第33話 (王太子視点)シャーロットさんのことが頭から離れない
「苦しい……!」
アウゼス王太子が森の中でモンスターに襲われ、シャーロットに助けられた日の夜。
王宮の自室でアウゼス王太子は苦しんでいた。
うめき声を聞きつけて、すぐに使用人のセバスが飛んでくる
「殿下、大丈夫ですか!? どこが痛むのですか!?」
「胸だ。シャーロットさんのことを考えると胸が、苦しいんだ」
「……は?」
「昼にシャーロットさんに鮮やかに助けられてから、シャーロットさんのことが頭から離れないんだ」
アウゼス王太子は胸を押さえる。
「何をしていても仮面を外したときのシャーロットさんのあのいたずらっぽい笑顔のことばかり考えてしまう。まぶたにあの瞬間の光景が焼き付いて、離れないんだ」
「それは、恋ですな」
「恋? そうか、僕はこれまでずっとシャーロットさんのことを想っていたつもりだったが、更に好きになってしまったということか」
「左様かと」
「ああああああ胸が苦しい! シャーロットさんのことを考えると胸が苦しいぞセバス!」
「殿下! ベッドの上でゴロゴロするのをおやめくだされ殿下! 落ち着いてくだされ殿下!」
「胸の奥が熱い! セバス、この胸の奥の熱い塊を取り出してくれ! なんとかしてくれセバス!」
「無理ですぞ殿下! ベッドの上で突如スクワットをするのをおやめくだされ殿下!」
――五分後。
「ありがとう。おかげで落ち着いたよセバス。見苦しいところを見せてしまったな」
「恐れながら、本当に見苦しかったですぞ殿下。外では絶対におやめくだされ」
セバスはハンカチで額の汗を拭う。
「しかし驚かされたな。まさか、シャーロットさんがあんなに強いとは」
「それは私も意外でございました。あのヒポグリフを一撃で消し飛ばす火力。王宮魔術師にも、あれほどの魔法の使い手はおりませぬ」
「その通りだ。僕程度では振り向いて貰えないのは当然だったな。僕はシャーロットさんの隣に立つにはあまりに力不足だ。……ああああどうしよう! このままではいずれシャーロットさんが活躍して目立ってしまう! 国中の男たちがシャーロットさんの魅力に気付いてしまう! シャーロットさんが他の男に取られてしまったらどうしよう!」
「殿下! 枕に顔をうずめて足をバタバタさせるのはおやめくだされ! 安心くだされ殿下! 私もあのお方の事は小さいころから良く知っております! あのお方は男性に全然興味がないので、他の男に取られる心配はありませんぞ!」
「そうなのか……? なら僕にも興味がないって事じゃないかー! うわああああー!」
「ああ殿下、ベッドの上で仰向けになって手足で空中をかき回すのはおやめくだされ!」
突如、アウゼス王太子は床に降り立つ。
「セバス。僕は決めたぞ。僕はシャーロットさんの隣に立つに相応しい男になる。明日から休憩時間を減らして公務を早く終わらせ、その時間を剣の修行に充てる。シャーロットさんの隣に立てるくらい強くなれば、きっとシャーロットさんも振り向いてくれるに違いない」
アウゼス王太子の瞳には、固い決意が宿っていた。
それを聞いたセバスは
(あの方は男性の強さに惹かれるタイプではないと思うのですが……。とはいえ、他にあの方を振り向かせられそうなアイデアもないですし、やっておいた方がまだ可能性は高くなるでしょうか……)
などと考えていた。








