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#01

リハビリがてら書きました。

続くかどうかはびみょーです。


追記 一応続いてます。まーいつ終わるか分からないけどね☆

 友人の死というものに立ち会ったことが、二回ほどある。

 一度目は十代後半の、ある雪の降っていた日。

 二度目はつい先刻。

 病室でゆっくりと息を引き取って逝く、その瞬間だった。

 いつか死ぬなんてことは誰でも共通で逃れようのない道であるのに、果たしてなぜこうも受け入れ難いのだろう?

 そんな問いに僕は小さな子供のように駄々を捏ねるばかりで、未だに答えを出せずにいるのだった。


 ――病棟の自動ドアが緩慢に開いた、その先は白かった。


 そして流れ込んできた冷気が指先に触れた途端、徐々に冷たくなっていく人の温度を思いだした。

 脳裏をよぎった一つ一つの映像がとても遠い日のことに感じられて、度し難い無力感とやるせなさだけが僕の中に残っていた。

 空はあまりにも、眩しく晴れ渡っている。

 しかし不思議なことに、一つの雪結晶が目の前に降ってきた。

 そっと手を差し伸べるように結晶を受け止める。

 ゆっくりと優しく、壊れてしまわぬように。

 だがそれでもやはり。

 そっと儚く、雪結晶は僕の手の内で溶けていった。






「ねぇねぇー、テスト何点だった?」


「できなかったから教えたくないって。

 少なくともこれで5回は説明したはずなんだけど、お前耳ついてる?」


 商店街を通り過ぎてT字路を左に曲がると、幾度目になるか分からない柚葉のテスト何点? 攻めが始まった。


「私に耳がついてないように見えるの?

 え……やばいよそれ、大丈夫?

 樹、目ん玉ついてる?」


 そんなふうに挑発する柚葉ではあるが、しかし僕はそのルックスにどうしても目がいってしまうのだった。

 瞳は大きいし、肌は透き通るようで。

 黒髪は艶やかに、触れれば壊れてしまいそうな儚さを纏っている。

 悔しいが、美少女という言葉がよく似合う。

 ――などと、惚気た思考に頭を抑えた。

 それじゃあまるで、僕がこいつに勝ち目が無いみたいじゃないか。


「あーあー。そうでしたねぇそーでした。

 言われてみれば、贋作で出来損ないの耳みたいなのがついてたましたねぇ柚葉さん」


「なーんだ、私も安心したよ。

 樹も、贋作の出来損ないの能無し目ん玉がついてたんだね!」


  ……能無しときたかこの野郎。


「どーせ自分ができたからってそんな余裕ぶってるんだろ?

 性格のわるさが滲み出てるよお前。

 だーから彼氏の一人も出来ないんじゃねぇの?」


「いいんだよ別に。

 それよりも、わたしもぜんぜんできなかったんだよなー……ちらっ…………ちらっ」


「こっち見んなついてくんな近寄るな触れるなドブネズミ。

 たとえ本当に成績悪かったとしても、だ。

 今まで悪い悪いと成績詐称してきたお前に、僕のこのやるせない気持ちがわかってたまるか!」

「は?

 女子に対してドブネズミはいくらなんでもないでしょ。

  だからあんたは『樹くん? んー……パッとしないよね……』って周りの女子から言われるんだよ」


 え……まじでいってんの?


「いや……さぁ。

ドブネズミはさすがに言いすぎたなっって思ったけど……お前ってたまにとんでもない爆弾ぶん投げてくるよな……聞きたくなかったんだけど」


 さすがにちょっと傷ついた。


「まぁまぁいいっていいって大丈夫大丈夫ー

 どーせ点数に期待なんてしてないしてない!

 ただ単に、私がマウント取りたいだけ!」


 親指を突き出してにこやかに告げる人の言葉とは到底思えない。

大体感情もクソも無い棒読みのフォローなんて、どう考えたって信用できるわけ無いだろ。


「多分だけどそれ、本音と建前取り違えてるな」


「……。」


「あからさまにてへっ、みたいな顔すんな」


 まぁ実際、テストの点数なんて見られても減るものでは無いんだけれど。

 ただ人である以上、見せろと言われると見せたく無くなる心理が働いてしまうわけであって、相手が関係の深い柚葉ともなれば尚更だった。


「ちぇー、つまんないのー。

 どーせ減るもんでもないのにさぁ」


「減らないからいいってもんでもないだろ。

 ……あー、もうわかったよ。

 アイス買ってやるから、もうその話題はなしな」


「え、まじ?

 樹の癖にいいとこあるじゃーん!」


「……一言余計な」


 そもそもこいつ、冬にアイスというチョイスになんの疑問も抱いていないのか?

 少なくとも僕は今アイスなんて気分じゃないし、体の冷えるものは食べたくないんだが……。


「じゃあどうする? この先のコンビニでもいい?」


「別にどこでもいいけど……、じゃあそこにするか」


「よっし、ハーゲンのチョコ味ゲットォー!」


「……なんの躊躇いもなく高いの選ぶよな。

 遠慮するって言葉知ってる?」


「なにってんの? 私あんたより頭いいけど?」


「ほんっっっとお前って可愛くねぇわ」


「いいもんーべつにぃ」


 彼女は微笑んだまま、少し先を行ったところでこういった。


「でも樹だからだよ。

 なんの気兼ねもいらないのは、ね」


 ……。

 振り返らずそういった彼女の背中を、未だに覚えている。

 それは照れ隠しのような、そんなものだったはずだ。

 なんだかんだ僕は柚葉が好きだったし、今思えば僕達は互いに互いのことが好きだったのかもしれない。

 だがそんな彼女の照れ隠しに訳もなく、僕は寂しさを思い描いていた。

 なぜなのか――分からない。

 勘というか……どちらかといえば予感のようなものだ。

 その時はただの気の所為、寒さに気がやられたのだと思っていた。

 しかし、決して杞憂などではなかった。

 本能的に僕はその「なにか」を感じ取っていたのだろう。

 事実、この十分後。

 彼女の華奢な肉体は、あっけも無く。


 壊れてしまったのだから――。


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