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第41話 (試験官SIDE)プラチナ級昇格試験にとんでもない連中がやってきた

「今年は退屈だな……」


 プラチナ昇格試験の会場にて。


 身体能力測定の道具の置いてある試験室で、一次試験の試験官ガノガンはあくびをしていた。

 

「あくびはよしてくださいガノガンさん、ほら、もう次の受験者が来ちゃいますから」


 ガノガンを、若い試験補佐官がたしなめる。


「ンなこと言っても、今年は凡人しかいないぜ。もっと、目が覚めるような人材と出会いたいもんだぜ」


 などと話していると、扉を開けて新しい受験者がやってくる。


 年齢は30程度。ガタイがいい男だ。


「じゃあ、試験内容を説明するぞ。一次試験では、魔力と筋力を計測する。魔力は、そこの机の上にある水晶玉に手をかざして魔力を流し込んで、水晶玉の色の変化で計測する。筋力は、特殊なベンチプレス設備で計測する」


 ガノガンが部屋にある設備を指差す。


 小さな革張りのベッドがあり、その両脇に台が立っている。


 そして台と台は、金属製の棒を支えている。


「そのベッドの上に寝転がって、胸のあたりでその金属の棒を持ち上げるんだ。その棒はダイヤルで重さが調整できるようになってる。好きな重さに挑戦してくれ。おっと、最初は一番重く設定されているから気を付けてくれ」


「おっし、やります! まずは筋力から行くぜ!」


 受験生は棒のダイヤルを回し、150キロに調整する。そして、ベッドに寝転ぶ。


「うおおお、おおおお!!」


 胸のあたりの高さで、両腕でゆっくりと棒を持ち上げていく。


「おおおおお!!」


 そして、腕が伸び切る。


「オーケー、筋力テストの成績は150キロだな。じゃあ次、魔力テストを受けてくれ。水晶玉に手をかざして魔力を込めるんだ。魔力が強いほど、色が濃くなる」


 言われた通り、受験生が水晶玉に手をかざす。


「ふううううん!!」


 受験生が全身全霊で魔力を込める。水晶玉の中心部分が白く輝く。


「まだまだぁ!」


 水晶玉の色は黄色くなり、そしてオレンジ色へと近づいていく。


「……はい、そこまで」


 試験管ガノガンが声を掛ける。


「筋力テストと魔力テスト、2つの成績を合わせると……合格だ」


「ありがとうございます!」


 受験者が深く頭を下げる。


「さぁ、合格者は奥のドアへ進んでくれ」


 ガノガンが指さすドアへ、受験生は軽い足取りで歩いて行った。


「……はぁ、退屈だなぁ」


 ガノガンが大きくため息をつく。


「筋力も魔力も、合格ラインぎりぎり。今年はこんな受験生ばっかりじゃないか。俺もう帰っていいかな? 眠くなってきちゃったぜ」


「そうおっしゃらないでください。さぁ、次の受験者が来ますよ」


 扉を開けて入ってきたのは、夜会用の仮面を着けた若い冒険者アウロフ。身にまとう雰囲気が、タダモノではない。


(事情は聞いてるぞ、偽名で冒険者登録したアウゼス王太子……! やはり本物は、纏う雰囲気が俺たち庶民とはまるで違う……!)


 流石のガノガンも、次期王位継承者の登場で背筋を伸ばす。


「では、早速ですが1次試験では筋力テストと魔力テストを受けてもらいます」


 ガノガンが試験内容について説明する。


「筋力テストと魔力テスト。お好きな方からどうぞ」


「では、筋力テストからやらせてもらおうか」


 アウゼス王太子は、筋力テスト用の棒のダイヤルをいじり、重量を250キロに設定してベッドに寝転ぶ。そして、


「ふん!」


 250キロの重量を難なく持ち上げて見せた。


「おお、お見事……!」


 お世辞ではなく、ガノガンがそう思わず零してしまう。


「では次、魔力テストの方をやらせて貰おう」


 仮面の冒険者アウロフは、ベッドから起き上がって水晶玉に向き合う。


「はああああぁ……!」


 水晶玉の中で赤い眩い光が生まれる。そして、更に赤黒く染まっていく。


“ピシィ……!”


