第11話 レアなキノコモンスターさんを工夫して食べますわ
「……あら?」
近くに、これまで見たことないモンスターさんの気配がしますわ。
小さいですが、他のモンスターさんと比べて濃い気配。これは珍しいモンスターさんに会える予感が致しますわ~。
「見つけましたわ」
ワタクシが見つけたのは、木陰に生えているキノコさん。それも3本生えていますわ。
「お嬢様、コレ本当にモンスターなんッスか?」
「わかりませんわ。でも大丈夫。ワタクシ、こんなものを持っていますの」
ワタクシは、例の不思議な穴から分厚い本を取り出しますわ。
「え? お嬢様、今どこからその本出したッスか!? その穴何ッスか!?」
「ふふふ。これは最近覚えたワタクシの特技ですわ。なんでもこの穴の中に仕舞っておけるので便利ですわ」
こんな重い本、カバンに入れて運んでいたら肩が痛くなってしまいますわ。
「これは街のレストランで買ったモンスターさんの図鑑ですわ。これがあればどんなモンスターさんに出会っても正体がすぐわかりますわ~」
ワタクシは早速キノコ型モンスターさんのページを開きます。
「ええと、色と形から……このモンスターさんは“マンドラゴラ”。まぁ、とっても珍しくて見つけるのが難しいモンスターさんだそうですわ。病気によく効く効果があって、金貨20枚で取引されるらしいですわ。モンスターに分類されていますが、動くことは無いそうですわ」
「本当ッスか!? やったッスねお嬢様、これで大儲けッスよ! 早速引っこ抜くッス! せー、の!」
「あと、『引き抜くと叫び声を上げる。聞いた人間は気が触れて死ぬ』とも書いてありますわ~」
「えええええええええええええええええええええええ!?」
マリーが引き抜く寸前で踏みとどまりますわ。
「ちょっと抜いちゃいましたけど、これセーフッスかね? 1センチくらい抜けてるッスけどセーフッスよね!? セーフと言ってほしいッス!」
「叫んでいないからセーフだと思いますわ」
危ないところでしたわ~。
もう少しで死ぬところでしたわ。
「ふむふむ。マンドラゴラには毒があって、そのままでは食べられないらしいですわ。生きたまま日光に当てると毒が分解されるけど、生きたまま引き抜くと叫び声をあげるらしいですわ」
「厄介ッス~! その本には、マンドラゴラを抜く方法はなにか書いてないッスかね?」
「ええとね……『自分に懐いた犬にマンドラゴラを結びつけて、遠くから犬を呼んで引き抜かせる。犬は死ぬ』と書いてありますわ。でも……」
「「犬が可哀そう(ですわ~!)(ッス!)」」
無理ですわそんなこと。
ワタクシにはとてもできませんわ~!
「あと、『引き抜いて0.1秒以内にマンドラゴラを即死させて叫ぶ前に殺す方法もある』と書いてありますわ」
「絶対無理ッス! その方法に失敗して死んでる人、結構居そうッス」
「正解ですわ。毎年100人くらい死んでいるそうですわ~。物騒ですわ」
というわけで。
「抜くのはあきらめて、抜く前にワタクシの魔法でやっつけて料理に出来ないか試してみますわ」
マンドラゴラの1本に狙いを定めて、ワタクシは魔法を放ちますわ。
「“プチファイア”ですわ!」
……ですが。
「ダメですわ……。料理が出てこずマンドラゴラさんが消し炭になっただけですわ」
やはり毒がある状態では料理にできないのかしら。
しょんぼりですわ……。
「げ、元気出すッスお嬢様! ほ、他にはキノコ型モンスターっていないんッスかね? 私、他のキノコモンスターも見てみたいッス!」
「他には……そうですわね、“マタンゴ”という歩くキノコモンスターがいるらしいですわ。キノコの軸が2つに分かれていて、二足歩行するらしいですわよ。ほら、あんな風に」
ワタクシの指さす先に、丁度歩くマタンゴさんが出てきましたわ。
大きさはワタクシの腰まであるくらい。よったよったと歩く様子がとてもかわい――
「ギャー! なんか気持ち悪いの出てきたッスー!!」
「あら。さっきまで『他のキノコモンスターも見てみたい』って言っていましたのに?」
「現物みたら気が変わったッス!」
「ちなみに『麻痺させる胞子を使って獲物を捕らえて、キノコを植え付ける』らしいですわ。怖いですわ」
「ギャアアアアアアアアアアアア! 早く逃げるッスお嬢様!」
「“プチファイア”ですわ」
マタンゴさんは、一瞬で燃えましたわ。そして――
「キノコのバターソテーですわー!!」
今度は上手く料理になりましたわ!
