第88話 イスカリオーテ以外の魔族
「では、また明日」
ベルナール先生がホームルームを終え、教室から出ていく。
俺はそれを見て、すぐに席を立ち上がった。
「今日も帰り早いわね」
「そうかな?」
「うん……はっ! もしかして……また女の子?」
オリヴィアの視線が痛い。
昼飯の時にアマネの事を追及されてしまった。
オリヴィアはその時の事を言っているのだろう。
「違うよ、今度は男だよ」
「……本当? ま、いいけど。カレンちゃんを待たせないようにね」
「あぁ、分かってるよ。じゃあねオリヴィア」
「また明日、アベル」
俺はオリヴィアの別れの挨拶を背に、2組の教室へと向かった。
そして俺が2組の教室の前に来た時。
ちょうど、特徴的なロン毛の男が2組の教室から出てきた。
「よ、シモン」
「アベル、早いな」
「早めに帰りたいしな」
「なら早く人気の無い所に行こうか」
そうして俺達は屋上手前の踊り場にもう一度向かった。
その際、女子生徒の一人が、俺達の会話にびっくりして振り向いた気もしたが……俺は気付かないふりをした。
そして辿り着いた踊り場。
俺はシモンに質問した。
「で、シモン。イスカリオーテの他にはどんな魔族がいたんだ?」
俺が気になっていたことだ。
シモンによれば、スーツの魔族であるイスカリオーテの他にも魔族がいるらしい。
「俺が見たのは他に二人だ。一人は背の高い研究者のような女で、もう一人はイケメンの魔術師みたいな奴だった」
「名前はわかるか?」
「うーん、イスカリオーの奴しか覚えてないな」
そうか。
名前は分からないが、あと二人の魔族は確実にいるのか。
「まぁ仕方ないな、本拠地の位置は分かるか?」
「それは分からない。連れ去られた時も帰って来た時も意識は無かったからな」
「帰る時も意識は無かったのか?」
行きに連れ去られるのは俺も見ている。
だが魔族となった後の帰りは知らない。
「魔族になる薬みたいなのを打ち込まれた後は失神してしまったんだ。起きた時には王都の大通りにいたから、魔族の拠点はわからない」
「そうか……」
魔族の拠点がわからないなら、魔族を追う事は出来ない。
拠点を探そうにも俺とシモンだけでは限度があるし、無理をして一年前の二の舞にはなりたくない。
結局は後手。
どうしようもない。
「はぁ……」
現状では魔族達の目的がはっきりとしないが、何かの為に戦力を集めているのは確かだ。
もし、その戦力で重要施設や重要人物を襲撃をしてきたら?
考えるだけでも身震いしてしまう。
しかし、俺が考え込むのも束の間、
──バンッ!
と屋上の扉が開かれた。
「あなた達、何故ここにいるの?」
開かれた屋上の扉から、一人の女性が出てきた。
その女生徒は黒いお下げの三つ編みにメガネ。
とても真面目そうで、一見したら色違いのクラーラさんに見えなくもない。
だが強気そうな表情や顔付きは、明らかにクラーラさんと違う。
それにしてもこの人、どこかで見覚えがあるような……
「生徒会長!?」
シモンがそう驚いた。
……そうだ!
思い出した、この人は学院の生徒会長だ。
1年次は不登校、2年次はほぼおらず、3年次の入学式もサボった俺には全くと言っていいほど縁のない人物だが。
「用がないなら早く帰って勉強でもしなさい」
結構厳しめに怒られた。
……なんかムカつく言い方だな。
「君こそどうして屋上なんかにいたんだ?」
「私は魔方陣の点検をしていただけよ」
「そうか……ご苦労様だな」
「あなたにねぎらわれる筋合いは無いわ」
そう言って生徒会長は俺の顔を一度だけ睨み、その場を後にした。
「生徒会長だからって偉そうだな」
シモンはそう毒づく。
でも、これに関しては俺も同感だ。
「シモン、生徒会長はやっぱり成績もいいのか?」
「あぁ、学院4位だ」
「マジか」
学院4位なら、確実に俺と戦う事にはなりそうだな。
首席を目指す俺にとっての壁の一人。
そんな人とこんな所で出会うとはな。
俺の紅い瞳は険しくなる。
しかし、だからと言って何かがある訳じゃない。
俺はその後。
シモンと別れカレンと共に家に帰り、軽く魔族や生徒会長の事を考えながら眠りについた。




