第57話 (王太子SIDE)挑んできたライバルを瞬殺する
ポケットでモンスターなゲームやりたい……けど原稿頑張ります!
(……尾行されているな)
最終試験2日目。
鬱蒼とした森の中を一人歩く仮面の冒険者アウロフことアウゼス王太子は、追跡してくる気配を察知していた。
数は2つ。足音からして、手練の冒険者だ。
(さて、どこで仕掛けてくるか……)
アウゼス王太子は、慌てる様子はなく淡々と足を進める。
そしてアウゼス王太子が開けた空間に出たとき。
「「よう、仮面野郎」」
アウゼス王太子を挟み込むように、2人の冒険者が現れる。1人は突剣、もう一人は大剣を構えている。
「恨むなよ。この試験じゃ何でもアリ。仲間を組んで複数人で1人を襲うのもアリだ」
「しばらくつけて様子を見ていたが、アンタは1人行動みたいだな」
2人の冒険者は、勝利を確信して笑う。
「「覚悟しな、仮面野郎!」」
2人の冒険者が、全く同時にアウゼス王太子の左右から攻撃を仕掛ける。
“ガキン!”
金属音が森に響く。2人の冒険者は驚愕に目を見開いていた。
アウゼス王太子は、右から襲い来る大剣を片手剣で、左からの突剣を指で挟んで止めていた。
2人の冒険者が渾身の力を込めているが、アウゼス王太子はそれぞれ片手で受け止める。
「馬鹿な、2人がかりだぞ……!」
「こいつ、どんな腕力してやがる!」
アウゼス王太子の手が、軽やかに動く。
2人の冒険者が掛けてくる力をキレイに受け流し、鮮やかに転倒させた。
「「ぐっ……!」」
2人の冒険者が尻もちを着き、立ち上がろうとするが――。
「悪いね。“これ”は貰っていくよ」
アウゼス王太子はいつの間にか、2人の首から下がっていたネックレスを掠め取っていた。
「「馬鹿な、いつの間に!?」」
試験失格となった2人の冒険者が、膝をついて落ち込む。
勝負がつき、アウゼス王太子が戦闘態勢を解く。
――その時。
はるか遠くから、アウゼス王太子の背中めがけて矢が飛来した。
“キンッ”
アウゼス王太子は、手にした剣で背中の方を見もせずに矢を弾き落とす。
「……嘘だ。背中の方を見もせずにあの攻撃を防ぐなんて」
大剣を持っていた冒険者が呆然と呟く。
「わざわざ君たちがこの射線が通りやすい開けた場所で襲ってきた時点で、君たちの仲間の弓使いが狙ってきていることは分かっていた。そして周囲の地形を考えれば、射撃地点はあの突き出た岩山以外あり得ない。あとは、わざと気を緩めて油断したフリをすれば、射撃の来るタイミングも僕の方で操れる。方向とタイミングさえ分かれば矢を弾き落とすことなんて容易いさ」
アウゼス王太子からは見えないが、岩山に潜伏していた弓使いは顔を真っ青にして逃げ出していった。
アウゼス王太子は、大事そうにペンダントを胸元にしまい込む。
「悪いが、君たちの持っていた支給食料と水は貰っていくよ。そういうルールだからね」
アウゼス王太子は、襲ってきた2人の冒険者が持っていた冒険者ギルド支給のリュックサックを担ぐ。3人分の荷物を背負っているというのに、まるで重さを感じさせない身のこなしだった。
「辺りも暗くなってきたな。失格となった受験生はすぐに試験開始の地点に戻るルールだが、この暗闇の中移動するのは危ない。明日の朝まで待った方が安全だろう。良ければ、一緒に夕食にしないか? 食料に余裕はあるし、丁度さっき美味そうな兎を三羽捕まえていたんだ。スープでも作ろう」
「あ、ああ。ありがとう。料理は俺も手伝うよ」
「俺も、俺も手伝うぜ! その代わり教えてくれ、アンタがこれまでどんな修行をしてあの強さを身に付けたのかを!」
アウゼス王太子に敗れた冒険者2人は、あっという間にアウゼス王太子と夕食を共にすることになった。
冒険者2人は試験失格なのだが、やろうと思えばルールを破ってアウゼス王太子に襲い掛かりペンダントを奪い返すこともできた。
しかし、冒険者2人は完全に心が折れていた。アウゼス王太子の視野の広さ・判断力・そして戦闘力に魅入られてしまったのだ。
ルールを破ってペンダントを奪い返すなど考えもつかなかった。
そして2人の冒険者は翌朝無事に失格者合流地点へとたどり着き、冒険者ギルドに保護されたのだった。