 その時、水晶玉に小さな亀裂が走った。


「ストップ! 合格、合格ですから魔力を込めるのをおやめください! それ以上やったら壊れてしまいます!」


 仮面の冒険者アウロフが魔力を込めるのをやめて、水晶玉の光が消える。


「お見事です。まさかこれほどの実力をお持ちだとは。いや、実に勿体ない。冒険者一筋で打ち込んでもらえば、間違いなく歴史に名を残す偉大な冒険者になるでしょうに……!」


「ありがとう。王位継承争いに負けたらその道も考えるよ」


「はは! 冗談も超一流ですな!」


 ガノガンが心の底から笑う。


(第一王子で民からも大人気。貴方が王位継承争いで負けるはずがないでしょうに)


 そんなことを思いながら、ガノガンは仮面の冒険者アウロフことアウゼス王太子が一次試験合格者用の扉に消えていくのを見送った。


「……どうですか、ガノガンさん? まだ眠いですか?」


「いや、コーヒーがぶ飲みした後くらいギンギンに冴えてるぜ」


 そして、次の受験者が入ってくる。


「シャーロット・ネイビーです。よろしくお願い申し上げますわ」


 そういってシャーロットはスカートの裾をつまんで優雅に一礼する。


(随分お上品な子が来たな……。礼儀正しさだけなら今日一番だが、そんなものなんの加点にもならないからな)


 ガノガンは試験内容を説明する。


「わかりましたわ、まずはこの棒を持ち上げればいいのですわね? ワタクシ、頑張りますわ!」


 そう言ってシャーロットは張り切ってベッドに寝転ぶ。


「おいまてお嬢さん、一個言い忘れていたがその棒は最初一番重く設定されていて――」


「せーの、ですわ!」


 シャーロットは、難なく魔法で重量が付加されている棒を持ち上げた。


 一瞬、部屋の空気が凍り付く。


(馬鹿な、初期設定で1トンの重さがあるあの棒を持ち上げただと!? あんなに軽々と!?)


 ガノガンは混乱していた。


「えーと、試験官様? いったいこの筋力テスト、どれくらいで合格になりますのかしら?」


「ご、合格基準か? ええと、魔力テストの成績がゼロでも300(キロ)持ち上がれば合格だ」


「わかりましたわ。300(回)で合格ですのね?」


 そうして何を思ったのか、シャーロットは棒を上げ下げし始めた。


「いーち、にーい、さーん!」


 1トンの重さがある棒を、苦もなくリズミカルにシャーロットは上げ下げしていく。


「え、えええええ……?」


 ガノガンは、目の前の光景が信じられなかった。


 どこぞの貴族のご令嬢といわれても信じられるようなお上品なお嬢様が、筋骨隆々の冒険者でも持ち上げられないような重さを軽々上げ下げしているのだから。


「39、……40! ダメですわ、ワタクシもうこれ以上持ち上げられませんわ~!! この棒、見た目よりも重いですわー!」


 シャーロットは汗をかいて息を荒くしていた。


(まったく、何の冗談だよ……!!)


 一方のガノガンは混乱している。


「では次、魔力テストですわね。ワタクシ、今度こそ頑張っていい成績を出しますわよ!」


「お、おう。頑張ってくれよな……?」


 ガノガンは、水晶玉の前に立つシャーロットに対して、もはやなんと声を掛けたらよいかわからなくなっていた。


「では、行きますわ~!」


“パリイイイィン!!”


 その瞬間、水晶玉は粉々に砕け散った。


 1つの欠片が指でつまめないほど、それはもう細かな破片に砕け散った。


「……ワタクシ、何かやり方を間違ってしまいましたの?」


 ガノガンははっきりと見ていた。


 シャーロットが魔力を加えた瞬間、水晶玉の中で全てを飲み込まんとするようなドス黒い光が生まれたのを。


 魔力計測の水晶玉があんな色になるのを、ガノガンはこれまで見たことがなかった。


「……駄目ですガノガンさん、下に入れていた水晶玉も砕けちゃってますね」


「周りにあったのまで駄目になったのか!?」


 試験補佐官が、水晶玉の乗っている台の下にある引き出しから、無残な姿になった予備の水晶玉を取り出して見せていた。


「ワタクシのせい、これワタクシのせいなのですよね? ほんっっっっっっっっとうに申し訳ありませんわ! 高価な物なのですよね? ワタクシ、弁償いたしますわ!」


 当のシャーロットがなんども頭を下げるのをガノガンは不思議そうに見ていた。


「ワタクシ、もう一度ちゃんとした方法で魔力を込めますわ。ですから、もう一度テストさせてくださいまし!」


「勘弁してくれ! 合格だからもう二度と魔力計測水晶には近づかないでくれ!」


「ですけど……」


「いいから、合格だ! 水晶玉も全然高価なものじゃない(大嘘、本当は高いし後で始末書を何枚も書かないといけない)から、気にしないでくれ!」


「そ、そうですのね……。わかりましたわ、それでは失礼いたしますわ……」


 シャーロットが合格者用の扉に消えるのを見届けて、ガノガンはやっと一息ついた。


「ふぅ、なんだったんだあのバケモンは……!」


「ガノガンさん、納得いきません」


 試験補佐官が、ガノガンに不満そうに申し立てる。


「今のは明らかに設備の不具合です。筋力テストの棒は、魔法が一時的に不具合で重さが掛からなかったのでしょうし。魔力計測の水晶玉も不具合で勝手に割れただけだと思います。あの受験者が、我々の目をかいくぐって物理的に割ったのかもしれません。とにかく、僕はあの受験生に一次試験合格に値する実力があるとは思えません」


