#04
幻の4話です。
え、そろそろ投稿しないしない詐欺やめろ?
いや詐欺じゃないです。
今回の更新は地球が出来るのと同じくらい偶然が重なって、奇跡的に出来上がった4話です。
なので5話こそありません。
いやここまで偶然が重なっているので、次に5話投稿する前に隕石降ってくるかもしれませんね?(迷推理)
「……。」
尖った薄い骨を、皿の端の方に寄せた。
鯖は――というか焼き魚全般が僕は嫌いだ。
特に学食で出てくる鯖の味噌煮。
これは本当に多い。
骨が。
細かい骨が冗談ぬきに多い。
味はいいのだ。
味に関して不満はない、むしろ好きまである。
魚は健康にもいいし、鯖は脂ものっていて定期的に食べたくなる。
でもだからこそ、身を掘る度に出てくる骨が異常なまでに気になる。
定期的に食べたくなる反面食べるのに時間がかかるうえ、骨が多いときは手が汚れてしまうことすらある。
時間がかかるから段々熱は冷めていくし、そうすると最初はよくてもご飯が美味しくない。
『薔薇には刺がある』というけれど、『鯖には骨がある』でも僕の中では面倒くさいという面において、だいたい同義語だ。
突然変異で、鯖が軟体動物になったりしないだろうか?
除けても除けても出てくる出てくる……。
「「……はぁ」」
ため息が出るのも仕方ない。
おかげで大事な時間を浪費して……ん?
視線を左に向けた。
目が合う。
金髪……チャラチャラした見た目の学生だった。
「あ、悪い。
別にそっちの真似したわけじゃねぇんだ」
「……うん。
どうもお互い、被っちゃったみたいだね」
僕は人見知りだ。
友達なんて、大学には数えられる程度しかいない。
その唯一持っている交友関係でさえ、あまり深いものとは言えない。
まぁ言ってしまえばぼっちである。
だから人とほとんど話せない僕にとって、金髪のピアスを空けた人間とは恐怖の対象と言っても良かった。
もちろん、ただの偏見に過ぎないのだが、
「いやぁ、成績がどうもね……。
全く、テストなんてのは気が滅入るよな」
しかしこの金髪はどうも物腰柔らかというか、圧を感じなかった。
言いながら浮かべている苦笑いも、好感の持てるものだった。
「テストか。
うん……そうだね。
僕も、今回はあんまり調子でなかったかな」
「だよなぁ!
あんなの解けるわけないって。
教授のやつ、絶対講義で説明してねぇよな」
まぁ、バッチリ講義で説明していたんだけども。
ついでに言うと今回のテスト、別に僕出来なかったということも無いんだけれど。
「君もあれか?
テストの調子悪くてため息なんてついてた、とか?」
「え?」
「いや大丈夫だって!
まだまだ巻き返せる。
俺も頑張るからさ、一緒に頑張ろうぜ」
なんで僕が励まさてるの?
僕は、この幾ら除けても出てくる鯖の骨が憂鬱なだけなんだけど。
「いや、あの。僕……」
「ん? あぁ、俺の名前か。
俺は叶、田中叶だ。
女っぽい名前って思うだろ? いやー実はこれ、昔親父が好きだったアイドルの名前らしいんだよな。
……やめとけ、それ以上は聞くな?」
いや聞かないけど……結構来るものがあるなぁ。
「まぁ、そんな話はいい。
君の名前は?」
だが叶の切り替えは早い。
すぐに声のトーンを明るく、切り返すように言った。
「え? あ、僕は樹。
中城樹……いやそうじゃなくて」
「樹か! いい名前だな!
よしじゃあ今日の講義終わったら、一緒に勉強会をしよう!
場所の心配はするなって、俺の家に行くぞ!
同じ学食の飯を食った仲だしな。
ん、大丈夫大丈夫。
一人友達いるけど、優しいやつだからさ! 」
まぁ馬鹿なんだけどな、とつけ加えて叶は笑った。
ダメだこれ、話聞かないタイプのやつだわ。
そもそも同じ釜の飯と学食じゃ意味がまるで違うし、どうしてここで二分も話してないようなやつを一緒に勉強しようぜって誘えるのか、その神経からしてもう謎だ。
だが……、そんなことはもうこの際どうでもいいことだ。
僕の中での最大の謎は別の所にある、もうこれは世の摂理を疑いたくなるレベルだ。
そう。
――なんでこの金髪が食べてる鯖、骨少ないの?
僕がこんもりという表現さえ出来そうな骨の山を築いているその真横で、なんの苦労も知らずに美味しそうに鯖を食べている。
なんだその皿の縁に除けた二本程度の骨は。
労働の対価に報酬をもらう。
世の中はそういう風に回っているはずじゃなかったのか?
え、この格差って何?
「ん? どうかした……ってうわぁ、樹の鯖骨の量ヤバくね?」
僕の鯖嫌いに拍車がかかった瞬間だった。
……まぁ、最も。
友達のできた瞬間でもあったが――。