誘惑
「隠す?」
「あなたを私の世界へ連れていくということだ」
バメオロスの世界。それは。
「神の世界に?」
「あなたの好きな『ぐうたら生活』とやらが好きなだけできるぞ」
なにそれ、めちゃくちゃ魅力的ー!
そうすれば、旦那様の懐事情に関心を払う必要もないものね。
いえ、でも。
「それは、駄目よ。バメオロス」
「なぜ?」
良き案だと思うのだが、そういってバメオロスは首をかしげる。
「だって、私は、お飾りとはいえユーリシアの王妃だし、それに……」
それに。バメオロスが、神の世界にいくということは、バメオロスの加護がユーリシアから失くなるということ。
私はバメオロスと共にこの世界から消えるけれど、残された民たちはどうなるの?
それに神が去った責任をとらされるのは私じゃない。私の周り──旦那様だ。
別に旦那様のことは好きでも嫌いでもないけれど。自分のせいで処刑されたら、さすがに気にはなる。
「ユーリシアとの契約は終わった」
バメオロスは、だから気にしなくていいのだと、私の楽な方へと誘導しようとしてくれる。
でも、いいのかしら。それで。
良くないわ。
「頑ななところもあなたの魅力だな」
そういうと、バメオロスは獣の姿に戻った。
『たが、覚えておいてくれ。無理やり、あなたを隠すことはしないが、そういう選択もあるのだということを。そして、私があなたに恋をしていることを』
バメオロスが私を本当に思ってくれていることは今日で伝わった。
それでも、私はいつかバメオロスが心変わりすることを疑い続けるのだろうけれど。
「ええ、ありがとう」