「お前、これを見てみろ」


 ガノガンは、シャーロットが何度も持ち上げていた棒に触れてみせる。


「これは……!」


 鋼鉄製の棒は、シャーロットが握っていた部分が手の指の形に凹んでいる。


「馬鹿な、そんな握力あり得ない!」


「まだ信じられないってんなら、あのお嬢ちゃんに腕相撲でも挑んでくるといい。俺は遠慮しとくよ、手を握りつぶされるのはゴメンだからな」


「ぼ、僕も遠慮しておきます……!」


 試験補佐官の顔は青ざめていた。


「わかったら、倉庫から新しい水晶玉取ってこい! あとがつかえてんだ」


「は、はい!」


 そうして予備の予備の水晶玉が駆り出され、試験は進んでいった。


 いよいよ最後の受験者が入ってくる。


「ユクシー・サラーティです。よろしくお願いします」


 小柄な獣人の少女は、丁寧にお辞儀する。


 そしてユクシーは試験について説明を受け、まず魔力テストに臨むのだが――。


「魔力はゼロ、だな」


 ユクシーは懸命に魔力を込めているのだが、水晶玉は全く光らない。


(獣人種は身体能力が高い代わりに魔力が乏しいもんだが、この子は特に魔力が低いな……)


 ガノガンは顎髭を撫でる。


「さて、次は筋力テストだが――」


「はい、頑張ります!」


 全くあきらめる様子のないユクシーに、ガノガンは一瞬ひるむ。


「……魔力がゼロのお嬢ちゃんが合格するには、300キロ持ち上げないといけない。どうする? やれそうかい?」


「やります。絶対持ち上げて見せます!」


 ユクシーがベッドに寝転び、呼吸を整える。


「いきます。せー、の!」


 ユクシーが渾身の力を込める。だが、棒は微動だにしない。


「……」


 ガノガンはその様子を静かに見守っていた。


「こんな所であきらめちゃだめだ……! ずっと鍛えてきたんだもん。私は必ずこの試験に合格して! 最終試験まで進んで! 妹を、エレナを助けるんだ……!」


 その時、ガノガンは、ユクシーの瞳に宿るとてつもない熱量の執念の炎を見た。ガノガンの背中に寒気が走る。


「お父さんとお母さんと、お姉ちゃんの分まで私が頑張るんだ……!」


 その時、異変が起きた。微動だにしなかった棒が、ゆっくり、本当にゆっくりと上がっていく。


「やあああああああぁ!!」


 棒は徐々に上がっていく。そしてついに、最高到達点まで上がる。


 そして次の瞬間、ユクシーは限界を迎えた。棒は急速に下がって行って、初期位置に戻った。


「はぁ、はぁ……!」


 ユクシーは呼吸もまともにできないような状態だった。


 ガノガンは、ユクシーの呼吸が落ち着くのを待ってから話しかける。


「……お嬢ちゃん」


「は、はい!」


「二次試験も頑張りな」


「――! はい、ありがとうございました!」


 ユクシーは飛び起きて深々と頭を下げる。そして、小走りで合格者用の扉へと駆けて行った。


「……今年はとんでもない受験者ばっかりだな」


「ですね」


 ガノガンと試験補佐官は笑いあう。


 しかしガノガンには1つ気がかりなことがあった。


(あのお嬢ちゃん、妹を助けるために『プラチナ冒険者になる』じゃなく『最終試験まで進む』と言っていたな……。まるでプラチナ級冒険者になる事じゃなく、最終試験の会場に行くことが目的なような。最終試験の会場には“アレ”がある。まさか……)


 そこでガノガンは頭を振る。


(いや、考え過ぎだな)


お読みいただきありがとうございます!


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[気になる点] 「あの受験者が、我々の目をかいくぐって物理的に割ったのかもしれません。とにかく、僕はあの受験生に一次試験合格に値する実力があるとは思えません」 この試験官、何一つ不合格に値する根拠を…
[良い点] そのくらい差はあるとわかっていてもいざ実測値(?)で目に見える形になると笑ってしまいますね(電車内でうつむいて震える人間の図)
[一言] >最終試験の会場には“アレ”がある。 新たな食材(非常に危険なモンスター)かな?
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