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第89話 戻り始めた日常?

 今日は水曜日。

 既に時期は4月下旬。


「おはようオリヴィア」

「おはよう、今日なんだか遅いね」


 教室に入って挨拶した俺に、オリヴィアが返してくれる。


 別に寝坊した訳では無いが、いつもより遅れたのには理由がある。


「実は……魔術戦マッチングの申し込み用紙を入れて来たんだ!」


 そう、自動で魔術戦の相手を見つけてくれる、マッチングシステムの申し込み用紙を箱の中に入れて来たのだ!

 先週はシモンとガルファの話し合いを見てて、完っ全に忘れてたからな……。


「これで今週は魔術戦が出来るわね」

「そう! 俺に死角はないぞ!」


 ただ紙を箱に入れただけだ。

 なのに一回失敗してるせいか……すごく嬉しい!


「やる気があるのはいいけど、まだ相手は分からないんでしょ」

「うん。一応、席次の近い人と優先的にマッチングしてくれるらしいけどね」

「ふーん。……でも、アベルなら勝てるわよ」

「はは、そうかな?」

「大丈夫。……カインの時もカッコよかったじゃん」


 オリヴィアの可愛い笑み。

 俄然やる気が湧いてくる。

 だけど……それ以上に恥ずかしい。


「……あ、ありがと」

「じゃ、頑張ってね」

「うんっ!」


 よし、頑張るか!


 と意気込んだ俺。

 しかし魔術戦は二日後。

 張り切るには、少しばかり早すぎた。


 ◇◇◇


「よし、行こうかカレン」

「はい」


 そして迎えた翌日、木曜日。

 俺は期待と共に玄関を開いた。


「お兄様、最近元気ですね」

「そうかな?」


 そう俺は首を傾げるけど、実際の所、最近俺は元気だ。

 イスカリオーテには逃げられたけど、シモンを助ける事が出来たし、仲良くもなれた。

 それにアマネと皆との繋がりが出来た事も嬉しい。

 でも、それをカレンに言いたくはないし……


「最近、カレンがいつも以上に可愛いからかもね」

「え!? もう、お兄様ったらお上手なんですから!」


 カレンは恥ずかしがりながらも、俺の左腕に抱き着いてきた。

 それによって左腕に伝わる、柔らかくも弾力のある感触。

 眼を遣ってみれば、カレンの豊満な胸が「くにゅんっ」と形を変えながらも、ぴったりと俺の腕に絡み付いていた。


 妹のカレンに欲情する事は無い……と信じたいが、若い男としてはドキッとしてしまう……っ!


