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第26話 (王太子視点)第一回シャーロットさんに振り向いてもらう大作戦スタート

「全員、準備は良いな」


 シャーロットが住む街の森の、その傍ら。


 王国騎士団の中で、最も練度の高い精鋭達が集結していた。


 騎士達の中心にいるのは、アウゼス王太子だ。今日は、仮面を着けている。


「それでは、今回の任務について内容を再確認する。ターゲットは、シャーロット・ネイビー。本作戦ではターゲットに気付かれぬよう尾行し、ターゲットがモンスターに襲われたときに、ターゲットを護る。ターゲットの安全が最優先事項だ」


 騎士たちが頷く。


「ターゲットを助ける役は、僕に任せてほしい。君たちは作戦中万一の際の僕の護衛を務めてくれ」


「「「了解!!」」」


 アウゼス王太子としては、1人でシャーロットを尾行して助けたいというのが本音である。人数が増えるほどシャーロットに尾行がばれるリスクが増すし、作戦がうまくいった後の2人だけの時間を邪魔されたくはない。それに何より、これは執務とは関係のないアウゼス王太子の私用である。騎士団を付き合わせるのは申し訳ないと思っている。


 だが、王太子という身分であるアウゼスは1人でモンスターの出現する森に入ることなど、到底許されない。この森に出現するモンスター等、アウゼス王太子にとっては目をつぶっていても倒せるような雑魚でしかない。しかしそれでも安全上、護衛を外すことなどできない。それに万一手傷でも負って帰ろうものなら、護衛を怠ったとして騎士団の責任者に大いに迷惑がかかることだろう。


 こういった諸々の事情から、王太子は騎士達と共に森に入ることにした。


 一方の騎士たちも、当然これが王子の私用であることを理解していた。そしてその上で、『殿下のプライベートの役に立てるなら本望です。任務に就かせていただいてとても光栄です』とまで思っていた。


 それどころか、


『今日の作戦が上手くいって、シャーロットさんと殿下が恋仲になれたら俺たちは恋のキューピッドってことだよな? へへへ、燃えてきたぜ! 立役者として結婚式にも呼んでくれねぇかな?』


『今日の任務中、予想もしないような強いモンスターが出てきて、アウゼス殿下を格好よく庇って助けてぇなあ。そして、俺は大けがするけど殿下は無傷で……アウゼス殿下は優しいから、きっと凄く心配してくれるんだろうなぁ』


『俺は、殿下を庇って死にてぇなぁ。でも即死じゃなくて、なんか格好いいセリフとか言って、そのまま殿下に看取られてぇよ。どんな格好いい台詞言おうかなぁ……。あ、格好いい台詞吐いたけどなんだかんだ生き延びちゃうパターンもいいな』


 などと、不埒なことまで考えている始末である。


「殿下、ターゲットが森に入ります」


 双眼鏡を手にした1人の騎士が報告に来る。


「わかった。では……任務開始!」


 アウゼス王太子の号令が響くと同時に、騎士団全員の気配が薄くなる。


 精鋭騎士たちは全員、隠密行動の訓練を受けているのだ。


 今日この任務に召集されたのは、精鋭中の精鋭たち。剣術。馬術。弓術。槍術。格闘術。隠密行動。サバイバル。水泳。軍略。騎士として必要な、あらゆる技術の訓練を受けているのである。


 アウゼス王太子率いる一団は、森の中音もなくシャーロットをつけて行く。アウゼス王太子が、騎士たちを手で制す。いよいよシャーロットに近づいたのだ。


「これ以上近づけば気づかれる可能性がある。この距離を維持して移動するように」


 アウゼス王太子が手信号で騎士たちに指示する。


 ――アウゼス王太子は、理解している。自分が今やっていることが、ストーカーに近い行為であることを。


 もちろんシャーロットを森の危険なモンスターから守ると言う建前があり、実際シャーロットは護衛もつけず、それどころか武器や防具さえ身につけず森にふらりと遊びにきている。これがどれだけ危険な行為か。いつそこの木陰から狼が出てきてシャーロットを丸呑みにしても。いつ木の上からスライムが落下してきてシャーロットの頭を丸呑みしても。全くおかしくない状況なのだ。


