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花の名前

『ユーリシア王に、興味?』

 バメオロスが、ぱちぱちと瞬きをする。

「ええそう。だって──」

 旦那様と恋仲か、片想いかしらないけれど。確実なのは、旦那様を想う女性がそばにいる。


 お飾り王妃とはいえ、私は戦勝国アイルーマからもたらされた妃。その私にこんな手紙を寄越すなんて、よほど想いが強いと見える。


 誰にも愛されたことがない私は、そんな風に愛される旦那様に興味がわいた。


「バメオロスは、『恋』を知ってるのよね──」


 確か、バメオロスは初代ユーリシア女王ユーリシアに恋をして、その身の一部が獣になったといっていた。

『そうだな、知ってはいる』

 そこで、バメオロスは一度言葉を切った。そして、私を見つめる。


『あれは、はるか遠い昔のこと。そして、私が生きているのは今だ』

 つまり、今はもう、ユーリシア女王のことは想ってないのかしら。


 それにしても。


 私はうっとりと、目を閉じる。

「バメオロス、私、私ね──、恋と愛を見てみたいの」


 ルナとレイバン殿下のあれは違う。だって、あれは、運命、だったから。

『見たい? したいのではなく?』

バメオロスが奇妙なものを見る目で私を見た。


「ええ。見たいの」


 ──私には手が届かないものとわかっているからこそ。そのまばゆさを見ていたいのだ。









 さて。夜になった。いつものように寝室でくつろいでいると、いつものように、旦那様がやって来た。そして、一輪の紫の薔薇を差し出す。


 私はそれを受け取って、香しい香りを吸い込んだ。うん、気分がいいわ。やっぱり、花はいいわね。


「私は……、君を知りたいと思っている」

 旦那様がアイスブルーの瞳で私を見た。私は、それに微笑み返す。

「私は陛下のことをしりたいです」


 そういっただけなのに、旦那様は、目を見開いて、驚いた顔をして、少し目尻を赤くした。

「私を、か?」

「おかしいですか?」


「いや、君に、興味をもってもらえて、嬉しい。なにがしりたい?」

「そうですね──、どんな花がお好きですか?」


 私がそう尋ねると、旦那様はこう答えた。トドロキ花だと。

 私はその言葉によりいっそう笑みが深くなった。

「っ、君は──」

「そろそろ、お帰りにならないと。明日の公務に響いてはいけませんからね」

「……そうだな、おやすみ」


 旦那様が寝室を去った。

 バメオロスが不思議そうな瞳で私を見る。

『ご機嫌だな』

「ええ、だって」


 トドロキ花。それは、手紙から香った、香水の香り、だった。

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