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第38話 (モブ冒険者視点)街の英雄シャーロット、またまた新たな武勇伝を生み出す


 祭りの日の夜。


 冒険者ギルドの中も、お祭り騒ぎだった。


 建物の中も飾りつけされていて、冒険者たちはいつもよりも酒が回っている。


 だが、受付嬢が冒険者たちの中心にいるのはいつも通りだった。


「今日は、語り手として一番近くで一部始終を目撃していたユーグ3兄弟に来ていただいています!」


 受付嬢に紹介されて、ワイバーンのブレスを受け止めたユーグ3兄弟が現れる。


「おお、あの盾が噂の……でけぇ……!」


 冒険者の1人が思わず零す。重厚なタワーシールドが、灯りを反射して輝く。


 そしてユーグ3兄弟が、祭りでのレッドワイバーンとの戦いを語り出す。


「――で、ブレスを受け止めるのにはなんとか成功したんだけど、3人とも吹っ飛ばされちまった。体勢は立て直せないし、俺の盾もワイバーンのブレスで溶ける寸前まで熱くなっちまって、これ以上攻撃を受け止めるのは無理だった」


 ユーグ3兄弟の長男が、自慢の重厚なタワーシールドをポンポンと叩く。


「俺たちはダメージで起き上がれもしないっていうのに、ワイバーンの方は次のブレスを撃とうとしてくるんだよ。『ああ、俺はここで死ぬんだな』って思ったよ。そんな時、路地から若くて高貴な身なりのお嬢様が出てきてな」


 周りの冒険者たちが静かに聞き入っている。


「目を疑ったよ。冒険者どころか喧嘩もしたことのなさそうなお嬢様が来るんだもの。すぐにわかったよ。『ああ、この子があの有名なシャーロットさんか。思ったよりも細くて綺麗なお嬢様だな』って。正直、戦える人間には見えなかったよ。そもそも、俺は噂を信じてなかった。『グランドボアの突撃を1人で受け止める人間なんているわけないだろう、酔っぱらった冒険者達が噂話に尾ひれを付けまくっただけだろう』と思ってた。シャーロットさんを初めて見たときも、歴戦冒険者特有の覇気みたいなものは感じなかったしな。とても、このお嬢様が来たところで俺たちの運命が変わるとは思えなかった。――だが次の瞬間、シャーロットさんはレッドワイバーンのブレスを“素手で”弾き飛ばした」


「「「素手で!?????」」」


 酒場の中が一気に沸き立つ。


「俺は自分の目を疑ったよ。ちょっと熱そうに手をプラプラ振っていたけど、あのワイバーンのブレスを受けて火傷一つ無かったんだからな。――俺は今では信じてるよ。シャーロットさんのこれまでの武勇伝、全部。グランドボアを10体まとめて受け止めたって言われたって信じるさ」


 長男は、大真面目な目で語る。


「そこからは、もう一方的だったな。シャーロットさんは最初火炎魔法でワイバーンのブレスを打ち消していたんだが、余波が周りの一般人に当たるのを避けるためか、氷属性魔法でブレスを打ち消し始めた」


「!? 相性不利な氷属性魔法でワイバーンの炎属性ブレスを打ち消したのか!?」


「ああ。相性不利な属性で魔法攻撃を打ち消すには、2倍の威力が必要なんだっけか? 俺たちがギフトを使って3人がかりでやっと1発防いだブレスを、シャーロットさんは周りの人間を気遣う余裕を見せながら何発も防いじまったんだ。そして、ワイバーンの方はブレスの連射で喉が潰れちまって、飛んで逃げていったよ。本当に、最初から最後まで一方的な戦いだったぜ」


「「「うおおおおお」」」


「……だが、1つだけわからないんだ。シャーロットさんは最初『お祭りの邪魔はさせませんわ』といって飛び出してきたんだ。シャーロットさん程の人が、どうしてお祭りなんかにこだわっていたのか。俺には分からない。皆が楽しみにしているとはいえ、たかがお祭り。なくなったところで誰も死ぬわけじゃないのに」


「――その疑問には僕が答えよう」


 そういって出てきたのは――アウゼス王太子だった。周りには冒険者ギルドの雰囲気に溶け込んだ護衛を侍らせている。


 森でシャーロットに助けられて以来、アウゼス王太子は公務と同時に剣の訓練にも力を入れている。1週間のうち、自由に使える時間はわずかに数時間しかない。


 そしてその数時間をこの冒険者ギルドにきて過ごし、シャーロットの武勇伝について語り合っているのだ。その時間こそが、アウゼス王太子にとって何よりの楽しみだった。


 最初こそ周りの冒険者たちは萎縮して近づかなかったが、アウゼス王太子の人となりを知るにつれてその距離は縮んでいった。今では、アウゼス王太子は他の冒険者に気安く肩を組まれるほど冒険者ギルドに溶け込んでいる。


「祭りは大衆にとっては、確かにただ楽しいだけのモノだ。だが、まず経済効果が大きい。この街のお祭り1回の経済効果は、およそ金貨1000枚といったところか」


 ちなみに、金貨1枚は一般市民の月収に相当する。


「露店など、お祭り専門の商人もいる。そういった者達にとって、お祭りの中止は死活問題だ。もちろん補助金は出すが、廃業してしまう者もいるだろう。そうなれば、来年以降のお祭りに参加する商人は少なくなり、お祭りの規模自体は小さくなるだろう。そこまで考えると、お祭りが1度中止になるということの経済的な影響は測り知れない」


「な、なるほど……」


「さらにお祭りには、民衆の不満のガス抜きの意味合いもある。どんな名君でも、領民に全く不満を抱かせないことなど不可能なんだ。だからこそ、民衆には不満が溜まって反乱を起こされる前にお祭りで騒いで楽しんでもらう必要があるのさ。……もっとも、僕は反乱を起こされる側なんだけどね」


 いたずらっぽくウインクするアウゼス王太子の冗談で冒険者ギルドが沸き立つ。


「お祭りというものの重要性については、みんな分かってくれたと思う。そして、それを見抜いてお祭りを守ったシャーロットさんの英知も。……では改めて。街の英雄シャーロットさんの、新たな武勇伝に乾杯!」


「「「乾杯!!」」」


 こうして冒険者ギルドは今日も盛り上がり、アウゼス王太子はシャーロットについての語らいを大いに楽しむのだった。



★これにて1章完結です★


次回より新章「プラチナ昇格試験編」が始まります!


お読みいただきありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] 王子様の言っていることは、為政者として、貴族として大事な観点なのだが、当のお嬢様がまったく考えていない事なんだよなぁ
[一言] お祭りが目的という点は的を得てるけどそれ以外はニアミスしてるんだよなぁ…
[一言] シャーロットは一度のお祭りが生み出す経済効果とかそんなのは考えていないと思うけどね…恋する王子には考えてるように見えちゃうんだろうなあ。
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