夢
──夢を見た。
『ふふ、ルナ、とても可愛いわ』
……そう、母がルナに微笑んだ。
私とルナ。双子だからと全く同じドレスを着せられた始めてのパーティの夢。
『本当に。ルナは、明るい色がよく似合うね』
父がそういって、ルナの頭を撫でる。
……私は?
ルナとよく似た姿をしている私も、それなりに似合っているはずだ。けれど、両親は私のことには何一つ言及しなかった。
思わず、鏡にむかって手を振る。
鏡の私も私に手を振りかえした。
……透明人間になったわけじゃない、みたい。
でも、父と母には、まるで私のことが見えていなかった。
──そして、それはルナも。
「ありがとう、お父様、お母様! だーいすき」
そういって、ルナが二人に抱きつく。
私はその『幸せそう』な光景をぼんやりと眺めた。
◇ ◇ ◇
『……ライン、アデライン』
「!」
名前を呼ばれ、はっと目を覚ます。
どうやらバメオロスと話したあと、うたた寝をしてしまったようだった。これでは夜にちゃんと眠れないかもしれない。私はニートだから、いつ寝ても自由だけれど。
「……バメオロス」
バメオロスは、ぺろりと私の頬をなめた。
『なかないでくれ』
そう言われて初めて気づく。私は涙を流していた。
『何が貴女を傷つけたんだ?』
「……単なる夢よ、気にしないで」
夢でもあり、記憶でもある。
けれど、それを話したところでどうしようも──。
『貴女がよければ、私は知りたい』
「え?」
バメオロスは、人の姿になると黒い穏やかな瞳で私をまっすぐに見つめた。
「貴女が傷ついた理由を知りたいんだ。私は、貴女に恋をしているから」
「……!」
バメオロスは、私に、恋心を抱いてくれている。それはちゃんと伝わった。私はそれでも、いつか気持ちが変わるのを疑い続けるのだろうけれど。
それでも、そう真剣な瞳で言われては、無下にすることは出来なかった。
「私は……」
「ああ」
ゆっくりとバメオロスに先程まで見ていた夢を話す。するとバメオロスはそっと、私の手を握った。
「それは、貴女の過去か?」
「ええ」
バメオロスは何て言うだろう。神からすれば、下らないことよね。けれど、バメオロスは深く息をついたあと、そっと、囁いた。
「貴女がユーリシアに来てくれてよかった」
「……え?」
思わぬ言葉に瞬きをする。
「悲しむ貴女を独りにせずにすんだ」
そういって、バメオロスは獣の姿になると、そっと私に寄り添う。
例えば、バメオロスがかわいそう、だなんて言ったのなら。私はすぐに、そうかもね、と笑えた。けれど、バメオロスは私を哀れまず、寄り添ってくれた。
「……ありがとう」
少し胸のなかが軽くなるのを感じた。けれど、どんな表情をすればいいのかわからない。そんな私を励ますようにバメオロスはミャア、とないた。