「ええ!? お嬢様、まさかそれを食べ――」
「頂きますわ~!」
ぱくり。
「美味しいですわ~♪」
キノコと言えば付け合わせやソースの具などにされることが多いですわ。
でもこのキノコは、メインディッシュになれるだけのボリュームと美味しさがありますわ。
パクパクですわ。
「うう、お嬢様が美味しそうにキノコを食べてるの見たら私もお腹すいて来たッス……」
「じゃあ、後でマリーも食べられるモンスターも探しましょう」
その時、いつもの耳鳴りがしますわ。
『モンスターを食べたことによりレベルが上がりました』
『マタンゴ捕食ボーナス。麻痺魔法“パラライズ”を修得しました』
まぁ! まぁ! まぁ!
いつもは意味不明な耳鳴りですけど、今日のは少し意味がわかりましたわ。
「ワタクシ、新しい魔法が使えるようになりましたわ~!」
嬉しいわ嬉しいわ♪
ワタクシ、昔からもっと色んな魔法が使ってみたいと思っていたのですわ。
『ガルルルル!』
「まぁ、丁度いいところに狼さんがいらしたわ。“パラライズ”ですわ!」
ワタクシが唱えると、黄色い煙が狼さんを包み込みますわ。
そして狼さんが、カチンと固まってその場で倒れますわ。
まるで石像にでもなったようで、まぶたも動かせないご様子ですわ。
……とりあえず、ステーキにして美味しくいただきましたわ。
そしてステーキを食べていると、ワタクシ良いことを思いつきましたわ。
「“パラライズ”でマンドラゴラさんを麻痺させて引き抜けば、叫ばせずに済みますわ!」
「おお、確かにその通りッス! お嬢様、賢いッス!」
「ふふん。今日のワタクシは冴えていますの~」
というわけで、早速マンドラゴラさんに“パラライズ”を掛けて麻痺させますわ。
そして――。
「1,2の……3ですわ!」
マンドラゴラさんを引き抜きますわ。
思いのほかあっさり抜けましたわ。
「叫ばないッス……やったッスお嬢様、マンドラゴラ攻略成功ッス!」
ワタクシとマリーはハイタッチして喜びを分かち合いますわ。
「そして……“プチファイア”ですわ!」
ワタクシの魔法でマンドラゴラさんにトドメを刺しますわ。
すると今度は、ちゃんと料理になりましたわ。
さっきのマタンゴさんよりもずっと小さいお皿に乗ったキノコのソテー。
「早速頂きますわー!」
果たしてお味は――!
………………
…………
……
普通ですわ。
侯爵家で食べていた料理の付け合わせのキノコと同じ味がしますわ。
食感はシナシナですわ。
「マズくはないけど、特別に美味しいということもないですわ……」
微妙な心情ですわ。
モグモグですわ。
『モンスターを食べたことによりレベルが上がりました』
『レアモンスター“マンドラゴラ”捕食ボーナス。常時発動スキル“状態異常完全遮断”を修得しました』
しかもまた意味の分からない耳鳴りがしますわ……。
アンニュイですわ。
「マズくはなかったけど、期待が裏切られたのは悲しいですわ……。早く次のモンスターさんを探しに行きますわよ……あら?」
その時、ワタクシは新しいモンスターさんの気配を察知しますわ。
“トトトトトトトト……”
なんだかとっても、濃厚な気配ですわ。
それにとっても小さいですわ。
その気配が、凄い速度でこちらに近づいて来ますわ!
草むらからモンスターさんが飛び出して、ワタクシ達の前を横切りますわ。
見た目はウサギさん。ただし、頭から鹿の角が生えていますわ。
「あれは――“ジャッカロープ”ッス! 伝説のモンスターッスよ! 捕まえたものには幸運が訪れるという言い伝えを聞いたことがあるッス!」
「まぁ。そんなに有名なモンスターさんなの?」
ジャッカロープさんは、凄い速度で走り去ってしまいましたわ。
とてもワタクシの魔法では捕らえられませんわ。
ところでワタクシ、1つ気になることができましたわ。
「伝説のモンスターさんって、どんな味がするのかしら……!」