表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

背中越しの会話

作者: みぶ真也

 今回のドラマのロケは奈良の広いお寺で行われた。

 午前の撮影が終わり昼食時間になる。広々とした風景の中でロケ弁を開く。

 他のキャストやスタッフの人たちも、あちこちに腰掛けて弁当を食べ始めた。

 皆、マスクを外し、距離を空けている。

 食事中に会話をしない「默食」が原則なので、親しい人と一緒に食べるということも自然となくなってきた。

「みぶさん、ご無沙汰してます」

 背後から女の人の声がした。

 振り向こうとすると、

「あ、そっち向いててください。食事中、顔を合わせて会話しないよう言われてますから」

とたしなめられる。

「そうでしたね。以前、ご一緒しましたっけ?」

「バラエティ番組で…ほら、あの骨董品の…」

「ああ、あの時ですね」

 思い出した。

 骨董品の価格を当てるクイズ形式の番組に出たことがある。

 回答者の中に女優さんもいたっけ。

「みぶさんがズバリ価格を当てられたんでびっくりしました」

「あの古い鏡ですね」

 蔵の中から出てきた鏡の値段を、たまたまぼくがぴったり当てたので賞品を貰ったのだ。

 待てよ、あの番組放送されたんだっけ?

「そんなこともありましたね。あなたも回答者で出演されてたんですか?」

「それに、みぶさん、綺麗な人が使ってたんでしょうねっておっしゃってましたね」

 質問には答えず彼女が言う。

「古い鏡なのに傷ひとつなかったから、綺麗な人が丁寧に使っていたように思ったんです」

「そういうことだったんですね。オンエアもご覧になりました?」

 そう尋ねられたので、気になっていたことを応える。

「あの番組は放送されなかったんです」

「まあ、どうして?」

「トラブルがあったんですよ。鏡の面をカメラが撮った時、そこにいるはずのない女の人の姿がモニターに映っていたんです。それが何十年も前に亡くなった鏡の持ち主の澄川初枝さんという方とそっくりで、それで番組自体がお蔵入りに…」

 思わず振り返ると、そこには誰もいない。

 あるのは「澄川家」と書かれた小さなお墓だけだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