を弱点に撃ち込めれば、地平の結び目を倒すことは可能だった。
だが、ユクシーには時間がなかった。
エレナの余命はあと数カ月。とても、身体の成長を待っていることなどできなかった。
「――まだだ!」
ユクシーは歯を食いしばってダメージでボロボロになった手でハンマーを握り締め、もう一度振り下ろす。
だが、
“コツン”
ハンマーは、弱々しい音を立てるばかりだった。
結び目が頭を振るって、ユクシーを岩山の残骸にたたきつける。
「ごめんなさい……」
これが最後だと覚悟して。ユクシーは謝罪の言葉を口にした。
それは、助けられなかった妹への。迷惑をかけてしまった冒険者ギルドへの。そして、火薬集めに利用したシャーロットへの言葉だった。
地平の結び目が中央の頭をもたげ、顎を開く。
そして今度こそユクシーを焼き尽くすべく電撃のブレスが放たれ、そして――
「“プチファイア”ですわ!」
飛来した炎の塊に打ち消された。
次回からシャーロットが暴れ始めます!
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