第46話 海辺で食べるフィッシュ&チップスは美味しいですわ
「潮風を受けながら食べるフィッシュアンドチップスは美味しいですわ~!」
ワタクシは殿下を(無理やり)引っ張ってきて、出店で買ったフィッシュアンドチップスを食べていますわ。
腰掛けているのは港の公園にあるベンチ。目の前が海でとても見晴らしもよいですわ。
流石は港街。フィッシュアンドチップスは、今住んでいる街で食べるモノよりもずっとおいしいですわ。
あっさりとした白身魚がカラッと揚がっていて、かじると口の中でお魚のジューシーな旨味が広がりますわ。
そこにケチャップの酸味が絡んで! もう堪らない美味しさになっていますの!
「幸せだ……僕はとても幸せだ……!」
ベンチで隣に座っているアウゼス殿下も号泣しながらフィッシュアンドチップスを食べていますわ。
正直なところ、いくらフィッシュアンドチップスが美味しいとはいえ泣くほどのモノでは無いのですけれども。
アウゼス殿下がなぜこんなに喜んでいるのか、ワタクシにはわかりますわ。
殿下は、生まれたときからずっと王宮で暮らしていたのですもの。王宮のテーブルに並ぶのは、高級食材を腕自慢の王宮専属シェフが調理した豪勢な料理。毎日がまるでパーティーのような贅沢。
でも、毎日豪華な料理だと飽きてしまうものなのですわ。
特にアウゼス殿下は第一王子。街に出て庶民のレストランで食事をとるなど、とても許されないのですわ。
きっと殿下は王宮から街を見下ろして
『僕も、あの庶民の食べている料理が食べてみたい……』
とずっと考えていたに違いないのですわ。
ですから、
「シャーロットさんと一緒に公園のベンチでフィッシュアンドチップスを食べるだなんて。こんな、こんな幸せなことがあってもいいのか……!」
と歓喜の涙を流しながらフィッシュアンドチップスを食べているのを笑うことなどとてもできないのですわ。
気持ちはわかりますわ。ワタクシも、お祭りで出店の料理を食べるのがとても楽しみでしたもの。
今日くらいは沢山素朴な料理の味を楽しんでほしいですわ。
「殿下、そんなに急いで食べるから口元にケチャップがついていますわよ。もう、小さいころからこういうところは変わらないんですから」
殿下が慌ててハンカチで口元を拭いますわ。
「でも、殿下が変わっていなくてワタクシ少しうれしいですわよ」
「え?」
「ワタクシ侯爵家を追い出されてから、他の友達には縁を切られてしまいましたもの。平民とは友達でいられない、と。殿下だけですわ。平民になってからも変わらない関係でいてくれたのは」
「シャーロットさん……」
「あの日殿下がワタクシの新しい屋敷に来てくださって、ワタクシうれしかったのですわ。ワタクシにとって、殿下はとっても大切な幼馴染ですわ」
「……僕も。僕にとってもシャーロットさんはとても大切な――!!」
「あ、海の中からモンスターさんが出てくる気配がしますわ」
”ザバァ!”
