第61話 ユクシーの覚悟
少し重めの話が続くので、数回毎日更新していきます!
ユクシー・サラーティは辺境の山間部にある獣人族の村の生まれである。
家族は両親と妹。
家族仲は良好で、特にユクシーと妹のエレナは仲が良く、裕福ではないが幸せにあふれた家庭だった。
だがユクシーが8歳になる年。
村が、毒を持つ大型蜘蛛モンスター“イビルタランチュラ”に襲われた。
田舎の村の人員と装備ではイビルタランチュラに太刀打ちできず、村はあっという間に滅ぼされた。
他の村人共にユクシーの両親が必死に戦って時間を稼ぎ、ユクシーと妹のエレナだけが生き延びることができた。
『エレナのことを頼んだぞ』
それが、両親の最後の言葉だった。
ユクシーは山のふもとの人間の村に引っ越し、必死にエレナの面倒を見た。
村に残っていた資産では暮らしていくのに足りなかったため、村で農業や店の手伝いをして生活資金を稼ぎ。まだ小さい妹の面倒を見て。わずかに余った時間は、冒険者になるための修行に充てた。
よりお金を稼いで、これから大きくなるエレナが暮らしていけるようにするためだ。
働いているとき、村の同じくらいの年ごろの子供が楽しそうに遊んでいるのが目に入ってしまうのが、ユクシーにとってなにより辛かった。
12歳になり、ユクシーが冒険者登録すると生活に少しゆとりが出てきた。
通常、冒険者登録をするのはギフトを授かる15歳からだ。12歳のギフトを持たないユクシーが受けられるクエストは、難易度の低いものばかり。だがそれでも、村人の仕事の手伝いをするよりも多くのお金が手に入る。
エレナの誕生日にはささやかながらケーキを買うことができるようになった。2人で過ごす誕生日は、ユクシーにとってかけがえのない時間だった。
そんな時。
「エレナさんは、後5年持たないでしょう」
村の医者から、突然そう告げられた。
村を襲ったイビルタランチュラ。その特殊な猛毒が、エレナの体内にも少し入り込んでしまっていたのだ。
毒は徐々にエレナの体を蝕んでいく。
ユクシーは、エレナを助けるために必死でできることを全てやった。
病院代を稼ぐために毎日必死にクエストをこなしていく。ギフトもまだ授かっていないのに、獣人族の身体能力を活かしてギフトを授かっている冒険者達以上にモンスターを倒し、冒険者ランクを上げていく。
並行して、エレナの解毒のための情報を集めるべくベテラン冒険者たちとクエストに同行したりもした。
そして得られた情報を基に、国中を駆けまわって古い文献を読み漁って更に情報を集める。
そうしていく中、ユクシーは冒険者としての知識と実力をどんどん身に付けていった。
ギフト【錬金術】を授かってからは身体能力にモノを言わせた戦い方だけではなく、火薬やワイヤーによるトラップを交えた戦い方も身に着けていった。
稼ぎは多くなったが、そのほとんどは毒の影響でますます容態が悪くなっていくエレナの入院費に消えていった。
ユクシーは16歳となり、ようやくエレナを救うための方法を見つけた。
それは、40年前に冒険者ギルドが戦ったモンスター“地平の結び目”から採取された毒液を使って作成できる“万能解毒薬”。
それさえ手に入れば、エレナを助けることができる。
だが、それは不可能である。冒険者ギルドは“地平の結び目”の討伐をあきらめている。
ユクシーは、1カ月ぶりにエレナの入院している病院に向かった。
医者によれば、エレナの余命は数か月。
今では自力で起き上がることもできず、病院のベッドで寝たきりの生活をしている。呼吸さえ精一杯という状態だった。
ユクシーは覚悟を決めてエレナの病室へ向かう。腰には、ナイフを忍ばせていた。
――せめてもうこれ以上エレナが苦しむことの無いよう、楽にしてあげるつもりだった。
「お、かえり。お、ね、えちゃん」
病院のベッドの上で、エレナは笑顔を作って見せた。
息をするのもままならないほど苦しいはずなのに。必死に笑顔を作る。ユクシーを心配させまいとする、エレナの精一杯の気遣いだった。
ユクシーの手からナイフが落ちる。 涙を流しながら、ユクシーはエレナを固く抱きしめる。
「……病気が治ったら何したい?」
「パン、ケーキ。食べに、行きたい」
「うん」
「海を、見てみたい」
「うん」
「お父さんとお母さんの、お墓参りに、行きたい……」
「うん、うん」
ユクシーは、何度も力強くうなづく。
迷いはもうなかった。
「エレナのしたいこと、全部絶対に叶えてあげるからね。何をしても。どんなことをしても絶対に。絶対に」
ユクシーの目には、決意の火が灯っていた。
たとえ冒険者ギルドの規定に背こうと。討伐不能と言われたモンスターが立ちふさがろうと。モンスターと刺し違えようと。必ずエレナを助けるという覚悟を決めた。
重いパートはここまでで、明日の更新から明るくなる方へ話が進んでいきます!








