愚かな男
バメオロスを見つめる。黒い瞳には、私だけが映っていた。
「その日が、一生来ないとしても……?」
「それでも。私は、あなたの手を離さない」
バメオロスは、私の握る手を強く握りしめる。でも。
「……私に、そういってもらえるほどの価値は、ないわ」
俯く。けれど、その顔を覗き込まれた。強制的にまた、神秘的な黒い瞳と目が合う。
「アデライン、あなたは魅力的だ」
「……ありがとう」
せっかくのバメオロスの言葉なのに。自分でも、驚くほどおざなりな返事だった。そんな私を責めることなく、バメオロスは笑った。そして、獣の姿に戻って、私の足元に座った。
そして、何も言わずに、ただ、黙って側にいた。
私は、どんな顔をしたらいいのかわからずに、でも、なんだか少し胸のなかが軽くなったのを感じた。
その夜。また、旦那様はやってきた。
「アデライン」
「……陛下、」
まだ今朝、旦那様に言われたことを消化しきれていない。
旦那様は、アイスブルーの瞳で、私を見つめた。
「今日は、君の話を聞かせてくれないか?」
「私の、話、ですか? ですが、私の話はあまりおもしろいものでは──」
ルナの影で特に目立たず、愛されなかった、私の、話。
「話したくないなら、構わない。それなら、代わりに、私の話を聞いてくれないか?」
「……ええ、はい。それは、もちろん」
アイスブルーの瞳がいつもと少しだけ違う気がすることに戸惑いながら、頷く。
旦那様は、ゆっくりと、語りだした。
「これは、妻に一目惚れをした、愚かな男の話だ」




