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#05

いやね。

本文自体は書きあがってたんですよ、嘘じゃないよ本当だもん。

でもなんか推敲とかお絵描き練習とかしてて投稿するのわすれちゃった、てへ☆

……まってここまできてブラウザバックとかしないで、すごく出来たわけじゃないけどそれなりにちゃんと書いたから本当だって!


というわけで5話です。

「――ほら、あがってくれ。

 言っとくけど遠慮なんて要らないぜ、なんたって一人暮らし最強だからな!」

「あー……なるほど?」

 今日の講義を終えて約束の場所にいくとやはりというか、叶がいた。

 正直約束忘れててくれればなぁなんて、この時少し思ったりもしたんだけれど……。

 大学を少し西に行って橋を超えると住宅外が見えてきて、そこから三つ目の交差点を左に曲がった。

 すると灰色の屋根のアパートがぬっと現れて、あっという間に叶の部屋に着いた。

 一人暮らしらしく大きい部屋というわけじゃないけれど、男の部屋とは思えないくらい落ち着いているというか……そう、綺麗だった。

 玄関には透明な花瓶に二輪の花が挿してあって、赤い服に黒い帽子をかぶった小さな兵隊人形が下駄箱のうえに飾ってある。

 叶は玄関の鍵を下駄箱の上に放ると 、下駄箱のすぐ隣にあったプラスチックの箱からスリッパを取り出した。

「ほい、ここにおいとくぜ」

「これはどうも。

 ところで……奥に誰かいるの?」

「……ん? 

 あぁ、多分俺の友達だ。

 隣に住んでるんだけどしょっちゅう遊ぶから、鍵渡しちまってるんだよ」

 奥にある曇り硝子がはめ込まれたスライド式の扉。

 そこから照明の光が漏れているのはそういうことか。

「じゃあ、お邪魔します」

 靴を脱いでスリッパに足を滑り込ませると、クッションが厚いのか妙にフカフカしていた。

 そのまま八歩ほど歩んで、曇りガラスの扉を開けた。

「叶遅すぎじゃない?

 どこで道草食ってたの――って……」

 部屋はこたつが部屋の中央を陣取っていて、声の主は机上に広げた参考書から顔をあげて僕を見た。

 目が合って、戸惑う。

「えっと……あんた、誰?」

 あちらは叶では無い僕の存在に驚いたのだろう。

 僕は僕で叶の友達というのが女子だったということに、驚きを隠せなかった。

 僕が思っていた彼の友人はもっとこう……金髪リーゼントで、舌にもピアス開けている様なイカした人物だったのだけれど。

 しかし現実を見たことで、そんな想像はパリンと音を立てて砕け散った。

「お、俺ならここだぞー」

 僕の横から顔だけを出して叶は返事をする。

「ここだぞー、じゃないよ。

 ……あのさぁ、あんたまた誰を連れてきたの?」

「今日学食食ってたら出来た友達だ」

「仮に学食食べて友達できるまではいいとして、その友達を今日中に自分の家に連れてくる奴って何?」

 うん、間違いなく正論だ。

 さらに言うとその友達になったとか言う男と貴女のお友達、会話時間およそ五分程度らしいですよ。

「こじらせた陰キャ脱却の為に大学で金髪にイメチェンしたけど、人との距離観をいつも違えて誰これ構わず誘ってくるのやめなって私何回も言ったよね?」

 ……なるほど。

 道理で、鍵を簡単に他人へ渡してしまうはずだ。

「でも今のうち誘っておかないと、また友達逃げちゃうかも知れないじゃん?

