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#07

7話って聞くとだいぶ更新したなぁとか思って自己満しそうなんですけど、一応ちゃんと書いてきましたはい。

1ヶ月更新しないフラグは回避しました、やったぜ正解コロンビア!

こういうこと言うと次2ヶ月更新しない説出てくるんですけど、とりあえず7話です。

「柚……葉?」

 思わず声が漏れる。

 これが仮に何かの冗談だったとして……笑えない。

 目の前の彼女は名前を聞いた途端ぴくりと反応し、驚愕したと言わんばかりの表情で僕を見ている。

「どうして……名前を?」

「……覚えてないのか?」

 なにかの間違いだと思うと同時に、期待感が胸に押し寄せていた。

「樹だよ……中城樹。

 いっつも一緒に帰ってたじゃんか?」

 なぜ、とか。

 どうして、とか。

 そんな言葉は出ない。

 ただただ、目の前の光景にとらわれている自分がいたのだった。

「中城……樹……」

 そして一拍の間を置いて、はっと気づいたように彼女は顔を上げる。

「――あ、樹かぁ! 

 なついなぁ、元気してた?」

 そんな風にぱっと顔を明るくして、親しみのこめられた笑みを浮かべた。

 紛れもなく、僕が恋をした一人の女の子だった。

「高校時代から何もかわってないなぁ、少しだけかっこよくなった?

 んー……あでもやっぱり気のせいか」

 にやり笑って、いたづらでもしたような声音で僕の顔を覗き込んだ。

 どこか懐かしい風が吹いてきて、制服のリボンとスカートがひらりと靡いた。

 それはずっと……ずっと続いてきた安寧のように思われた。

「樹。ほら、早く学校いこ?」

 そんな風に差し出された、彼女の手。

 ……でも僕は、そんな彼女がどこか遠くにいるような気がした。

 こんなに近くにいて、手を伸ばせば触れることすら出来そうなのになぜかとても遠く感じている。


 ――そんなの当然だ。


 だって彼女は。


 もうここには居ないのだから。


「……そういえばさ、樹」

 一番恐れていることだ。

「ねぇ……どうして?」

 僕はどんな物よりも怖かったのだ。

「どうしてなの?」

 だれに何を言われようと、どれだけ責められようと構わない。

 でも、それだけは耐えられない。


「――なんで助けてくれなかったの?」


 ……その一言だけは、どうしても。




 虚妄から目を逸らしてみれば、パーカー姿の女性……柚葉によく似たその「誰か」は、くしゃくしゃに顔をしかめて僕を睨んでいた。

「――あの時、お前が……お前さえしっかりしていれば!」

 怒りと憎悪が混ざった瞳だった。

 僕は多分このとき、両足を一蹴されていたんだと思う。

 突然視界ががたんと音を立てた瞬間、僕は自身が路上に倒されてしまったことを理解した。

 息を付く間もなく、誰かは馬乗りになって僕の胸倉を掴みあげる。

「……何かいえよ」

「……。」

「いうことなんていくらでもあるだろ! 

 謝罪も、懺悔も、後悔の念も。

 これから己がするべき贖罪でもそうだ!」

「……。」

 僕は何も言わなかった。

 いや、言えなかった。

 ここで浅い考えで発言したところで、ただの弁明になってしまう気がしたのだ。

「……でも、なによりも。

 あの子が――柚葉と言う存在が居なくなったあの葬儀の日、お前何処で何をやってたんだよ!」

「……っ。」

 吸い込んだ息が詰まった。

「柚葉が死んで、あれからずっとお前のことが憎くて仕方ない。

 何を出来たわけでもなく、何かを成そうとしたわけでもない!

 逃げ続けて、現実から目を背け続けた臆病者のお前が憎かった。

 お前がその面を出そうもんなら殴りつけていた、間違いなく」

「……。」

「でもあの子は……お前が好きだったんだ。

 そんなあの子がこの世の最後に何かを望んだとしたら、あの日。

 お前の別れの一言だったはずだ。

 それをお前……何処で何をしていたんだよ!」

 語る彼女の瞳は、怒りと憎悪と……悲しみに包まれていた。

 ……言うべきことなんていくらでもある。

 告げるべきだった言葉も別れの言葉も、ゴメンの一言だってあった。

 けれど。

「僕は…………何も出来なかった」

 無力感と絶望に打ちひしがれて……だから変わろうと思った。

 もう救えなかったなんていわないと決意した。

 だけど、今も昔も変わりない……僕は僕のままだったんだ。

「……もういい。 何もするな」

 それは、降りしきる雪よりも冷たく鋭い一言だった。

 掴まれた胸ぐらがぐいっと強く引っ張られて、気づくと彼女の瞳がすぐ目の前にあった。

「お前は人を不幸にする。

 だから誰とも関わるな、何もするな。

 ……もう二度と、私の目の前に現れるな!」

 そう言ったが刹那、彼女の瞳に殺気じみた気迫が宿ったのがわかった。

 気づくのが遅かった。

 胸ぐらを掴まれた腕が突然引っ張るのを辞めたと思った途端、僕は後頭部を路面に叩きつけられていた。

 最後に見た冷たい瞳と無力ゆえの絶望の中、意識の糸はプツリと切れた。



 ――とても冷たい、雪が降っていた。


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