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#09

「#8」って打ちそうになって、あれ「9」だっけ「8」だっけ?

ってなって


「8だ!9話も書いてるわけねぇ!!」


とまぁ一回「8」ってサブタイトルつけたんですけど、「9」話でしたねいやぁ打ち直すのめんどくさかった!(所要時間2秒)


そんな感じで大分遅い更新ですけど、まぁまぁ許容範囲許容範囲大丈夫だってうんうん!な9話です。

 ――地面に沈み込んでしまいそうな倦怠感と酷い頭痛が、混濁した意識を叩いた。


 ぼんやりと、する。

 かすかに開いた瞼の隙間から、瞳孔を抉じ開けようとする鋭い光線が差し込んできて思わずもう一度闇を見た。

 けれど目前を支配した暗黒が僕の何もかもを引き摺っていってしまいそうな感覚に襲われて、ずっしりとした瞳のシェルターを開いた。


「――ん?」


 麻痺した脳で辺りを見ると、叶の家のようだった。

 ……古臭い照明に見覚えがある。

 おそらく間違ってないはずだ。


「お、起きたな!

 よかったぁ、心配したんだぜ?」

「……あぁ」


 取り合えず返事をして起き上がる……あぁそうか、ここは叶の家だった。


「おはよう」

「……おう? 

 んーと……、寝ぼけてんのか?

 ま、ひとまずおはようさん」


 寝ぼけてる? 一体誰が? 

 ……あれ? 

 何で僕、こんなところで寝てるんだ?

 ……あぁ、そうか。

 叶と楓に勉強を教えてたんだっけか。

 そうか……そうだった。


「……うっ」


 起き上がろうとした瞬間、誰かに撃たれたと錯覚してしまいそうな痛みが脳天を貫いた。

 座布団を折りたたんだ簡易的な枕に再び頭を乗せて、ようやく状況を理解した。


「大丈夫か? 

 あーんな場所で堂々と寝ちまってるもんだから心配したぜ全く……」

「……。」

「……どうした? まだぼーっとするのか?」

「いや……もう醒めた。

 悪い、迷惑かけたな」

「いや、これくらいなんてことねぇけどさ。

 隣の部屋にもどる楓が見つけてくれなかったら、そのまんま凍ってたかもな。

 あとでちゃんとお礼しとくといいぜ」


 それよりも、と訝しむように叶は言った。

「なんであんな所で寝てたんだ?」

「あー……」

 接触の悪い脳の回線を繋いで、何とか言葉を紡ぎ出す。

「滑らせて道の縁石に頭をぶつけた、かな……あんまり覚えてない」

 さすがに無理やりな言い訳だなって思ったけど、樹は何も言わずにそうかぁと頷いた。

「んー……そか。

 まぁ外傷はなさそうだけど……明日病院に行ったほうがいいかもな。

 ほかに痛いところは無いか?」

「――全身かな」

 と、正直にいえたらどれだけ楽だろうな。

「……いや、どこもないな。

 えっと」

 部屋を見渡して、時計を探す。

 鳥が象られた木製の時針がちょうどカチリと音を立てて、十二を指し示した。

「……もうてっぺん廻ってるのか」

「ここに運んでからもだいぶ寝てたからなぁ。

 俺は全然気にしねぇから気を使う必要はねぇけどさ」

「……悪い、ありがとう」

 片手で額を抑えつつそう言った。

「…… まだ調子でも悪いのか?」

「いや、なんて言うか……その……、嫌な夢を見た」

「嫌な夢?」

「あぁ。

 自分がとても弱くで卑怯な奴だって、そんな自責に駆られる夢だった……」

「……そうか」

 叶はそれだけ言って、黙り込んでしまった。

 沈黙がどれほど続いたのか分からないけど、叶なりに気を使ってくれていると分かった。

「――そろそろ、帰ろうかな」

 言って、すくっと立ち上がる。

 立ちくらみがして視界が大分潰れたけれど、それでも僕は何とか平然を装った。

「ん、わかった。

 夜も遅いから、今度こそ気をつけて帰るんだぞ?」

「足元よく見る……おっけ。

 じゃあ……ありがとな」

 俺はそのまま、玄関へ体を向けた。

 歩みを進める度に、自分が闇の中に歩んでいくのが分かる。

 ……叶と、楓と。

 もう会うことは無いだろう。

 他人とこれ以上関わって、これ以上傷つけて傷つけて。


 ――結局、俺の言う通りじゃないか。


 あの時、必ずしも僕に柚葉が救えたとは言わない。

 ……だけど、試すことならいくらでもできたはずだった。

 1秒を無限に引き伸ばした一瞬、あの時手を伸ばしていれば彼女は今でも笑っていたかもしれない。

 彼女という物語のエンドロールを、見なくて済んだかもしれない。

 それを僕は見殺しにしたんだ。

 現実にそんなことが起こるはずないんだ、と判断を鈍らせた。

 だから物語は終わった……それなのに。

 それなのに、許されたい俺がいた。

 もう何もかも放り投げて、忘れて、何もなかったように生きていくのも悪くない。

 他の誰も責めないし、咎める奴も居ない。

 でも……一番みじかにいる僕だけは一生その罪を咎め続けるんだろう。

 ならせめて、もう誰ともかかわらないで生きていくべきだって。


『――お前は人を不幸にする。 だから誰とも関わるな、何もするな』



 ……僕もそう思ったんだ。



「――樹、ちょっと待った」


 玄関の扉に手をかけた所で、叶が静かに言った。


「……ん、なんか忘れてた?」

 僕はすかさず振り向いた、まだ頭がボーっとするし忘れたのかと思った。

 でも、叶の手には空しか乗っていなかった。


「やっぱり、今日は泊まってけよ」


「……え?」


 最初は何かの冗談か、もしくは気を使ってくれているのかと思った。

 けれど……すぐに分かった。

 どうもそんな風ではない。

 何か言いたげな厳しい双眸の彼は、まるで別人のように見える。


「……気持ちは嬉しいけど今日は帰らなくちゃ、ごめんな」


 優しく微笑んで、僕は外へ踏み出そうとした。


「いや、泊まってけって」


 そんな僕の腕を、叶は掴んで引き止める。

 叶が腕を鍛えていると言う印象は受けなかったけれど、いざつかまれてみれば僕のように茶碗と箸くらいしか持たない様な貧弱な腕では解けないと分かった。


「……なんだよ叶。

 説明してない問題でもあった?」


「そうだよ。

 お前の分かりやすい解説でも、まだ全然わかってねぇ問題がある」

「後にしてくれよそんなの……。

 あとで写メでも送ってくれればちゃんと答えるからさ。今日はもう帰らせてくれ」

「そういうわけにはいかねぇな、早く戻ってこいって」

「――っ! おい、止めろって……何するんだよ!」

「何するんだよじゃねぇよ。

 いいか叶? 俺は距離観がわからねぇんだよ。

 いつも見誤るから変な目で見られることも多いし、なんなら迷惑がられることもある。

 だから、あんまり人の事情に踏み込まないようにしようって決めてんだ」


「だったら、何で僕の――俺の腕を掴むんだよ!」


「『だち』に誓って、俺は決めてる…………だけどな」


 バァンっと、叶の拳が下駄箱を叩いた。


「――そんな顔してる奴を、一体どうやって見送れってんだよ!」


 瞬間。

 急に体に力が入らなくなっていくのが分かった。


「……え?」


 手足の筋繊維が言うことを聞かない……やがて叶に抵抗する力も無くなって。

 そしてようやく、僕は気づいた。


 あぁ……そうだった。




 俺……啼哭いてるんだっけ――。

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