「え、ああ、カ、カレン!?」

「少しぐらいいいじゃないですか、お兄様」


 上目遣いで俺の事を見上げるカレンの頬は赤い。

 カレンも恥ずかしいのだろう。

 それでもこうして抱き着い……


「やっぱりそういう関係だったんだ~」


 後ろから声が聞こえて来た。

 それは俺にとっても聞き覚えのある声。

 俺達は咄嗟に離れ、瞬時に後ろを振り返ると──


「アメリア!?」

「アメリアさん!?」


 アメリアがニヤニヤしながらこちらを見ていた。

 しかもその後ろではクラーラさんがいぶかし気な目でこちらを見ている。


 これは……やばいぞ。

 羞恥心的にも、倫理的にも。


「異常に仲が良いと思ったけど……アメリアちゃん、これは確実だね」

「クラーラちゃんもそう思う? 私も一年前からそう思ってたんだよねー」


「ちちち違うよ、こここ、これはただのスキンシップだよ!」

「そそそ、そうですよねお兄様!」


 兄妹二人して慌てふためく。

 誤解を解こうとしても、この有り様では疑惑を募らせるだけだろう。


「ふーん、ま、私としてはどっちでもいいけどね」


 アメリアはニヤっと笑った。


「それより、魔術戦の対戦相手見に行こ。アベル先輩もどうですか?」

「ももも、もちろん行かせてもらうよっ」


 その後。

 俺達4人は談笑? しつつも学院入り口を超え、魔術戦の対戦相手が張り出された掲示板へと向かった。


「俺の相手は……どこかな?」


 俺はまず自分の対戦相手を探す。


「んーっと、どれどれ……この人か」


 俺の名前の横に書かれた名前。


 ──291位バーナード・トレイン。


 彼が俺の対戦相手だろう。

 誰なのかは分からないな。


「みんなはどうだった?」

「私は別に魔術戦はしませんよ、カレンちゃんの相手が知りたかっただけですし」

「私もあまり成績の良い方ではありませんし……」


 アメリアとクラーラさんはどうやら魔術戦をしないようだ。


「私は……前回と同じ方ですね」


 カレンはそう答えた。

 その顔は真剣だが、余裕さも見える。

 実際、前回のあの人が相手なら、カレンも余裕だろうな。


「よし、じゃあ頑張ろうか」


 イスカリオーテ達、そして人工魔族についてほとんど何も知らないまま、俺の3年次初の魔術戦は幕を開け始めた。


 ◇◇◇


「グルミニア、入るよー」

「失礼します。ハイトウッド先生」


 放課後。

 俺はカレンと共に、グルミニアのいる植物園へと来た。

 とある用事の為だ。


「お! アベルとカレンか!」


 緑の髪に、白衣を着た少女──グルミニアは入り口の近くにいた。

 どうやら植物に水やりをしていたようだ、アマネと共に。


「……アベル。……と、妹」


 アマネはグルミニアの横で、透き通った金の髪を揺らし、眠たげな瞳でこちらを見つめる。


「アマネもいたんだな」

「……いえす」

「こんばんは、ハルデンベルク先輩」

「……はろー」


 カレンは「こんばんは」って言ってのに「はろー」で返すのか……。

 アマネの言葉選びは難解だな……。


「まぁいいや、手間が省けて助かったよ」

「ん? どういう事なんじゃ? それに、二人して何の用じゃ?」

「来週皆で宮殿に行こう、ってなって……それで二人を誘おうと思ったんだ」


 オリヴィアはこの前誘ったけど、この二人はまだ誘っていない。

 だから今日の内に誘う事にした。


「おぉ! そういう事なら、わしも是非行きたいのじゃ!」

「……みーとぅー」

「良かった。日曜の昼に南門の前集合でいい?」

「問題ないぞ」

「……大丈夫」

「じゃあ決まりだな! 二人共、明日頑張ってね」

「はぁ……そうじゃな……」

「……頑張る」


 グルミニアのため息がやけに重かった気もしたが、俺とカレンは「ははは……」と笑いながら二人と別れ、植物園を後にする。

 そして校門を抜け、いつもの帰り道を歩き始めた。


 植物園に寄ったおかげか、人の数はとても少ない。

 特に家の近くの通りに関しては人っ子一人いない。

 だから茜色の空の下、俺達兄妹は二人きりだった。


「お兄様の明日の試合を見られないのが、本当に残念ですね」

「仕方ないさ、時間が被ってるんだから」


 俺とカレンの魔術戦の時間が、完全に被っている訳じゃない。

 でもお互いの会場に来れるような暇はない。


 グルミニアはもちろん審判の仕事があるし、オリヴィアも絶妙に時間がかぶっているし、アマネに関しては俺が来るのを断った。

 必然的に残ったのはシモンだが、あいつはガルファの試合を見に行くらしい。


 結局俺の3年次初の魔術戦は誰も見に来れなくて、ひとりぼっちとなってしまった。

 ……結構寂しい。


「せめて断る権利があったらよかったんですけど……」


 カレンは2年次の首席だ。

 魔術戦の相手も選べないし、病気にでもならない限り断る事も出来ない。


「せっかくのお兄様の無双が見られませんね」

「無双!?」

「今のお兄様ならどんな相手だって余裕ですよ」


 まぁ確かに魔族との戦いを経験して、魔術も肉体も強くなった。

 カレンも俺の編入試験で見て、それは分かっているだろう。

 ……でもまだ奥の手をいくつか隠してあるんだよな。


 ハーフとして使える魔族の魔術。

 スキル『絶対真眼』と真祖の力。

 そして──時空魔術。


 ただ時空魔術に関しては、学院ダンジョンの地下に置いてある水晶を取りに行かないといけない。

 それに細かい指定や魔術式に関しても、ダンジョンに置いてきた本が必要だ。


 ……でも、時空魔術やその他の力について、カレンには決して言えない。

 下手に教えてしまうと、個人的な因縁にカレンを巻き込んでしまうかもしれないからだ。


 しかも理由はそれだけじゃない。

 何より、「ふふーん、すごいだろ!」って調子に乗った結果、負けたら恥ずかしい。

 だから俺は謙虚にいく。


「そうかな……? 俺より強い相手なんか一杯いると思うけど……」

「ふふっ、またまたご謙遜を」

「いや、謙遜では無いけど……」

「……謙遜ですっ!」


 突如として左腕を包み込む柔らかい感触。

 耳のすぐそばで聞こえてくる穏やかな息遣い。

 俺はカレンにまたもや抱き着かれた。


「ちょ、カレン!?」

「……朝はアメリアさんに邪魔されましたからね。その分、家まではこのままです」


 別にカレンに抱き着かれて嫌というわけじゃないし……むしろ嬉しい。

 でも人目が気にはなるし、知り合いがいたら大変だ。


 と思ったが、時間は夕方。

 周りを見ても、俺達の帰り道に人は歩いていない。

 なら──


「……家までね」

「……はいっ」

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