第57話 2人で美味しい料理を作りますわ
「そうと決まれば早速モンスターさんを狩りに行きますわ」
「おー!」
ワタクシは集中して、モンスターさんの気配を探しますわ。
「居ましたわ。ここから300メートルくらいかしら。群れを作っている中型モンスターさんがいらっしゃいますわ」
木が生えていてとても見えませんけれども、気配がはっきりとわかりますわ。
「凄い、どうやっているのシャーロットお姉さん。私も獣人だから耳はいいんだけど、全然そんなに離れたところにいるモンスターの気配は分からないよ」
「ふふふ。経験を積めばユクシーさんも分かるようになりますわよ。隠密魔法“ステルス”ですわ」
「わ! シャーロットお姉さんが透明になった!」
「これはワタクシの魔法の1つですわ。便利ですのよ、この魔法」
早速ワタクシ、作戦を開始しますわ。
群れで動いていたのは、鹿モンスターさん。角が銀色に輝いていて、綺麗ですわ。
鹿というのは草食で、普通は地面に生えている草を食べるのですけれども。この鹿モンスターさん達は、何と木の幹に噛り付いていますわ。
頑丈な歯ですわね……。
モンスターさんの数は3体。足音を立てないようにコッソリと近づいて……。
「麻痺魔法“パラライズ”ですわ! “パラライズ”ですわ! “パラライズ”ですわ~!」
麻痺魔法3連射で、あっという間に鹿モンスターさん達は動けなくなりますわ。
「ユクシーさ~ん! 麻痺させましたわよ!」
ワタクシが呼ぶと、ユクシーさんが木の間を歩いてやって来ますわ。
「ホントにあっという間に動けなくしちゃった……! やっぱりシャーロットお姉さんは凄いなぁ」
褒められてしまいましたわ。
「ではユクシーさん、仕上げをお願いしますわ」
「うん、後は任せて!」
ユクシーさんがハンマーを使って、鹿モンスターさん達にとどめを刺していきますわ。
ワタクシが魔法で倒すと、ワタクシしか食べられないお料理になってしまいますわ。なので、一緒に行動している間はユクシーさんにとどめを担当してもらうことにしましたわ。
「じゃあ、早速解体始めるね。これは私が持ってる小型ナイフだと時間がかかるかも……」
「でしたら、これを使ってくださいまし」
ワタクシは、大型ナイフを便利な穴から出してユクシーさんに貸しますわ。
「え? え、こんな大きなナイフ、どこから出したの……!?」
「ここからですわ」
ワタクシ、例の便利な穴を広げてユクシーさんにお見せしますわ。
「凄い! アイテムボックスだ! 本物見るの初めて! このスキルが使えると凄いダンジョン攻略が楽になるんだよね? 中に何が入ってるの!?」
「ふふふ。いろんなものが入っていますわよ。テントやベッドも入っていますわ~」
ユクシーさん、大はしゃぎですわ。耳をピコピコ動かしてはしゃぐその姿、とってもかわいらしいですわ~
ナイフ以外にも、色々道具は持ってきていますわ。
どれも、どんな内容の試験があっても不便がないようにマリーが選んでくれたものですわ。
ユクシーさんがテキパキとワタクシの貸したナイフを使って解体してお料理していきますわ。見事な手際ですわ。
「できた~!」
料理が出来たのは、日が暮れたころ。ちょうど晩御飯にいい時間ですわ。
出来たのは、鹿肉のステーキですわ!
ワイルドな感じがしてイイですわね……!
「「頂きます!!」」
ぱくり。
美味しいですわ~。
魔法でモンスターさんを倒して出てくる料理は、肉のジューシーさが普通のお肉よりも圧倒的に上ですわ。
ですけれども。
自分で採ってきたお肉を、自然の中で料理して(今回ワタクシは見守っていただけですけれども)食べるというのは、風情があってとても良いものですわ!
「このステーキ、とってもおいしいですわ! こちらのお料理を作ったシェフはどなたですの~!?」
「わ、私がシェフです……」
ユクシーさんが控え目に手をあげますわ。
「素晴らしいですわ! ユクシーさんに三つ星を差し上げますわ!」
「えへへ……ありがとう、シャーロットお姉さん」
ユクシーさん、はにかんでらっしゃいますわ。
こうしてワタクシたちは、楽しく食事を終えましたわ。
「ねぇシャーロットお姉さん、モンスターの食べなかった部位の素材、貰っていいかな?」
「もちろんですわ。でもそんなもの、何に使いますの?」
「錬金術の材料に使うんだ」
ユクシーさんは鹿モンスターさんの、内臓や皮に向かって手をかざしますわ。
「ギフト【錬金術】、発動」
すると、モンスターさんの素材がくすんだ色の粉に変わりましたわ。
「モンスターの素材は、火薬の上質な素材になるんだ。これを使って、寝床の周りに罠を張っておくと安心して寝られるんだ」
「なるほどですわ~」
それからワタクシ達は、近くの小さな湖で水浴びをしましたわ。
ユクシーさんが水浴びをしている間はワタクシが見張りを。ワタクシが水浴びをしている間はユクシーさんが見張りを。
この役目ばかりは殿方に任せられませんわ。女性のユクシーさんが相棒になってくれて本当に良かったですわ。
そしてワタクシ達は、今日の野営地の準備を始めましたわ。
ワタクシが昨日の夜上手く張れなかったテントを、ユクシーさんはテキパキと組立ててくれましたわ。
「やっぱりユクシーさんは凄いですわ」
「えへへ、ありがとうございます。でも、シャーロットお姉さんの方が凄いよ。こんな大きいテントに、ベッドまで持ち込めちゃうんだもん」
ユクシーさんはテントの周りに、鈴のついた細い糸を張ったり地面に火薬をうめたりしますわ。これでモンスターや他の冒険者さんが近づいてきても、音が鳴って分かるという訳ですわ。
これで安心して眠れますわ~。
「さぁユクシーさん、お休みにしましょう」
ワタクシはユクシーさんを抱きしめてベッドに寝ころびますわ。
「ふぇ!? 私は寝袋でいいのに……! ベッドが狭くなっちゃうよ」
「ユクシーさんは小柄ですから問題ないのですわ」
ワタクシが抱えていると、ユクシーさんは腕の中ですぐに寝てしまいましたわ。
無理もないですわ。昨日も沈没する船から島まで泳いで来たりして、疲れているはずですもの。
ユクシーさんの寝顔を見ていたら、ワタクシも眠くなってきてしまいましたわ。