第103話 (冒険者ギルド視点)不死鳥の襲来
2024年最初の更新です
皆様、本年もよろしくお願い致します
「南西門、もう持ちません!」
「西南西門、戦える冒険者がもういません! 応援を頼みます!」
モンスタースタンピード防衛戦の司令本部では、悲鳴のような報告が飛び交っていた。
司令部中央のスクリーンには、各地の絶望的な戦いの様子が映し出されている。
体長数十メートルの一つ目の巨人”サイクロプス”が門を突破して市街地で暴れている。巨大な棍棒を振るい、一撃で民家を叩き潰していく。冒険者たちは奮闘して足にダメージを与えているが、サイクロプスの動きを止めるにはほど遠い。
別の門では、最初に門を突破したグランドボアが入り組んだ市街地で暴れている。多くの冒険者の攻撃を受けて傷だらけになっているが、それでも体力は半分も削れていない。そして冒険者の多くがグランドボアの相手をしている間に、小型モンスターたちが次々押し寄せてくる。
ほかの門ではヒポグリフとグリフォンが鋭い爪で冒険者たちを追いつめて。また別の門ではブルーワイバーンが雷のブレスを吐いて冒険者達の陣形を崩していく。
シャーロットがいる正門以外の各所の門は、想定を遥かに超える数のモンスターを抑えきれず戦線崩壊寸前。
本来であれば、負傷した冒険者は一時的に下がって治療を受けて、前線に復帰するシステムになっている。だが、モンスターの数が多すぎて完全に破綻している。
怪我をしたままの冒険者が前線で戦い続け、後衛の回復魔法使いも予備の剣を振り回してモンスターを倒す手伝いをしている有様だ。どこか1箇所でも破綻すれば、ガラ空きの門を抜けたモンスター達が他の門で戦う冒険者達を背後から襲い一瞬で冒険者たちを血祭りに上げるだろう。
更に。
「司令! ボスモンスターが出ました!」
モンスタースタンピードの最後には、特に強力なモンスターが出現する。
スタンピードの規模が大きくなるほど、ボスモンスターの戦闘力は高くなる。
通常であればグランドボア程度。しかし今回の大規模スタンピードでは、はるかに強力なボスモンスターが出現した。中央の画面に、炎を纏った鳥の姿が映し出される。
「フェニックスだと……」
バラガウは唖然としていた。
高温の炎を纏い、死んでも炎と共に蘇るという伝説級のモンスター、フェニックス。歴戦のバラガウでも初めて相対するモンスターだ。
「フェニックス、南西門の上空を超えてこちらに向かってきます! 止められません!」
大量の矢がフェニックスに向かって飛んでいくが、フェニックスの纏う熱によって当たる前に燃えるか溶けてしまう。
“ケエエエェーン!”
フェニックスが、進路上にあった塔へ向けて炎を吐き出す。
“ゴウッ”
煉瓦でできた塔が一瞬にして炎に包まれ、溶けていく。塔が無人であったのがせめてもの救いだ。
「……やむを得ん。“アレ”を使う」
バラガウと一部冒険者ギルド幹部が、司令部の部屋を出て建物の最上階に向かう。
最上階は丸ごと1つの部屋になっており、 街を全方位肉眼で確認できる。
部屋の中央に、巨大なクロスボウが設置されていた。専用の台座に固定されており、運用としてはクロスボウより大砲に近い。
ツルは張られておらず、代わりに最上級品質の魔力を蓄積した魔石が並んで埋め込まれている。
これが冒険者ギルドが保有する、対モンスター最終兵器。一発打つだけで莫大なコストが掛かるため本当に必要な時にしか使用できない兵器なのだが、バラガウは間違いなく今この兵器を使用しなければならないと判断した。
バラガウが回転台を操作してクロスボウの先端をフェニックスに向ける。
もうフェニックスは肉眼で見えるところまで迫っていた。チャンスは一度きり。額の汗を拭いながら、バラガウは狙いをフェニックスに定める。その様子を、周りの冒険者ギルド幹部たちも固唾を呑んで見守っていた。
フェニックスが更に近づいてくる。そして、目障りな司令本部の建物を焼き払うべく、炎を噴き出そうとしたその時。一瞬の硬直を見逃さず――
「今だ!」
バラガウがクロスボウの引き金を引く。クロスボウに埋め込まれていた魔石が全て砕け、中の魔力が解放される。
そして音を遥かに超える速度で矢が放たれた。矢はフェニックスの纏う熱の壁を易々と突き破って、体を正確に捉える。
“パァン!”
フェニックスの体は、衝撃と共にバラバラに吹き飛んだ。
「……各員に伝えろ! モンスタースタンピードボスモンスター、フェニックスを撃破したと」
その時。
“ボウッ”
飛び散ったフェニックスの身体の一部、心臓が燃え上がる。
炎はどんどん大きくなり、鳥の形になる。
“ケエエェン!!”
叫びを上げ,フェニックスが炎と共に復活した。
「馬鹿な……! あそこまでバラバラにしても復活出来るのか!」
フェニックスが飛び上がり、今度こそ目の前の建物を焼き払わんと大きく息を吸い込む。
「ここまでか……! 国王陛下。モンスター共を止められず、ボスモンスターに一矢報いることさえ叶わなかった事、お詫び申し上げます」
死を覚悟したバラガウが天を仰いだその時。
“キイイイィ……ン!”
街中を、不思議な力の波が駆け抜けていく。
「なんだ今のは!? 聖女様の力と似ているような、真逆のような感覚だ」
炎を噴き出そうとしていたフェニックスの動きが止まる。
そして、不思議な力の波の発生源の方へ飛んでいった。
「バラガウ司令! 大変です!」
下の階にいた冒険者ギルド幹部が息を切らせてやってくる。
「シャーロット・ネイビーのパーティーメンバーがギフトを発動し、押し寄せているモンスターが彼女たちの方へ引き寄せられていきました!」
これが、のちに語り継がれる冒険者ギルド大逆転劇の始まりだった。
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