スビアルタ王1-1
聖なる月に祈り捧げば、神のみぞ知る世界の理がある。我その意味知らず、知らずしてなお学びたもう。紅き深淵にさらなる赤を灯せさすれば開かれん。
スビアルタに古くから伝わるいい伝えである。
先代の王から王へいい伝えられてきた。意味など知らぬ方が良かったのだ、…知り過ぎてしまった。あやまちとは過ぎて気づく、人は学び傷つかぬ様に生きていくのだ…
スビアルタ王は何やらぼんやりと考えていた。いや、考えるなどではなく、今目の前で起きる事についてどの様な選択をしようかと悩んでいるのが正しいだろうか… 選択の日々、答えなどないはずなのに答えを導き出そうとしている。
それが、悲しみでも…
スビアルタの王に名はなかった、正確に言えば名を奪われて王となるのが習わしだった。
生まれてから、名をつけられ天命を全うし墓に入り名を刻む。人が紡ぐことで語り継がれるのだがそれがこの国にはない。
王になり王として死に、また王が生まれる、そんな国であった。
考えすぎたか…
考えすぎたと感じたのではない、考えがあり過ぎて決めきれないが決断を下して行かなければならない。それが、王としての責務であり国民を守らなければならないからだ。
ふと、気づけば夜になっていた。
今日は、司祭が決めた勇者生誕を祝う祭りの日であった。太陽と月の動きを見て決めているそうだが難しく、私にはよく分からないのだ。
祭りは!賑やかに行われる。
皆、勇者の様な赤いマントを羽織り、大地の恵みに感謝をし、歌い、踊り続ける。
コヨーテも祭りが大好きだった。戦いのあとは、必ず、食べて、呑んで、踊り続ける愉快な奴だったらしい。
ただ、毎日祭りにしては仕事にならないので、司祭が決めた日を生誕の日にして祝っているのだ。
城下が賑わい続けるなか、騎士達は慌てていた。
何に慌てているのか分からなかったが、王にも一報が入ってきた。
「王、ままっ魔王が現れたそうです。騎士の1人がゴブリンとの戦闘中、巨大な剣と共に現れ、騎士が腕を切られ負傷し緊急帰還しました。」
…考えが増えてしまった。
「わかった、すぐ騎士を手当てをし詳細をまとめ報告せよ。」
短くいい、玉座の間に行く。