蒼き炎を宿す刀
俺の足に脳天を貫かれ、ドラゴン・ゾンビは死んだ、本当の意味で。
奴の体を照らしていた蒼い炎は、見る見るうちにその勢いを弱め、最終的には消えてしまった。
残ったのは、腐りきったドラゴンの体だけだった。
次第に、俺の体に燃え移っていた炎も、静まっていく。
炎が燃え盛っていた右腕も、最終的には完全に再生していた。
ドラゴンに貪り食われたにもかかわらずだ。
透き通るような頭の感覚も、気付けばなくなっていた。
本来「不死」スキルに、再生能力はない。
ということは、俺の体を再生させたのは、ドラゴン・ゾンビの蒼い炎か。
先程の異常なまでの身体能力も、恐らくはドラゴン・ゾンビによるゾンビ化由来のもの。
ということは、ゾンビ化が解除されてしまった今、俺の身体能力は木偶の坊だった時のものと変わらない。
「こりゃ、お迎えを待った方がよさそうだな」
ならば、下手にダンジョンから出ようとするより、この部屋にいた方が安全だろう。
部屋を埋め尽くしていた隻腕のアンデット達も、動かなくなったのだ、心配はいらない。
飢えや渇きは苦しいが、それによって死ぬことはない。
俺は大人しく、パトル達が助けに来てくれるのを待つことにした。
その時、地面に叩きつけられていたドラゴン・ゾンビの死体が、淡い輝きを放ち始める。
「な、なんだ?」
ドラゴン・ゾンビの巨体が、光の粒となって消えていく。
見慣れた筈の魔物の最期だが、今回のものはいつもと様子が違うように見えた。
そして、それが完全に消滅した後、ドラゴンの腹だった場所から、何かがポロリと落下した。
俺は恐る恐る歩み寄り、ドラゴンから落ちた何かを拾い上げる。
これは……。
「剣……なのか?」
複雑な形の金属が幾重にも重なって形作られた鞘には、輝く蒼いラインが走っている。
その鞘の形状から察するに、刀身は緩く湾曲しているようだった。
聞いたことがある。
確か、東の彼方にある国が、こんな形の剣を使っていたそうだ。
試しに、剣を鞘から抜いてみる。
すると、ドラゴンが纏っていた蒼い炎が、刀身に灯った。
湾曲した刀身には、片側にしか刃が付いていない。
つまりこいつは――。
「――いや、刀か」
ドラゴン・ゾンビは、こいつを体内に隠し持っていた。
ただのドラゴンがこの刀を飲み込んだのか、それともあのドラゴンが、この刀を守っていたのかはわからない。
だが、刀身に宿る蒼い炎から、この刀がドラゴン・ゾンビと同じ力を持っているということは、想像に難くない。
ならば、先程の異常な身体能力をもう一度手にすることも――。
俺は、そこで考えるのをやめた。
正体不明の蒼い炎、そんなものに身を預けていたら、身体がいつダメになるかわからないからだ。
この刀はギルドに買い取ってもらうことにしよう。
一生遊んで暮らせるだけの金が手に入るはずだ。
不意に、俺の腹の虫が、大きな鳴き声を上げる。
そういえば、クリナ達を逃がしてから、何時間経ったのだろうか?
あまり長い時間がたったような感じはしないが……。
その時だった、扉の方から、ゆっくりと光が差してきたのは。
「……ナズ!」
聞きなれた、クリナの声。
涙に濡れているような声色だ。
まさか、もう戻ってきたのか?
「クリナ? 一度退いたんじゃ……」
そう問いかけたときには、クリナは俺の胸に飛び込んできていた。
「身体の調子を取り戻してから、すぐに戻ってきたんです……! ナズ……ケガは……あのドラゴンは……」
「ドラゴンは……倒した。いや、倒せちまった」
「え……?」
俺の腕の中で泣きじゃくっていたと思ったら、今度は目を丸くするクリナ。
そんな彼女を見かねてか、ついで部屋に入ってきたパトルが、口を開いた。
「3日間ずっと泣いていたんだ。ナズを助けに行かなきゃってね」
「え? 3日……!?」
「それにしても驚いたよ、ナズ。まさかドラゴン・ゾンビを倒すなんてね。君が生きて帰ってくるとは信じていたが、まさかそんな武勲を挙げるとは」
「ああ、俺にもどうして倒せたのかはわからない」
俺は目を丸くしたクリナの頭を、右手で撫でてみた。
透き通るような桃色の髪に触れ、右手が確かに再生していることを確認する。
生きている、俺がそれを実感した瞬間、彼の声がした。
「ち、生きていやがったか……木偶が!!」
ガナイアの声が。
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