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さて、最後に更新したのいつか忘れたけど……まぁーいっか☆

10話目書きますたぁ!

久々の更新だけどがんばったんで割と褒めてほしいかも……褒めてくれたら漏れなくチョコマカが感謝のハグをしにいきます。え? いらない? あはいわかりました、いやまぁ嘘なんですけどね。いつもの嘘ですはい。

とまぁ、搾り出した10話です。

 自分の中に押しとどめていた物は僕の思う以上に大きくて重々しくて……、いつか透明な悲しみが流れ落ちていった。


「……そうか」


 追い詰められていたんだ。

 逃げ場なんて最初からない、でもいよいよ身動き一つ取れなくなって。

 もがいて。

 溺れて。

 打ちひしがれて。

 理性にズタズタに切り刻まれ続けた心は、もはや縛られることを拒んでいた。

 俺が叶にその全てを打ち明けてしまうことは、もはや必然のようだった。

 大事な人を失って辛かったこと。

 苦しかった。

 悲しかった。

 そして――寂しかった。


 叶は何もいわないで話を聞いていたけれど、そっと静かに言葉を紡いだ。


「俺は大事な人を失ったことは無いよ。だから樹の気持ちを理解することは出来ない……でも、どうだろうな。

 そういうこと考えちゃいけないって、分かってるんだけど」


「……うん」


「……でも、俺だったら逃げるだろうなって。

 言い訳して愚劣に自分を正当化して、周りに蓋をする。

 俺わかんねぇことばっかだけど、これだけは俺みたいな馬鹿でも知ってる。

 人間は――強くない」


「……うん」


 強くない。

 ……あぁ、痛いくらい分かるな。

 酷く脆い。

 それは……そう。

 残酷なまでに。

 それが、人間だろう。

 それが、心だろう。

 それが、生命だろう。

 これらはあまりにも理性に侵されやすい、穢れやすく傷みやすい。


「でもお前は……皮肉にも強すぎたんだろう。

 それ故に、毒を飲み続けるしか無かった。

 いつしか己自身が、『(ドク)』そのものになってしまうまで」


「……。」


「知ったような口をきくなって思うかもしれねぇけど……でも、事実その通りだろ?