 アウゼス王太子も近衛兵たちも、それを十分理解している。だからこそ神経を研ぎ澄まして、モンスターの気配を探っているのだ。


 しかし。


 シャーロットからすれば、幼馴染の男の子が大勢の近衛兵を引き連れて人気のない森でこっそり跡をつけてきているという状況に他ならない。


 もしこの状態でシャーロットに発見されたら、ストーカーと勘違いされる可能性は、大いにあるのだ。


 シャーロットに見つかった時には、アウゼス王太子が着けている仮面だけが頼りだ。正体を気づかれる前に、逃げ出すしかない。


 神経をすり減らしながら、アウゼス王太子と騎士たちはモンスターとシャーロットの気配を探る。幸いシャーロットは鼻歌を歌いながら歩いているので、見失う心配はない。


 もっとも、モンスターを呼び寄せる危険があるので余計アウゼス王太子の胃が痛くなるのだが。


 シャーロットが足を止めた。何かするつもりか、とアウゼス王太子が考えた時。


「敵襲です!」


 騎士の1人が叫ぶ。


 すさまじい勢いで、何かが飛来してきた。


 轟音と共に、“何か”が着地。


「なんだ、アレは」


 現れたのは、巨大な異形のモンスターだった。


 上半身はグリフォンだが、下半身は馬。アウゼス王太子の頭脳と豊富な知識は、すぐにモンスターの正体を突き止める。


「ヒポグリフか。なぜこんなところに……!」


 アウゼス王太子と騎士たちは、不測の事態にも動揺しない。


 すぐに騎士全員がアウゼス王太子を守る陣形を取る。


「ヒポグリフがどこから来たかは分からないが。明らかに僕を狙っているな」


『ケエエエェン!!』


 ヒポグリフが猛禽特有の甲高い声をあげて突っ込んでくる。大盾を持った騎士が、強烈な体当たりで吹き飛ばされる。


 クチバシと爪による、重く素早い連続攻撃に次々と騎士達が倒れていく。


「くぅ……!」


 護衛を失ったアウゼス王太子が抜剣してヒポグリフと打ち合う。剣とクチバシが交錯し、甲高い音が森に響き渡る。


 アウゼス王太子の鋭い剣術が、徐々にヒポグリフを追い詰めていく。


 だが、


「危ない!」


 ヒポグリフが急に狙いを倒れている騎士に切り替える。考えるより先に、咄嗟にアウゼス王太子は騎士を庇ってしまった。


 ヒポグリフが、猛禽の顔に邪悪な笑みを浮かべたのをアウゼス王太子は感じ取った。隙が生まれたアウゼス王太子に、ヒポグリフが馬の足で強烈な蹴りを見舞う。


「ガハッ……!」


 アウゼス王太子が近くの木に叩きつけられる。衝撃で着けていた仮面が落ちる。アウゼス王太子は、胸に受けたダメージで呼吸が上手くできなくなっていた。体に力が入らず、落とした剣を拾い上げることさえできない。


 ヒポグリフがゆっくりと近づいてくる。アウゼス王太子は、死を覚悟した。


 頭を巡るのは、後悔。


 ――僕がいなくなって国は大丈夫だろうか?


 兄弟は今ひとつ頼りない。誰が後継になっても、国を今ほど栄えさせることはできないだろう。


 僕がいなくなれば、国の経済はまた衰退してしまうのだろう。


 すまない、僕は何もできなかった。


 そしてなにより最大の後悔は、シャーロットさんのことだ。


 ヒポグリフは、明らかに僕を狙っている。シャーロットさんまで巻き添えになることはないだろう。


 だが、一度も彼女に振り向いてもらえなかった。


 本当に、それが残念でならない。


 せめて、一度でも彼女に振り向いてもらえたら。


 このままでは死ねない。


 ――生きたい。


 アウゼス王太子がそう願った時。


「“プチファイア”ですわ」


 突如、眩い光が森の中を迸る。


 荒々しい光と共に、肌を焼く熱気が襲いくる。アウゼス王太子は、思わず腕で顔を庇う。


 次にアウゼス王太子が目を開けた時、ヒポグリフは完全に消し飛んでいた。


「凄い驚きようですわね。モンスターを見るのは初めてですの?」


 のんびりした声と共に現れたのは、夜会用の仮面を着けた若い女性だった。モンスターの出る森には似つかわしくないドレスで着飾っている。


「君が、助けてくれたのか……」


「みなさま、お怪我がないようで何よりですわ」


 言われて王太子は、自分の怪我がいつの間にか完全に治っていることに気づく。見渡すと、倒れていた騎士たちの怪我も完治していた。


「とにかく、助かりました。レディ、もしよろしければお名前を伺っても?」


「名前ですって? ふふふ」


 仮面の女性は楽しそうに笑い、夜会用の仮面を外す。


「じゃーん、ワタクシでした♪」


 仮面を外して正体を現したのは、シャーロットだった。


「シャーロットさん!? な、なぜ君が!?」


 モンスターに襲われ、死を覚悟した極限の緊張状態。そして一転して、謎の女性に助けてもらって王太子の心は弛緩しきっていた。


 そこへ、不意打ちの一撃。


 そんなものを喰らえばどうなるか。


 ズキューン! という音がアウゼス王太子にははっきりと聞こえた。


 それは、恋の音だった。


 奇しくも、『シャーロットさんをモンスターから助けて、シャーロットさんが安堵したときに正体を明かして好きになってもらう』という作戦を完全にアウゼス王太子が逆に喰らった形だった。


「まぁ。やっぱり気づいてなかったのですわね? この仮面、近くの雑貨屋さんでたまたま見つけたのですわ。デザインが可愛くて一目惚れしてしまいましたの。どう、似合いますかしら?」


 シャーロットが再び仮面を身に着ける。


「か、かわいい・・・」


 アウゼス王太子は、恍惚としていた。心拍数が異常に上がっている。目の焦点もあっていない。


「では、ワタクシはこれで失礼しますわ。ごきげんよう、殿下」


 アウゼス王太子は、颯爽と去っていくシャーロットの背中をただ見つめることしかできなかった。


 シャーロットは、ヒポグリフがいた場所にあった、大量の肉が乗った皿を持っていったのだが、そんなものはまるで視界に入っていなかった。


お読みいただきありがとうございます!


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[一言] 後書きにタップとありますがPCユーザーには違和感があり、評価を躊躇してしまいます。押して、タップorクリックして、ポチッと、などの表現をご検討頂きたくお願い申し上げます。
[一言] 多分食べたものは体内でステータス変換されて体内に蓄積されてないと思うんよだから別腹みたいな感じになるんでないかな?
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