表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/116

第90話 3年次初の魔術戦

 いつもより弱めの光が部屋に射し込んでくる。

 ……朝だ。


 俺はベッドから身体を起こして、服を着替えたらすぐにリビングへと向かった。


「おはよう」

「おはようございます」


 陶器のような白い肌によく映える黒髪、そしてその端正な顔を俺に向けてくる。

 リビングには既に朝食の準備を終えたカレンがいた。


「良い匂いだね、カレン」

「やっぱり魔術戦の日は気合が入りますね」

「今日も頑張ってね」

「うふふ、お兄様こそ」


 俺達は食事を口に運びつつ談笑し、魔術戦への緊張感をゆるめる。

 試合の前のこういった時間はとても大切だ。

 やはり普段通りと非日常、この2つのメリハリがしっかりしてないと、戦いのスイッチは上手く入らない。

 だから俺もカレンもあえて朝に練習はせず、普段通りに振る舞うのだ。


「ごちそうさま」

「ごちそうさまでした」


 そうして朝食を終え、食器が空になった頃、俺達は魔術戦のために学院へと向かいはじめた。


 ◇◇◇


「ふぅ……緊張するな」


 ここは第11闘技場の控室。

 これから俺は3年次初の魔術戦だ。

 時間的に誰も来れないし、一人きりなのだが……そのせいで緊張する。


「問題無いかな?」


 何度も何度も、俺の装備に問題が無いかを確認する。

 服は制服の青い魔術服、剣は使えず、杖のみ。

 これで3回目くらいの確認だが、やっぱり問題は無かった。


 そうして俺がそわそわしながら待っていると、


「二人共前へ!」


 扉の向こうから、審判の先生の声が聞こえて来た。

 ……試合の始まりだ……!


「よし……。行くか!」


 俺は自分の頬を叩いて気合を入れ、扉を開いた。


「ほぉ~う、俺の相手は天下のバカベルかぁ、ラッキー」


 俺の対戦相手。

 バーナード・トレインは俺を見るなりそう言ってきた。


 俺は彼の姿を見てみるが、バーナードは腰パンしたズボンに、柄の悪そうな顔つき。

 明らかに優等生では無い。

 ……これなら気兼ねなくぶっ飛ばせるな。


「……でも、お前の席次も低いんだろ。人の事を言えるのか?」


 俺はバーナードの眼を見て、きっぱりとそう言ってやった。


「はぁ!? バカベルの癖にちょーし乗ってんじゃねぇぞ!」


 案の定、バーナードは俺に煽られキレた。

 こうなった相手は制御しやすい。

 魔術戦でも勝利を掴み易くなる。


 もっと煽ってやろうか、と俺が口を開いた瞬間、


「二人共! 私語は慎みなさい!」


 審判の先生が俺達を注意した。

 バーナードの奴には言ってやりたい事もあるが、このまま無効試合になっても困る。

 ここは我慢しておくか。


「……では二人共準備はいいか?」

「チッ、早くしろよ」

「いつでもいいですよ」


 異なる俺達の返事。


「そうか、なら――」


 審判の先生は手を上げ、


「始め!!」


 素早く振り下ろした。


「死ねバカベル!」


 瞬時。

 バーナードは素早く杖をこちらに向けた。

 そして、


「『石弾』!」


 石の弾丸を俺に放って来た!


 ……たった一つだけ。


「……は?」


 ──ドスッ!

