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愛玩

「なぜ、か」

 バメオロスが苦笑した。

「【目】は、純粋な精神に宿る」

純粋な、精神? でも、私は自分のことしか考えていない、純粋とは程遠い人間だ。私がそういうと、バメオロスはまた耳からこぼれ落ちた私の髪の毛をそっと耳にかけた。


「人では量れない。【神】視点での、純粋さの話だ」

 神視点での、純粋さ。

「ユーリシアは、かつての精神を失ってしまった」


 ユーリシアはこの二百年で大きく変わった。たとえば、女性に全く政治的権力がなくなったのは、ここ二百年のことだ。私は、ニートとして、悠々自適な生活が送れるから、それで全然いいけれど。


 もしかして、そのことと、関係ある?


 そんなことを考えて、俯いた私の頭を柔らかくバメオロスは撫でた。


 ──頭を撫でられる。


 それは、多くの人にとって特別なことではない。けれど。私にとって、それは、とても特別なことだった。


 頭を撫でられ、抱き締められるルナをいつも近くで見ていた。


 そのぬくもりが与えられないことに疑問をもつわけでもなく。ただ、そうだろうな、と納得して。


 そうか。


 頭を撫でられると、こんな気分になるんだ。


 ふわふわして、なんだか落ち着かない。


 自分に芽生えた未知の気分に戸惑いながら、私が撫でられるままになっていると、バメオロスがふいに、笑った。


「バメオロス?」

「……いや。あなたは、可愛らしい、と思って」


 可愛らしい?


「見た目はルナ──双子の妹の──に、似てはいるけれど」

 それでも、私が、可愛いだとか、美しい、だとか。あまり言われなれていないので、戸惑う。

「見た目もだが。……あなたは、とても可愛らしい」

「……っ、バメオロス! からかわないで」

「からかってない」


 顔を覗き込まれ、神秘的な黒い瞳と目が合う。どこまでも吸い込まれそうな色をたたえていた。


 その瞳に、吸い寄せられるように、目が離せない私の手をバメオロスは握った。

「ああ、やっぱり。私に、恋に落ちてくれたらいいのに」

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