 樹も俺と同じくテストやばかったらしいし、一緒に勉強すれば友達もできて点数もアップ出来るいいチャンスだと思ったんだよ」

 ……僕が言うのもなんだけど、想像以上にかわいそうな奴なんだが。

「え?  樹……君っていうの、キミ?」

「まぁ一応、そうだね」

「あの、もしかしてもしかするんだけど、上の名前は中城とか?」

 コクリと首を縦に振ると、驚いたような表情で彼女は叶に視線を向けた。

 そして硬い表情のまま言った。

「……学年主席じゃん」

「……え?」

 そんな呟きの後、まるで同じ症状が感染したように叶も表情を硬くする。

「まぁ、その……一応ね」

 別に、自分の積んできた勉学を誇るつもりはない。

 褒められたり承認欲求を満たすためにしてきた勉強じゃない。

 何よりも僕のするべきことが勉強だった、それだけだ。

 ……けれどなんというか、悪い気はしない。

「まじか、でかした叶。 

 樹君あのさ、ちょっとさノート見せてくれない?

 どんな勉強してるのか教えてよというか教えてくださいお願いします」

「えぇ、樹ぃ……そんなぁ……。

 お、俺あのとき確かに樹にシンパシーを……」

 一方は希望を見つけたような眼差しで、もう一方は世界の終焉おわりを目の当たりにして絶望を突きつけられたような眼差しで。

 僕を見ていた。

 つまりこれは……えぇっと――。

「――教えられる範囲で教えようか? 僕なんかでよければだけど……」

「「是非お願いします先生」」

「うん、打ち合わせした?」

 息ぴったりだった。

 なんというか、二人はよほど仲がいいのかも知れない。

 …………。

 そう思った途端、いやなことを思い出した。

 僕は記憶を振り切るように、次の言葉を発した。

「……そうそう。

 名前を聞いていいかな、まだ聞いてなかったよね?」

「確かに。

 私は長野 楓、楓って呼んでよ。

 あとさ、私もキミのこと樹って呼んでもいい?」

 にこやかに、彼女はそう言った。

 友人なんて、ここ2年くらいいなかった気がする。

 だからなんというか少し照れくさいような……気恥ずかしい。

「……もちろん」

 少しだけ目をそらして、僕はそう返した。







 ――時計の針は10の刻を過ぎていた。


 途中コンビ二で3人分の夕食を買ってきたり、休憩がてら談笑したり。

 そうやって時間はあっという間に過ぎていった。

「今日はほんとに助かったぁ……。

 叶ほどじゃないけど、私も勉強で躓いてたとこあったからすごく助かったよ。

 ありがとね、樹」

「そうだなぁ。

 俺もこの調子なら、主席はムリでも次席くらいは狙えそうな気がするぜ!」

「寝言は寝て言った方がいいんじゃない叶、毛布持ってこようか?」

「……なんだよ楓。

 夢くらい語ったってタダなんだからいいじゃんか。

 ジョークって奴だよつまんねーなぁ」

 楓と叶。

 二人はそんな会話を延々と続けていて、僕はそのやり取りを聞き流していた。

 彼らのやり取りはなんだか懐かしいものがあって、胸の内が妙に暖かくて……なんだかとても居心地がよかった。

 このとき、僕ははっとした。


 ――笑みが零れていた。 


 あまりに衝撃的だったと言っていい。

 思い出したくもない「あれ」から、僕はただひたすらに成すべき事を成してきた。

 贖罪のためなのか、独りよがりにただ許されたいだけなのか。

 それは……未だに分からない。

 けれど確かに言える事。

 余裕のない自己じぶん自己じぶんを捕えつづける牢獄。


 そして。


自己おまえは許されてはいけない、自己じぶんを許してはいけない」


 鉄格子の外からそんな呪詛を吐き続けてはシニカルに嘲笑し、責め立て続ける悪魔じぶんが胸の内に巣食っていることだった。

 だから僕は自身を傀儡と変わりない存在だと、そう思って過ごしてきた。

「ん?

 樹、ぼーっとしてるぞー。

 どうかした?」

 ただ……今だけ。

 今だけは、自己じぶんが暗い牢獄から開放されている気がした。

 人形ではない、一人の人間に戻れた気がした。

 何かが変わったわけじゃない。

 過去の過ちが動くことは無いし、許されることも永遠に無い。

 けれど――仮にそうだとしても。

「……ううん、なんでもないよ」

 こうやって微笑み返せるくらいには、今の自己ぼくは救われている。


 ――そんな気がしたんだ。


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