 自分を責めるなんて出来ないぜ、普通。

 責める余裕なんてないくらい、ほんとだったら打たれ弱いはずなんだ。

 折れて良かったんだ、逃げてよかったんだ。

 それを……こんな簡単な問題に躓くなんて、な」


「……あぁ、簡単だな。

 小学生の足し算……いや、そんなものよりいくらか簡単だよ。

 でも、だから……」


 ――解けない。


 複雑な問いと言うやつは、単純な問いよりいくらか優しく易しい。

 もはや簡単すぎて、どうして解けないのか分からないのだった。

 間違いのない九十九点の答案用紙を破り捨てて、足りない一点を探し続けて続けて続けて続けて続けてツヅケテ――。

 そうして見つけ出したのは、「自分(バッテン)」。


「……お前を引き止めたのはさ」


 叶はそう口を開くと、天井を見上げた。


「ガキの頃にな。

 友達……帰り道を違えたクラスメイトがいたんだよな。

 ……そいつに、樹があまりにもよく似ていたんだよ」


「似てた?」


 その子は女子だったけどな、そう言って叶は目を伏した。


「…………虐められてたんだよ、その子」


 カチリ、カチリ――秒針の音がやけに大きく響く。


「大人しくて、声はちっちゃいし主張も出来なかった。

 けど自分の意見をしっかり持ってる、芯のある子。

 昼休みは本を読んで、物静かに過ごすような……そんな奴だ。

 当然悪いことなんてしてないし、むしろクラスのために一生懸命に掃除してた」


「でも……虐められてた」


「あぁ。

 世の中なんてそんなもんだろ、表面ばかりで中身なんて見ない。

 クラスの人気者がいじめの主犯格だったけど、そいつはよく掃除をサボって狡賢いことばっかりやってた。

 ……所詮ドラマじゃ善は救われても、現実じゃそうはならない」


「……。」


「でもな。

 悪を卑怯で卑劣なやつだと定義づけたら、連中は悪人の皮を被った下衆野郎って所だ。

 本当の悪人ってのは……その事実を知っていながら何も出来なかった俺なんじゃないかと思うんだ。

 ……いや。

 確かにその時、俺は誰よりも悪人だった」


「……そう、だね」


 自分の保身であれ、立場的な問題であれ。

 苦しみ悶える人間を見捨てたことに代わり無い。

 いつでも自分の事しか考えられない人間は、その悪を善と呼んで正当化するんだろう。


「その子の事が気がかりだった。

 必至に自分が目立たないようにそっけない態度を演じてたけど、本当は気がかりで話しかけたりもしてたんだよ。


 ――笑うんだよ。


 笑ってなんでもないように振舞って、なんともないよって口にした。

 ……その表情がどうしようもなく孤独と悲しみに溢れてた。

 それでも俺は、表立って連中に『止めろ』の一言をいえなかった」


「……うん」


 叶を責めることが出来ない、そんな自分が苦しかった。

 結局叶は悪人で、僕も悪人で。

 そして僕が最も憎むべきは、そんな悪人だったはずだ。

 それなのに情であったり境遇を理解してしまう自分が居ることが、なによりも許し難い。


「こんな何も出来ない奴を悪人以外のなんと呼んだらいいのか、俺の辞書じゃ出てこない。いくらかましな言葉を選ぼうとしてもやっぱり俺は悪人で、あくにんと振り仮名が振ってあった。

 その子に話しかけたり、一緒に帰ったり――その時はせめてもの償いのつもりだったけど、あんなのは償いでもなんでもない。

 ただの裏切りだった」


「叶は……その時、自分に何も出来ないって自覚してたのかい?

 その上で自分に出来ることをしようとした……」


「……いいや」


 叶は天井を見上げるのを止めて、優しい瞳で僕を見据えた。


「その時は自分が無力だなんて思わなかった、少しでも彼女の救いになってるって。

 ……えらく痛い勘違いをしてた。

 俺がその行動が裏切りだって気づいたのは、ある日の帰り道だった」


 その時の叶は微笑みを浮かべた、しかしそんなオブラートでは隠し切れない悲壮な瞳と後悔の色を覗かせていた。


「俺はいつも連中に隠れながら、一緒に帰ってたんだ。

 人通りの無い道を選んでさ。

 見つからないように。

 狙われないように。

 びくびく怯えて臆病に――。

 ……でも隠し事ってのは、いつか見つかって当然なんだ。

 その日、俺は連中に目撃されちまったんだよ」


「……。」


「……もうわかるだろ?

