第20話 お野菜モンスターさんを食べにいきますわ
「痛いッス!」
ある日のこと。
屋敷の台所の方から、マリーの悲鳴が聞こえましたわ。
「マリー、どうしましたの?」
「大丈夫ッスお嬢様。ちょっと指を包丁で切っちゃっただけッス」
様子を見に行くと、マリーが指を押さえていますわ。
「大変ですわ。すぐに絆創膏を……」
その時。不思議なことが起こりましたわ。
マリーの傷が、みるみる治っていきますわ。あっという間に切ったはずの指が完治して、傷跡さえ見当たらなくなりましたわ。
「傷、治っちゃったッス……なんで?」
マリー自身も目をパチクリさせていますわ。
「マリー、あなたまだ歳は14でしたわね?」
「そうッス。自然治癒系ギフトが発現したわけではないッス」
不思議ですわ〜。
「お嬢様が来た途端に、傷が治り始めたッス。もしかしてお嬢様が周りを常時回復させるスキルでも持ってるんじゃないッスか?」
「まさか。そんなスキル持っていませんわ。ではマリー、ワタクシは出掛けますわ」
「お嬢様、今日はどこに行くッスか?」
「ワタクシ、今日は野菜を食べに行きますわ!」
マリーが、不思議そうな顔で見上げていますわ。
「野菜なら、いつも食べてるじゃないッスか。今朝食べたサンドイッチにも入ってたッス」
「違うのですわ! ワタクシは、野菜のモンスターを食べたいのですわ!」
ワタクシのギフト【モンスターイーター】で出てくるモンスターの料理は、普通の料理よりも格別に美味しいのですわ!
ですけど、ワタクシがコレまで食べてきたのはほとんどが狼やウサギのお肉。
ワタクシお肉は大好きですわ。
でも、野菜も好きなのですわ!
野菜モンスターの料理がどんな味なのか、楽しみですわ〜。
「でも、野菜のモンスターなんて居るッスか?」
「ふふふ。心配はありませんわ。ワタクシ、モンスター図鑑で既に野菜のモンスターは見つけていますの」
ワタクシは例の荷物がなんでも入る穴から、モンスター図鑑を取り出しますわ。
「じゃん! これですわ、“ジャックオランタン”」
墓地に出没する、浮遊する顔のついたカボチャモンスターですわ。内部では炎が燃えていて、オレンジに光っているそうですわ。
「お化けじゃないッスか!」
「大丈夫ですわ。見た目がカボチャなのですから、きっとカボチャ味がするはずですわ~。場所は街のはずれにある墓地ですわ」
「お嬢様、墓地って危なくないっスか!? この街の墓地には悪霊が出て危ないって聞いたことあるッスよ?」
「大丈夫ですわ。幽霊対策は、バッチリ考えてありますわ~」
「気をつけてくださいッスねー」
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「急患だ!」
街の治療院に、タンカに乗せられた男性が運び込まれてくる。呼吸は弱弱しく、今にも止まってしまいそうだ。体中をアザが覆っている。
「コレは単なる怪我じゃない……状態異常の一種、呪詛だ!」
治癒士が大慌てで状態異常解除の魔法で治癒を始める。
交代で状態異常解除魔法と回復魔法を掛け続け、ようやく患者は喋れるようになる。
「うぅ……」
「アンタ、もう喋れるな。どこでこんなに大量の呪いを引き受けてきたんだ!?」
「ぼ、墓地だ……」
患者の男は、ゆっくりと喋り出す。
「俺はクエストを受けた冒険者だ。俺もあなた方と同じく、回復魔法や状態異常魔法を得意としている。主に、霊を回復魔法を使って祓うのが専門だ」
マイナスエネルギーの塊である幽霊は、回復魔法によって祓うことができる。また、幽霊は素質がない人間には目で見ることができない。
「俺は定期的に発行される、墓地に溜まっている幽霊を減らすクエストを受注して墓地へ向かったんだが……墓地は今、異常なことになっている。普段は無害な霊まで悪霊化して、足を踏み入れた人間に呪いを振り撒いている。俺は自分で状態異常解除が出来るからこの程度で済んでいるが、一般人が踏み込んだらまず命はない」
患者の男は、震えていた。
「それだけじゃない、悪霊化した霊達が融合すれば、今とは比べ物にならない被害が出る。早く、誰かが何とかしなければ……!」
患者の男が寝かされたまま拳を握り締めた。