 俺はあまりの弱さに驚き、石の弾丸に当たってしまった。


「どうだ、バカベル! お前の負けだ!」

「……は?」


 しかし俺は倒れなかった。

 ……どころか痛みさえなかった。

 今更この程度の攻撃では怯みさえしない。


「何だと!? お前なんで!?」

「いやお前……弱すぎないか」

「な、なんだと!! なら、『石弾』!」


 バーナードはもう一度、石の弾丸を俺に放って来た。


 また、たった一つだけ。


「っと」


 俺はそれを軽くかわし、


「『石弾』!」


 俺は石の弾丸を高速でバーナードへ放つ……同時に7つも。


 これだけの数を相当な速さで放ったのだ。

 大抵の魔術師なら回避はおろか防御すらできないだろう。

 それはバーナードも例外で無く、


「うわああぁぁぁ!!」


 石の弾丸をもろにくらい、後方へと大きく吹き飛んだ。


「勝者、アベル・マミヤ!!」


 審判の先生はそれを見て、試合を止めた。


 結果は明らか、俺の勝ちだ。

 それにしても……


「流石に弱すぎないか……?」


 バーナードの実力は、俺が2年次最下位だった時と何ら変わらない。

 3年次でこれでは、先が思いやられるな……。


 ま、彼には彼の道があるし、俺が気にする事は無いか。

 それよりも今回の勝利で天狗になって「へへっ、弱すぎるぜ!」みたいな事を言わないようにしないと。


 ◇◇◇


「って事は私達全員勝利で終わったのね、すごいじゃない!」


 オリヴィアが嬉しそうに笑っている。


「私はしてませんよオリヴィア先輩」


 アメリアがオリヴィアにそう答えた。


「アメリアちゃんごめんごめん。自分の事のように嬉しくて、つい……」

「怒ってませんよ、私も嬉しいですし! それに、カレンちゃんの活躍を見て、私もがんばろっかなって思いましたよ!」

「ふふ、ありがとうございますアメリアさん」


 カレンはおしとやかに笑って答えた。


「にしても、お兄様も大金星ですね」

「……おめでと」


 カレンが俺をほめてくれたのに、アマネも乗って来てくれた。


「ありがとう」


 そう、俺は今この場、王都のとある定食屋で俺とカレンとオリヴィアとアメリア、アマネの5人で、今回の勝利もこめてご飯を食べに来ていた。

 クラーラさんは残念ながら家の用事か何かで先に帰ってしまった。

 だからこの五人だ。


「ハイトウッド先生に私も会いたかったなー」


 アメリアは残念そうにしている。


 クラーラさんだけじゃなく、グルミニアもこの場にはいない。

 教員の仕事がまだあるそうだ。


「何でなのアメリアちゃん?」


 オリヴィアがアメリアにそう質問した。

 確かに、何でグルミニアに会いたいのだろうか?


「いやーだってあの見た目で教員とか絶対なにか裏がありますよ!」

「……ッ!」

「どうしたんですか、アベル先輩?」

「いや、何でもないよ、はは」

「えー何か隠してるんじゃないんですか?」

「そそそそんなことないよ!?」


 ぐ、グルミニアが200才オーバーだとか、新魔王を討伐した一人とか……俺、何も知らないしー。


「……アベル、知らない。……私、詳しい」

「本当ですか、ハルデンベルク先輩!?」

「……当然」


 アマネの助け舟に助けられた……。

 でも、逆にアマネに任せるのも不安なんだが……。


「え、やっぱり隠された過去とかあるんですか?」

「……ある。……昔、」

「ちょ、アマ……」


 本当に言うつもりなのか!?


「……酒を、浴びてた」

「え!?」

「どうかしたんですかアベル先輩」

「い、いや! そういえば、そうっぽいな~って、ははは」

「魔術戦に勝ったのが嬉しくて、おかしくなったんですか?」

「そそそ、そうかも! はは」

「……ふふ」


 ◇◇◇


「はぁー日曜が楽しみだなー」

「私も待ち遠しいですね。あ、これどうします?」

「一応持って行った方がいいんじゃない?」


 俺は今、カレンと共に日曜の準備をしている。

 皆と別れた後、今日はバイトもないしゆっくりしても良かったけど、やっぱりこういった準備は早めにしておいた方がいいだろう。


「でも、アメリアも来れればよかったのになー」

「仕方ないですよ、こういった長期休暇は家族が優先ですし」

「確かになー。ま、そういう事なら俺はカレンが優先だな」

「……そうですね」


 少しカレンは少し物憂げな表情でどこかを見つめている。

 おそらくは何かを考えているのだとは思うが、たぶん……両親の事か。


 もう亡くなったものはしょうがないし、どうしようも無いのはカレンだってわかっているはずだ。

 でも、両親のいない旅行にカレンも思う所はあるのだろう。

 なら――


「俺はこれからもずっと一緒にいるから」


 俺は後ろからカレンを抱きしめた。


 出来るだけ俺の熱が、俺の鼓動が伝わるように……しっかりと。


 両親については気になる事もたくさんある。

 俺達がハーフである理由や、何故突然死んだか、とか。

 気にはなる。

 気にはなるけど、でも――


「カレンがいれば俺は幸せだよ」


 最後にそっと耳元にそう呟いた。



 ――――――――――



 ◆アベル・マミヤ、第287位


 ◇スキル『絶対真眼』

 ・『崩壊』

 ・『遅緩時間』


 ◇真祖の力

 ・『神殺槍』

 ・『魔剣』


 ◇加護

 ・『縁の加護』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