00 政略結婚の話1
突然だが、俺の友人であるリバーは悪役令息と呼ばれている。人の実績を自分のものにし、最も簡単に他人を危険に晒すことのできる、そんな公爵家の人間だ。だが、何故か俺にはそんな事はしない。不思議に思いつつ、俺はそんなリバーの家———ロマーノ公爵家に赴いていた。
どうやら、ロマーノ公爵が俺に用があるとの事らしい。
ロマーノ公爵と俺の父———ヴァラドン王は学生時代の友人らしい。その為、ヴァラドン王はリバーの事も知っている。
あいつの悪党の数々。
それよりも、ロマーノ公爵家は庭がやけに広い。国から多少離れた森の中に家があるとしても、ここ一帯の森はロマーノ公爵家が持っていると。それにしても、そんなに必要なのか?
「いらっしゃいませ。アミール様。どうぞ、お待ちしていました」
ロマーノ公爵家に仕える、メイドらしい。隣にいる父様はそのメイドに挨拶を交わしていた。だが俺は、不自然に思う。何故、あんなに親しいのか。と。
笑顔で挨拶を交わしていた二人の様子を見て、何故か気がかりに感じてしまう。
ロマーノ公爵家の鉄の門がゆっくりと、開かれ俺たちはその中へ入る。
ガーデニングテーブルや、庭には花やらが咲いてあり、庭は彩緑に賑わっていた。
「ほら、行くぞ。アミール」
「はい、父様」
父であり、王である父様の命令に従い、俺はロマーノ家に足を踏み入れる。
やはり、漂う匂いがあまり好きではない。香水の匂いやら、何やらの匂いで混ざりに混ざっていた。それは鼻につくような、不快な匂い。
廊下からやってきたのは、ロマーノ公爵本人だ。リバーとは大違いなほど、人当たりがいい人物。物腰が柔らかく、言い方も柔らかいその人物の息子とは思えないほどの、悪態を晒しているリバー。
「おぉ、ヴァラドン陛下。ようこそ、いらっしゃいました」
「やめてくれ。私とお前の仲ではないか」
「いえいえ、あの時は学生時代の話です。どうぞ、こちらへ。アミール様もお久しぶりです」
「お久しぶりでございます。ロマーノ公爵」
互いに挨拶を交わし、中へ入ろうと足を踏み入れると、廊下で奴に出会う。リバーだ。
「リバー、後で来るんだぞ」
「………分かってる。父様」
無愛想な返事をし、父様には敬意を払ったが、俺には一切無し。まぁ、そこはいい。陛下である父様に敬意を払わなければ、王族皆を侮辱するのと同義だ。
(それにしても、なんだ?リバーも後で来いとは……)
ロマーノ公爵の先程言った意味を、理解できていなかった。
ーーーーーーー
ロマーノ公爵の背中をついて行き、見慣れた光景の廊下を歩く。肖像画や花瓶などが置かれており、隅々までピカピカになっている。それに庭にあった花もきちんと手入れが行き届いているようだった。
(きっと、メイドの人たちがやっているのだろうな)
俺はそう思い、気にも留めない。仮に、花壇の方に関してメイド達がやったのじゃないのだとしたら、一体誰がやったのか。ロマーノ公爵夫人?それとも、リバーか?
いや、リバーは違うだろう。あいつはそんな趣味は持っていない筈。
そう思いながら、廊下を歩いているとちょうど窓の方には、可憐な少女が花に水をやっていた。リバーに妹か姉が居ただろうか。見た事のないそんな少女の、微笑む姿を見て、俺は思わず声をかけてしまった。
「これは君がやったのか?」
「………!?あ、まぁ……」
突然声をかけた為、とても驚いていた。俺はそんな少女にお礼を言うと、その少女は頭を下げ、その場から立ち去ってしまう。
悪いことをしたな…と思い、また会えるだろうと言う期待も感じる。
そして等々、つくべき場所に着いた。そこはゲストルームであり、いつも父様とロマーノ公爵が話す恒例の場所だ。
舗装がされているソファーに腰をかけ、隣で父様は「話はなんだ?」とロマーノ公爵に聞いた。
ロマーノ公爵は一度間を置いてから、ゆっくりと淡々と話す。
「実は、アミール様に縁談の話を申し込みたい」
真剣な眼差しでロマーの公爵は告げた。もちろん、俺と父様は驚愕の顔に満ちていた。
縁談?誰と、誰が?
ロマーノ公爵家に女性がいたのだろうか。俺はリバーしか見たことがない。その為、ロマーノ公爵家にはリバーの妹や姉を見たことがないのだ。
(いや、もしかしたら、さっき会ったあの少女のことか?)
確かに綺麗な女性だ。鼻筋が通っていて、透き通るような白い肌。そして肩まで伸びている銀髪の髪。風に靡かれると、更に綺麗さが増しそうな程だ。
その為、俺は質問した。
「その人とは…?」
「ああ、アミール様もよく知っているものですよ」
ロマーノ公爵は優しく微笑むが、俺にそんな人物いただろうか。
だが、さっきのことで先程の彼女のことではないと言う事は、分かった。
俺は女性に恋をした事はないが、彼女は別だった。一目惚れ、というのは本当にあるらしい。だが、相手は別の人物であるという事。
これはおそらく、政略結婚だろう。そんな大事な事で私情を入れるわけにはいかない。それは王族の息子に生まれた使命と思っている。
「なるほど、とうとう…アミールに縁談の話が…」
「そうです。その相手は………入ってきていいぞ」
俺たちから見える向かいの扉に、ロマーノ公爵は声を上げた。
それを合図に扉から現れてきたのは———、
「———なっ!?」
ロマーノ公爵家の“息子”
リバー・ロマーノだった。
よろしくお願いします!