第91話 待ち合わせ
「よし、きちんと鍵も閉めた」
「念のためもう一度確認されては?」
「そうだな……っと、大丈夫! じゃあ行こうか」
うららかな日差しの中。
俺達は家を出て、王都の南門──今回の旅行の待ち合わせ場所へと歩き始めた。
隣を歩くカレンはいつも以上に可愛い。
軽くフリルがあしらわれた白く清楚なブラウスに、落ち着いた紺色のスカート。
顔立ちが元々端正な事も相まって、お人形さんのようだ。
兄としてのひいき目抜きにしても可愛い。
正直、何というか……殺されそうだ。
別に物理的な意味じゃなく『俺の理性が殺されそう』という事だ。
「お兄様、どうかしましたか?」
「いいい、いや、何でもないよ、それより快晴で良かったね」
「はい。普段良い行いを心がけていると報われるものですね」
確かにカレンはいつも他人に優しいし、言葉遣いも丁寧だから、それを認められたのかもしれないけど……。
俺達を認めてくれるのが神様、ってのがな……。
まぁ俺の個人的な好き嫌いだけど。
……それでも今は感謝しておくか。
そのおかげでこんなに可愛いカレンを見られたんだから。
「お兄様そろそろ着きますよ。あっ、あの人……」
カレンが誰かに気付いたようだ。
俺がその視線の先をしっかり見てみると、純白の白いワンピースに日よけ用の大きな帽子。
ぱっと見、可憐などこかのお嬢様のようだ。
しかし燃える様な赤い髪と、見覚えのあるよく整った顔が、誰であるかを俺に教えてくれる。
「……オリヴィア先輩じゃないですか?」
「そうだね。早く会いに行こ」
俺達はオリヴィアを発見して、足早に待ち合わせ場所へと向かった。
「オリヴィアー」
「オリヴィア先輩」
「ん? あっ、アベルとカレンちゃん!」
「いやー結構早くに家出たんだけど、オリヴィア早いね」
「そうかしら?」
「はい、とても早いですよ。オリヴィア先輩も楽しみだったんですね」
「ま、まぁそれなりには……」
あんまり楽しみにしているのを悟られたくなかったのか、オリヴィアは少し恥ずかしそうだ。
そうして俺達が談笑していると、
「おーもう全員おるんか」
「……見参」
グルミニアとアマネが待ち合わせ場所に現れた。
二人の登場に、俺はそちらをすぐに振り返り、様子を確認した。
グルミニアはいつもと大して変わらず、白衣の姿のままだ。
しかし、髪は微妙に乱れ、心なしか疲れ切っているように見える。
アマネも制服の魔術服こそ着ていないが、灰色のパーカーにタイトなズボンと、いつもとあまり変わらない。
しかし、パーカーにプリントされた"LOVE"の文字が妙に気になる。
……絶対意識してないだろ。
「よ、二人共」
でも、俺はあえてつっこまず、二人へ片手を上げて挨拶した。
「……よ」
「おう。もう皆揃っておるかの?」
いつもより少し楽しそうなアマネと、やつれ気味のグルミニア。
「一応全員揃ってるよ」
「そうか。なら仕事で疲れたし、早く向かいたいわい」
「大変そうだな」
「本当に大変じゃよ。お主らが卒業したら、教員なんて絶対やめてやるのじゃ」
「はは……。……そういえば何で行くの?」
移動手段についてはグルミニアが「用意する」と言っていたがどうなんだろうか?
最悪宮殿までなら、乗り換えの必要はあるけど乗合馬車でいけなくもないが……。
「ほほーん。アベルはよくわかっとるの」
「いや、別に気になっただけだが……」
「まぁよい、ついて来るのじゃ」
言われるがままに、俺達はグルミニアの後ろへとついていった。
そして辿り着いたのは南門近くの倉庫。
ここに何があると言うんだ?
「これじゃ!」
そう言うとグルミニアは勢いよく倉庫の扉を開いた。
中にあるのは一台の大きな馬車。
しかし馬は無く、その御者台は全て金属で出来ている。
車輪は重さも考慮してか六枚、所々に窓があり、後部以外にも車体前部に入り口が存在する。
何だこれ。
こんなの見た事ないぞ。
「これは?」
「これは船に使われる魔石エンジンを使用し、車体に金属を用いた──馬さえいらない馬車じゃ」
堂々とグルミニアは胸を張る。
「その名も……魔石車じゃ!」




