第53話 工夫して樹木モンスターさんを食べますわ
ワタクシ、美味しいモンスターさんを探して森エリアを探索していますわ。
「あら?」
ワタクシ、森が開けた場所を見つけましたわ。
何かを避けるように、急に木が途絶えていますの。
そしてその中心に、大きな洞窟がありますわ。
目を引くのは入り口。“立ち入り禁止”と大きく書かれた看板が立っていて、辺りが鎖で封鎖されていますわ。
「ここが例の立ち入り禁止区域ですのね」
洞窟からは、ひんやりとした空気が流れ出てきますわ。
うっかり入ってしまったら怒られそうですし、近づかないようにしますわ。
「さて、モンスターさんの気配がすぐ近くにあるのですけれども――見当たりませんわね」
辺りに生えているのは木ばかり。
確かにモンスターさんの気配は目の前にあるのですけれども。
というか。
ワタクシの前に生えている木から、モンスターさんの気配がしますわ。
「あれれ~、おかしいですわ~」
ワタクシは大げさに辺りを見渡しますわ。
「この辺りにモンスターさんの気配がした気がするのですけれども~。気のせいだったみたいですわ~。あきらめて立ち去ることにしますわ~」
ワタクシがそうやってあきらめて立ち去るフリをして木に背を向けた瞬間。
“シュバッ!!”
突如木の枝が伸びて、ワタクシに襲い掛かってきましたわ。
でも残念、ワタクシはその攻撃を読んでいましたわ。
「掛かりましたわね! “プチファイア”ですわ!」
ワタクシは振り向きざまに魔法を木に放ちますわ。
“ボオオオオオォ!!”
大炎上ですわ。
お屋敷を追放されてすぐのころ、洞窟の中で出会った宝箱擬態モンスターさん。
宝箱が口を開けて襲ってきたあの恐怖を、ワタクシ忘れてはいないのですわ。
ワタクシ、ちゃーんと学習しているのですわ。擬態モンスターさんが襲ってくるのをあえて油断した振りをして誘って、返り討ちにしたのですわ。
ワタクシの知恵の勝利ですわ!
樹木擬態モンスターさんは炎に包まれて――
消えましたわ。
「え、お料理になってくれるのではありませんの!?」
モンスターさんがいた場所には、丈夫そうな枝が落ちているだけでしたわ。
……考えてみれば。
確かに、木はお料理にはなりませんわよね……。
「しょんぼりですわ」
図鑑で調べると、このモンスターさんは“トレント”というらしいですわ。今のように樹木に擬態して、無防備な獲物に不意打ちで襲い掛かる恐ろしい習性があるらしいですわ。
辺りには沢山モンスターさんの気配がありますけれども、すべてトレントさんですわね。
折角ですし、ワタクシ色々試してみますわ!
「“プチアイス”ですわ!」
凍らせてみたり。
「“トルネード”ですわ!」
竜巻で根っこから掘り起こしてみたり。
「“ウォーターショット”ですわ!」
水浸しにしてみたり。
後は麻痺させた後で燃やしてみたり。とにかく色々試したのですけれども……。
「駄目ですわ全然お料理になりませんわ~!」
そこでワタクシ、1つ気付いたことがありますわ。
場所によって、トレントさんの姿が大きく違いますわ。
葉っぱの数や色、幹の太さなどが全然個体によって違うのですわ。
どうやら、周りの木の種類に合わせているようですわ。
等と考えながら歩いていると、甘い香りのする木が生えている場所がありましたわ。辺りに生えている木全てから、ほんのりと甘い香が漂ってきますわ。
そしてその中に、トレントさんが一体紛れてらっしゃいますわね。
ワタクシ、閃きましたわ。
「この魔法ならどうでしょう。“グラビティプレス”ですわ!」
ワタクシ、トレントさんを重力で握りつぶしますわ。
“グシャッ”
そして――
「メープルシロップになりましたわ~」
思った通りですわ。
木から、甘い香りのする蜜を絞り出せば食べられるのですわ!
瓶の中で、琥珀色の液体が揺れていますわ。
いい香りですわ~!
「でもメープルシロップは単体で食べるモノではありませんわ」
メープルシロップは、何かにかけて食べるものですわ。
理想はパンケーキ。
メープルシロップに合って、単体ではあまり味が無くて、それでいてある程度食べ応えがあるものなんて――
「ありますわ!」
じゃん!
食料として支給されたビスケット!
これにメープルシロップを掛けたら美味しく食べれるのですわ!
ワタクシ、早速ビスケットを取り出してメープルシロップを掛けますわ。
ビンから、とろ~りとメープルシロップが流れ出ると、ますますいい香りが漂ってきますわ。
そして、ぱくり。
「美味しいですわ~」
さっきまで全然美味しいと思わなかったレンガビスケットを、食べる手が止まりませんわ~!
パクパクですわ。
「おかわりですわ!」
ワタクシ食欲モリモリですわ。
――そして。
「レンガビスケットを食べつくしてしまいましたわ……」
そんな。
嘘ですわよね?
何かの間違いですわよね?
カバンの中を何度ひっくり返しても、もうビスケットがありませんわ。あるのは水だけですわ。
なんということでしょう……。
「これではまるでワタクシが、食欲に目がくらんで2日分の食料を半日で食べきってしまった食いしん坊みたいではありませんの!」
心外ですわ!
というわけで、食べるものがもうなくなったので何としてもメイン料理になるモンスターさんを探して食べないといけないのですわ!








