#08
マジで眠い。
本当に眠い。
でも2ヶ月フラグ回避した僕しゅごい。
……それはそうと、夜中の2時頃ってお腹すきますよね。
え、空かない?
空かないと答えた人は漏れなく夜中の3時頃にチョコマカから飯テロ画像が送られてきます、嘘です。
そんなわけで8話らしいですよ。
――大きな空き瓶の中だった。
空虚で透明。
どこかで……そう。
何も無い、あの明るくも寂しさを孕んだ快晴に似ていると思った。
『――皮肉だな』
瓶の中に設けられた椅子に腰掛けて、俺という本能は嗤っていたのだった。
『過ぎ去った日々に押しつぶされる未来……人生なんてさ。
最も、俺は見てて愉快痛快。
俺という「本音」を押し殺したが故に戒めの柵に囚われる姿なんて、そりゃあもう傑作だ。
……でもさ僕、そんなんでいいわけ?』
瓶の中に設けられた椅子に腰掛けて、僕という理性は哀に沈んでいたのだった。
「……俺がそんなこと言うなんて珍しいな、ようやく僕らの犯した罪に気づいたのか?」
『まさか、罪なんてあるわけがないね。
あいつはそういう星の元に生まれ、そして還った。
それだけだ』
俺は冷笑を浮かべ、僕は顔をしかめた。
「その言い方は気に食わないな、そんな言葉は二度と口にするなよ。
それに……人生を楽しむ権利なんて、とうの昔に捨てたじゃないか」
俺は肺から呆れを吐き出すように、息をついた。
『それがくだらないっていってんだろ。
……もういいじゃねぇか。
苦しんで、足掻いて――今までの人生何を得た?
何をするにも無意味だった……知り得たのはそれだけだろ。
どう足掻こうが叶わないことなんて世に幾らでも転がってる、それがたまたまあの事故ってだけだ。
出来ないことにいつまでも固執することは馬鹿やることだって。
そうは思わねぇかお馬鹿さんよ?』
「なんとでも呼べばいい。
嗤いたきゃ嗤ってろよ、それで俺が満足するならね」
『可愛くねぇ奴だな』
俺は肘かけに肘を置いて、背をもたれた。
『俺と僕は表裏一体。
少しくらい分かり合える部分だってあっていいだろ?』
「……寝言は寝て言え。覚えているかい、十の時に習った言葉だぞ?」
僕は肺から苦悩を吐き出すように、息をついた。
「俺が僕だなんて、正直考えたくもない。
俺みたいな奴が僕の中に存在している、その事実に虫唾が走る」
『ふん、悪かったな。
俺だって僕の存在に飽き飽きしてるよ。
だが……ただの偽善者だろ、僕』
「…………あぁそうだ。
だからこそ、そんな僕が一番嫌いだよ」
僕はこめかみを押さえて、背をもたれた。
『僕は、何も知らないだろ。
怒り憎しみ、悲しみに苦しみ。
そして欲望、飢餓……そりゃこんな汚い感情を取り繕えるなら誰だって聖人だろうよ。
だが……覚えとけよ。
人は聖人にはなれない』
「――そこに俺がいる限り……ね」
『なんだ、わかってんじゃねぇか』
「あぁわかってるさ。
でもやっぱり、分かっていても理解したくないんだよ。
どうやったって、俺を嫌いでいたいんだよ」
『……我侭な奴だ。
正直、俺には僕が何におびえているのか分からない。
あいつが生き返って呪詛を浴びせてくるでも、周りの連中が指差して俺らを悪役に仕立ててくるわけでもないんだ。
なのにどうして取り繕うんだ?』
「それは……分からない。
何が怖いのか、なんの為に僕はこうしているのか。
考えすぎてもう分からない」
僕は立ち上がった。
椅子がピシリと啼いて、そして瓦解した。
「でも、一つだけ。
決して交わることの無い平行線で、どれだけ俺が嫌いだったとしてもさ。
俺が僕の本音なんだって。
この事実は……認めているつもりだよ」
俺は立ち上がった。
椅子がバキリと号哭て、そして張裂けた。
『……認めるだと。
僕正気か?
さんざん俺を除け者にして、偽善者を演じておいて。
今更認めているだと?
おいおい、それは笑えねぇよ。
たしかに僕は俺だけど、冗句のセンスが圧倒的に足りねぇようだぜ?』
「……」
何も言わずに、ただ俺の双眸を僕は見つめた。
刹那、キッと俺の表情が歪んだ。
『……ならどうして俺の思ったように行動しない。
なんでいつも邪魔して来るんだよ、僕。
もうどうしようもないことを責めて責められて、それが辛くて苦しくて――苦しいって叫んで何が悪い!
逃げたいと願って何が悪いんだよ!
くそっ、綺麗な僕が嫌いだ。
そんなことしたって、俺らはいつまでたっても救われないってのに!』
「……救われないか。
それは違うよ。
救ってやれなかった僕らに救われる道なんてあるはずが無い。
どうかしてるのは俺の方だ。
僕らはあいつが好きだった。
恋人でも、恋人じゃなかったとしても。
あいつは、僕らにとって大事な人だったんだよ。
なのに…………なのに!」
『どうにもならなかっただろ!
いい加減、凝り固まったそのクソみたいな考えを改めろ。
僕はなんにもわかってねぇ。
いつまでも過去を引きずって、俺らの未来が責任と罪悪感にぶち壊されていく様をあいつが望んでると思うのか!』
「望んでいる望んでいないなんて関係ない!。
これは……これは僕なりの償いなんだよ。
もう嫌なんだよ。
何も出来ないうちに大事な人を失うのは」
『……ふん。
所詮、独り善がりな僕の自己満足だろ』
「なんの償いもせずに許されようと思うなんてさ。
それこそ『救いようのない』傲慢だと思わないのか、俺」
『俺/僕』は「僕/俺」を見据えた。
――そして確信した。
『……わかったよ。
どうやら俺らは分かり合えないらしい。
それも、永遠にな』
「あぁ、そうだろうね。
……それでいいさ。
自分の問題は僕が向き合うよ、だから俺は出てこなくていい」
『……もういい。
話せば分かり合えるって、そう思ったのが俺の失敗だった。
たとえ俺をいくら押さえつけていても、本当のところはつながってるって信じてたんだよ』
ナイフを取り出した。
『――だが、結局ダメみてぇだな』
「……おい」
『なぁ、僕さ。
俺を――何処まで押さえ込める?』
「……何を言っているんだ?」
俺はナイフを逆手に持ち替えた。
『僕が俺というなら当ててみろ。
まぁ最も、当たったところで果たして僕に何が出来るだろうな?』
「……やめろ」
硝子の壁に錆びた刃が向いた。
『俺を止めることなんて出来ねぇさ。
なんたって僕……』
「おいっ!」
僕は声を張り上げた。
『――本当は、誰よりも救われたいんだろ?』
俺は硝子の壁に刃を振り下ろした。