『目障りな人類は皆殺しだギョ~!』
海の中から、半魚人モンスターさん達がわらわらと這い上がってきましたわ。手には三又槍を持っていますわ。
『お前らの中に、地上侵攻にビビってる腰抜けはいるギョ?』
『『『いないギョーーー!!』』』
先頭に立つモンスターさんはひと際身体が大きく、他の個体よりも大きな槍を持っていますわ。リーダーなのかしら。
『目障りな人間どもを血祭りに上げたいギョか?』
『『『ギョー!!』』』
みなさん一斉に槍を振り上げますわ。
『地上侵攻、頑張るギョ!』
『『『えい、えい、ギョー!!』』』
なんだかとってもやる気満々な様子ですわ。
「えーと、なんだったかしらあのモンスターさんは……」
ワタクシは、図鑑を便利な穴から取り出して調べますわ。
「ええと、確かこの辺りのページに……ありましたわ。『“サハギン”。非常に好戦的で知能の高い、半魚人のモンスター。地上の支配をもくろみ、人類に度々攻撃を仕掛けてくる』ですって。物騒ですわ~」
と、ワタクシが読み上げていると。
いつの間にか隣にいたはずの殿下がいなくなっていますわ。
「空気を読まず、大事な時間を台無しにした貴様らは絶対に許さない!!」
アウゼス殿下が、いつの間にか剣を抜いてサハギンの群れに突撃していきましたわ。すごい剣幕ですわ。
そんなにフィッシュアンドチップスを食べるのを邪魔されたのを怒っていますのね。
「殿下ったら食い意地が張っていますわ~」
殿下が剣でサハギン達を片っ端から倒していきますわ。
ワタクシ、剣のことはまるで分らないのですけれども。殿下の剣技が凄くお上手だというのは見ていてわかりましたわ。
昔から殿下は剣がお上手だったのですけれども、今でもちゃんと稽古をしてるのですわね。偉いですわ~。
殿下は普段は天気の話ばかりしているポンコツですけれども、やるときはちゃんとやる人なのですわ。
『ギョオ!? なんだこの人間、強すぎだギョ!』
『まるで歯が立たないギョ!』
剣を振るいながら殿下が駆け抜けると、そこにいたサハギンたちは一体残らず倒れていますわ。
「よくも、よくもこの港の平和な雰囲気を壊したな……! 絶対に! 絶対に許されないぞ!」
殿下は、街の平和が脅かされたことにも怒っているようですわ。
ポンコツですけれども国民思いなのですのね。そういうところも、小さいころから何も変わってはいませんわ。
「ワタクシも、黙ってみているだけというわけにはいきませんわね。麻痺魔法“パラライズ”ですわ」
『ギョオ!?』
『身体が動かないギョ!』
サハギン達がワタクシの麻痺魔法で動かなくなりますわ。
回りくどいことをせず、攻撃魔法で倒してしまうというのも考えたのですけれども。
ワタクシが魔法でモンスターさんを倒すと、ギフト【モンスターイーター】の効果で料理になってしまうのですわ。
ワタクシ、
・虫モンスターさん
・ネズミなどの雑菌を持っている可能性が高い不潔なモンスターさん
・人型モンスターさん
・人の言葉を喋る知性あるモンスターさん
・無機物モンスター
は食べないと決めているのですわ。
サハギン達は人型ですし言葉もしゃべるので食べようとは思いませんわ。
きっとワタクシが“プチファイア”でサハギン達を倒したら、きっとフィッシュアンドチップスか魚のムニエル辺りになってしまいますわ。でも、食べるわけにはいきませんし、捨てるしか無いですわ。
目の前にある美味しそうなお料理を捨てるなんて、そんな残酷なことできませんわ~!!
というわけで、今日はワタクシは麻痺魔法でサハギン退治のお手伝いをするだけにしようと思いますわ。
「シャーロットさんが魔法で手伝ってくれた!? うおお、やる気と力が湧いてくるぞ!」
殿下が剣で動けなくなったサハギン達をズバズバ倒していきますわ。
あっという間に最後の1体になりましたわ。持っていた三又槍も殿下に輪切りにされてしまいましたわ。
「最初に先頭で声を張り上げていた個体だな? 貴様がリーダーか」
殿下がサハギンの喉元に剣の切っ先を突きつけますわ。
「貴様たちの本拠地の仲間に伝えろ。次に地上に顔を出したら、貴様らの住処に国中のゴミを集めて捨てて小魚一匹棲めない環境にしてやると」
「ギョギョ、地上侵攻はもう懲り懲りだギョ~!」
サハギンさんは慌てて海へと逃げ去っていきましたわ。
「ふぅ、これで一件落着だな。シャーロットさん、怪我は無いか?」
「ワタクシは大丈夫ですわ。殿下こそ、お怪我はありませんこと?」
ワタクシと殿下は笑い合いますわ。
「折角のランチタイムが台無しですわ。殿下、この後お暇かしら? 紅茶でも飲みに行きません?」
「暇だ、凄く暇だとも! 喜んでご一緒させてくれ!」
殿下ってば、はしゃいでいますわ。きっと運動してとても喉が渇いてしまったのですわね。
こうしてこの日は久しぶりに殿下と紅茶を飲みながらお話ししながら過ごしましたわ。
知人から『海から無限に金のイクラ持ったシャケが出てきてひたすら迎撃する話入れようぜ』と勧められて『めちゃくちゃ面白いなそれ!』と思いつつも色々アウトなのでサハギンに落ち着きました