 俺は彼女を突き放したんだよ。

 最低だろ? 一人で逃げたんだ。

 もちろん、餓鬼の俺でも自覚はあった。

 人道を外れた、道を踏み外したって。

 それでもやっぱり……俺は自分の保身に走ったんだ」


「そいつはなんていうか…………最低だ。

 ……僕と同じくらい、最悪で最低だ」


 言うと、叶はシニカルに笑って続けた。


「あぁ……そこまでストレートに言われた方がまだ救われるってもんだ。

 自分は悪者じゃないって、そんな悩みをしなくていい。

 全く以ってその通り――その後、逃げた先にあった寂れた公園のブランコで砂を蹴ってたんだ。

 そしたら後から彼女がとぼとぼ歩いてきてな……俺は何も言えなかった。

 取り合えず駆け寄ったけど、顔に痣を作った彼女を前にして自分のやったことに対する罪を改めて悟った。そして、どうしようもない嫌悪感で自分を殺したかったよ」


「……彼女はなんて?」


「『……帰ろ』

 それだけ言って、痣のある顔で笑った。

 なんて強いんだろう――悲しいんだろう。

 そしてここで責め立てられていたら、どれだけ楽だっただろうって。

 そう思わずには居られなかった」


「……そう、か」


「あぁ。

 足並みそろえて帰ったけど、当然する会話なんてなかった。

 いつの間にか別れ道の信号まで来てて……そこでようやく、俺は彼女に遅すぎるゴメンを打ち明けたんだ。

 ……大丈夫だよって、振り返らずに言って横断歩道を渡っていった。

 信号が赤になって車が通り過ぎていって……手遅れだった。

 振り返った彼女は手を振ったんだ。

 じゃあねって――泣きながら。

 そして……次の日。


 ――彼女は自殺した」


「――っ。」


「飛び降りだった。

 ……最も、飛び降りた高さが大したことがなかったから、死ぬことはなかったけどな。

 でももしあそこで、本当に死んでいたら――。

 俺が『止めろ』といっていれば、彼女は……あいつはそんな馬鹿げた考えも行動も起こさずにすんだんだ。

赤信号になる前に、渡り追える前に引き戻せていたら……。

 あまりにも自分が惨めだった。

 だからもう……だからさ、俺――」


 あぁ……そうか。

 だから叶は――。


「叶」


 人間は強くないな。


 本当にその通り、変えようのない事実だ。

 でも――


「ありがとう。


 僕を――俺を、救ってくれて」


 ――でも。


 それでも決して――弱くない。

 強くはないけど、それでも決して弱い生き物ではないのだった。

 また前を向いて、泣いて苦しんでもがいて溺れて……また笑える。

 そんな、ちっぽけだけど確かな強さを持っていた。


 ――僕は何時何処に、そんな大切なものを置いてきてしまったんだろうな。


「樹……ごめんな、ごめん。

 俺、どうしてももう繰り返したくなかったんだよ。

 だからお前で、そんな罪滅ぼしをしちまった。

 俺が救われたみたいになっちまった……お前のほうが――」


「いや。

 ……よかった。

 叶が、本当に悪い人じゃなくて」


 透明な雫が、頬を伝って零れ落ちていった。

 何もかも詰め込んだ、後悔も懺悔も謝罪苦しみ悲しみ嗚咽怒り泣き声喘ぎが毒独(ドクドク)と。

 そして……それらは何時しかどこかへ消えてしまった。


「……おい、泣くなよ。

 こっちまでつられちまうだろ」


「でも、もう泣いてる?」


「……う、うるせぇな。目にゴミが入ったんだよ、ゴミが」


 そういって、泣き笑いを浮かべた。

 このとき、僕は始めて気づくことが出来た気がした。

 自分を責めて苦しんで後悔する――そんなことより大切で、かけがえの無い「強さ」に。


 ――その刹那。


 ガタンッとやけに大きい音と、「いてっ」という声が玄関先から聞こえた。

 一旦笑うのを止めて、足並みを揃えてそろって向かう。


「あの…………えっと……。

 ち、違うの。盗み聞きしてたとかじゃなくて、帰ろうとしたら置いてあった消火器に足引っ掛けて……だからその……」


 玄関を開けると、隣の部屋に戻ったはずの楓が転んだような姿勢のまま床に座ってこちらを見ていた。


「か、楓……お前っ――!」


「だ、だって!

 う、うるさかったんだもん……。

 この真夜中にボソボソ聞こえてきて、気になって寝られやしないし……。

 樹が起きたのかなって思って入ろうとしたら、なんか湿っぽい話してるし……」


 楓は耳まで真っ赤にして、もじもじと気恥ずかしそうにしていた。


「……えっと。

 何時から話きいてたの?」


「……叶の話の…………初めから」


「あー、くっそ。

もーさぁぁ…………あーもう最悪だよ畜生!」


 叶はこめかみの辺りを抑えるようにして俯くと、顔を隠した。

 僕は彼の真っ赤に染まった耳を見て――気がついた。



「……もしかして、さ。

 叶の言ってた女の子って――」


「おい樹!

 ばっか……おい――止めろっ!」


 必至に僕の口を覆わんとする叶と、やはり気恥ずかしそうにもじもじとしている楓。

 そんな彼らに僕は……笑った。


 なぁ、柚葉。


 僕さ、またやり直せるかな?


 お前が居なくて、信じたくも無いこの現実で。


 一度は折れかけたし、なんども挫けたけど。


 あの時みたいに――笑ってもいいかな?


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