第34話 (王太子視点)シャーロットさんに相応しい男になるために一から鍛え直す
プライベートの方が繁忙期&休日出勤で更新間隔開いてしまいました。
今週は落ち着いたので更新頻度上げていけると思います!
『シャーロットさんの隣に立てるくらい強くなる』という決意を固めた日から、アウゼス王太子の過酷なトレーニングが始まった。
まずは日中。アウゼス王太子は1日の大半を机に向かっての公務に費やしているのだが、足腰を鍛えるため椅子無しでいわゆる空気椅子状態で机に向かっていた。
業務の速度を一切落とさず書類を片付けていく。どころか、速度は椅子を使っていた時よりも速くなっていた。
筋肉が限界をむかえると、後ろに控えていた王宮魔法使いが高等回復魔法を使い回復させる。
そしてまたアウゼス王太子は限界まで空気椅子状態で書類を片付けていく。
休憩時間も切り詰めている。午前と午後の5分と昼食の15分以外は常に全力で公務に取り組んでいる。
こうして以前より1時間はやくアウゼス王太子は公務を終える。
すでに日は落ちているが、夕食も取らずアウゼス王太子は足早に王宮の中庭へ向かう。そこでは、王国騎士団で最も剣の腕が立つと言われる男が待っていた。
「今日もよろしく頼む」
陽が落ちた中庭で、アウゼス王太子と騎士団員が剣を交える。
最初は互角に見えた勝負だが、徐々にアウゼス王太子は騎士団員を追い詰めていく。
そしてついに、アウゼス王太子の剣が騎士団員の剣を弾き飛ばして勝敗が決する。
「……お見事です、殿下」
騎士団員が肩で息をしながら言葉を絞り出す。一方アウゼス王太子は一切息が乱れていない。
「この短い期間で、殿下は驚くほど腕を上げられました。私ではもう、殿下の練習相手にすらなれません。私はこれ以上殿下のお役に立てません。我々の未熟さをお許しください、殿下」
騎士団員は悔し涙を流す。敬愛してやまないアウゼス王太子の役に立ちたいのに、己が最も得意とする剣技で以てさえアウゼス王太子の役に立てないことが悔しくて仕方ないのだ。
「顔を上げてくれ。君が私に剣の修行をつけてくれたおかげで、私は君を超えるまでに強くなれたのだ。役に立っていないなどということがあるものか」
「殿下……」
アウゼス王太子はそっと手を騎士団員の肩に置く。騎士団員には、アウゼス王太子の笑顔が太陽よりまぶしく月より優しいものに感じられた。
「殿下、例の作戦の準備が整いました。表に馬車の用意もできております」
セバスが中庭に駆け込んでくる。
「よくやってくれた。すぐ行こう」
アウゼス王太子は用意されていた馬車に乗り込む。そして移動しながら、馬車の中で食事を摂る。それが終われば、明日の分の公務を前倒しで片づけていく。
一時間ほど馬車を走らせ、廃棄された闘技場に到着する。
中には、モンスターが大量にいる。二足歩行し、棍棒等の道具を扱う緑肌のモンスターゴブリン。ゴブリンを従える、巨大な二足歩行モンスタートロール。
どちらも、王国に広く生息し、数が増えると人間の街や村を襲うことで有名なモンスターである。
定期的に、王国騎士団は増えすぎたモンスターを駆除している。
効率よくモンスターを駆除するため、地形を利用して火薬の音で追い立て、使われなくなった闘技場へと追い込んでいるのだ。
普段であれば、広範囲攻撃魔法を扱える王宮魔法使い達がまとめてモンスターを掃討する。だが今日は、修行のためにアウゼス王太子が掃討を行うことになっていた。
もちろん万一の無いように、王宮魔法使い達が補助魔法を何重にも掛けているし回復魔法使い達がいつでも回復できるように控えている。
「はあぁ!」
アウゼス王太子がモンスターの群れに斬りこんでいく。
ゴブリン達を切り伏せ、トロールの攻撃を搔い潜っては鋭い一撃を急所に見舞う。アウゼス王太子が剣を振るうたび、モンスターが絶命していく。
「お見事……」
控えていた王宮魔法使いの誰かが、そうつぶやいた。
モンスターの攻撃を全く受ける気配もなく、アウゼス王太子は鮮やかにモンスターを仕留めていく。
――2時間後。
アウゼス王太子は傷一つなくモンスターを全滅させた。
「ありがとう。おかげで、またレベルが1つ上がったよ。これで24だ」
「おめでとうございます、殿下。これで今月2度目のレベルアップです。異例の速度ですな」
隣のセバスが祝福する。
王宮魔法使い達もアウゼス王太子の元へと駆け寄ってくる。
「お疲れ様です殿下。お見事な剣技でした。以前も見事な腕前でしたが、さらにお強くなられました。一体何が、殿下をそこまで強くするのですか?」
「愛だ」
アウゼス王太子は、力強くそう言い切った。
「愛こそが、僕の心の原動力だ。愛があれば、僕はどんなに過酷な訓練だろうと耐えて見せる」
その時、アウゼス王太子の頭にある考えが浮かぶ。
「そうだ、あそこへ行けばより強くなれる……! 早速手筈を整えなければ」
アウゼス王太子は早速行動を開始した。