第5話 『冒険者ギルド』というレストランで、サンドイッチを食べますわ
その日ワタクシは、丁度いい大きさの木のウロで寝ましたわ。
森の中で眠るなんて初めてのことでしたけど、思っていたよりずっと快適でしたわ。
そして……。
「街ですわー!」
翌日。
ワタクシは遂に、街に到着したのですわ。
これでフカフカのベッドで眠れますわ。
それに何より。
「サンドイッチが食べれますわー!」
ワタクシの好物、それはサンドイッチ。森でどんなモンスターを倒しても、パンが入った料理が出てくることはありませんでしたわ。
いくら美味しいお肉やシャーベットを食べても、サンドイッチを食べたい欲は満たされることはありませんでしたわ。
食欲とサンドイッチ欲は別物ですわ。
「サ、サ、サ、サンドイッチ~♪」
鼻歌を口ずさみながら街のレストランを探しますの。
そして、ワタクシのサンドイッチ欲をビビッと刺激するレストランを見つけましたわ。
「“冒険者ギルド”……? 変わった名前のレストランですわね……?」
でも開いたドアから中を覗くと、テーブルで食事をしている人がいますし。レストランで間違いないですわ。サンドイッチを食べている方もいらっしゃいますし。
そしてサンドイッチを注文しましたわ。屋敷を追い出された時、お小遣いを持ち出しておいてよかったですわ。
「このレストランのサンドイッチ、絶品ですわ~!」
パクパクですわ。
それにしてもこのお店、やけに剣や弓で武装した方が多いですわ。物騒ですわ。
そんなことはさておいて。
ワタクシ、庶民のレストランに来たら一度やってみたかったことがあるのですわ。
ワタクシはカウンターにいる、かわいらしい制服の女性ウェイトレスさんにこう言いましたわ。
「ここのお店、カードは作れますかしら?」
庶民のお店には、“ポイントカード”という仕組みがあると、メイドから聞いたことがありますの。
なんでも、通うたびにカードにポイントが溜まるというらしいのですわ。
ポイントが貯まると、カードの見た目が綺麗になったり隠しメニューが注文できるようになる特典があるのですわ。
一度作ってみたかったのですわ!
「カード……ああ、冒険者カードの作成ですね。では、こちらの紙に必要事項をご記入ください」
手続きを済ませると、銅色のカードを貰いましたわ。
「これが憧れの(ポイント)カード! これが段々ランクアップしていくのね。楽しみですわー!」
「はい。モンスターを討伐した証明となる素材を持ってきていただければ、(冒険者)カードがランクアップします」
モンスターの素材を持ち込むとランクアップ……? 変わったレストランですわ。
「モンスターの素材って、こういうものですの?」
ワタクシは、これまで倒したモンスターの素材をカバンから出しますわ。
スライムさんを倒した時にジェラートと一緒に落ちていた小さな半透明の結晶。狼さんの爪。そして、宝箱に入っていた貝を倒したときに拾った、宝箱の蝶番。それをどっさりとカウンターの上に出しますの。
「ええ!? こんなに沢山モンスターを倒したんですか!?」
ウェイトレスさん、大分驚かれていますわ。
「ええ。街の西側の森で倒しましたわ」
「登録してすぐの方がこれほど沢山の素材を持ち込んだケースはこれまでにありませんね……。失礼ながら、本当にシャーロットさんがご自身で討伐したモンスターの素材でしょうか? 確認のため、『ステータスオープン』と唱えて、ステータス画面を見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「こうかしら? “ステータスオープン”」
すると、ワタクシの前に半透明の画面が浮かび上がりますわ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
シャーロット・ネイビー
LV:29
HP:28/28
MP:44/44
筋力:23
魔力:36
防御力:29(+ボーナス105)
敏捷:19
スキル
〇索敵LV6
〇オートカウンター(レア)
使用可能魔法
〇プチファイア
〇プチアイス
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
うーん。なんだかよくわからない数字ばかり並んでいますわ。
「レ、レベルにじゅ――!? こほん、失礼しました。人のレベルを言いふらすのはマナー違反ですね。驚きのあまりつい口に出てしまいました、申し訳ありません」
受付のウェイトレスさんがなにやら動揺してらっしゃいますわ。
「この“レベル”という数字は、一体なんですの?」
「むむ。難しいことをお聞きになりますね。レベルとは……冒険者にとってのアイデンティティ、積み上げて来た実績の象徴、とでもいうべきでしょうか?」
よくわかりませんわー!
一体なんですのこの数字ー!
「さて、話が逸れてしまいましたが。シャーロットさん自身がモンスターを討伐できたという確認は出来たと思います。疑ってしまい、申し訳ありませんでした」
ウェイトレスさんがモンスターさんの素材を数えていきます。
「スライムの結晶が21個にドレッドウルフの牙が6個と……この金具のような素材はなんですか?」
「ああ、それは宝箱みたいな見た目をした貝のモンスターさんの素材ですわ」
「宝箱のような見た目……ミミックですか!? ミミックはこの辺りの地域に生息が報告されていないレアモンスターです! ということは、シャーロットさんは、この街の冒険者さん達全員が見つけられなかったモンスターを見つけて倒したということになります! 一体どうやって見つけたのですか!?」
「どうって……ワタクシ、耳が良いのでモンスターの気配を感じ取っただけよ?」
「ふふふ。どうやら、シャーロットさんはとても優れた索敵系のギフトをお持ちのようですね。戦闘向けではありませんが、冒険者なら皆うらやましがる優秀なギフトですよ」
話しながら、ウェイトレスさんが手元で何か紙に書きながら計算していますわ。
「……さて、先ほど頂いたモンスターの討伐証明素材で、シャーロットさんはシルバー冒険者にランクアップしました。登録初日にランクアップだなんて前代未聞です。おめでとうございます」
ウェイトレスさんが、カウンターから銀色のカードを取り出してくれますわ。
「まぁ、ピカピカで綺麗ですわー!」
「この上には、更にゴールド・プラチナ・パール・ダイヤランクが存在します」
そう言ってウェイトレスさんがカードを見せてくれます。
まぁ! まぁ! まぁ!
「とても綺麗ですわ! 特にワタクシその“ダイヤランク”のカードが気に入りましたわ!」
「シャーロットさんならすぐにダイヤランクに上がれますよ。……いえ本当に。お世辞でもなんでもなく。すぐに上がれると思います」
「ふふふ。ありがとうですわ。キラキラのカードを手に入れるのが楽しみですわー!」
こうして“ポイントカード”を手に入れたワタクシは、ウキウキの気分でレストランを去ろうとしたのですが……。
「オイオイお嬢ちゃん、ズルはいけねぇなあ」
にやにやと下品な笑みを浮かべた殿方が声をかけてきますわ。
「いいもん着て、さぞかしお金持ちなんだろうなぁ。お金でモンスターの素材を買って冒険者ランクを上げようだなんて、ズルはいけねぇよ。罰として、財布の中身と着てるもん全部没収しちゃうぜ。へっへっへ」
そう言って、殿方は腕まくりして拳を握ります。
「オレ様はこの冒険者ギルドで最強。レベルはなんと、“8”だ。“圧倒的な実力差”って奴を、思い知らせてやるぜぇ!」
だからその“レベル”という数字は一体なんですのー!?